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- Re: 風プロ パラノイア 〜Ep1〜 3-1更新 コメ求む! ( No.90 )
- 日時: 2011/08/09 14:31
- 名前: 風猫(元:風 ◆jU80AwU6/. (ID: COM.pgX6)
Episode1
Stage3「楽しもうぜ? 基本なんて良いじゃない適当で? 基本を疎かにすると死にますヨ?」Part2
「何だって……彼は、彼女だった……グフッ!?」
「…………博樹ィ? 浮気性は、何時か殺されるんだよぉ?」
ノーヴァの言葉を聞いて青年は、踵を返す。
どうやら、焔錠を探して自分のチームのメンバーにしようと思い立ったらしい。
焔錠が現実では、女性であると知るや否や、軟派でもするかのようなノリになるトレモロを見て近くにいた凡は、深い溜息を吐く。
そして、容赦なく彼の顔面に裏拳を入れ黙らせる。
「お見事」
そんな夫婦漫才の様な二人を見つめながら受付嬢は、迷いなく放たれた凡の右拳に目を向けながら感嘆の声を上げる。
速度、容赦の無さ、威力全てが、素晴らしいと彼女は、それを評価したのだ。
「所で皆様。 今日は、クエストを行いますか?
夜分も遅いので今日は、お休みになって明日からと言う方が、宜しいかと思いますが?」
そんな二人のやり取りを見て何人かの仲間達が、笑い声を上げる。
皆、家に戻れない事を知り、このゲームに参加してしまったことに後悔し、今後の過酷であろう日常に不安と恐怖を抱いていた。
ほのぼのとした雰囲気に、僅かながらに場の空気が和む。
それを確認したノーヴァは、彼等に問う。 今日は、是からどうするのかと。
「そうだなぁ……でも、俺等無一文じゃん? 宿とか泊まんないと寝れないんだろ? 駄目じゃん?」
朔が、正論を口にする。 この世界には、彼らの家と呼べる場所が無い。
一通り街中を歩いた彼等だが、ギルドメンバー用の宿舎などがある様子は無かった。
「…………あっ、忘れていた。
当ギルドでは、要らぬ事でユーザーの方々が死亡なされない様ギルド登録と同時に本来は、宿代や初期装備の充実化の為の資金を配布するのです。 最も、大した額では御座いませんがね」
メインコンピュータであるテッサイアの今回の行動は、実は、ノーヴァ達にも急を要することだった。
なまじ人間らしく造られていた彼女は、その急展開に冷静に対処しようと考えたあまりミスを犯してしまったのだ。
隣の下級者用受付である妹分に当たるリノアが、その様を見て可愛い物を見たとでも言いたげな表情を彼女に見せる。
彼女は、機械的な仏頂面を僅かに赤らめるのだった。
「大した額じゃないってどれ位ぃー?」
金と聞いた瞬間から目を爛々と輝かせていた玖龍が、身を乗り出して積極的に問い掛けて来る。
彼女は、昔は、有名会社の令嬢だったのだが、今では、没落しその日暮も実は、厳しいと言う状況に陥っている。
そのため、金と言う物に常人以上に反応するのだろう。
そんなことなど露知らぬ、彼女とチームを組んだ仲間達は、怪訝そうな顔をする。
「宿で暮らすだけなら一週間程度暮らせますが……貴女方は、是から此処で二年間生きないといけないと言うはお忘れなく」
彼女の言葉に皆が、そんなことは当然だろうと毒づく。
その様子を見て一応、それなりに状況を理解しているのだなと安心した様子でうなずき彼女は、皆に、金の入った封筒を渡した。
「それでは、お休みなさい皆様。 今日は疲れたでしょうのでごゆるりと……
あぁ、そうそう、本クエストを受ける前にチュートリアルで基本を学んだほうが良いと思います。
チュートリアルは、私に話しかければ体感できるので……では、また明日」
彼女は、宿泊施設へと歩き出す面々を見送りながらぺこりとお辞儀をする。
「お姉さん? チュートリアル、今日でも良かったんじゃ無いの?」
姉に当たるノーヴァに、リノアが語りかける。
それに対し彼女は、目を細める。
「お客様を慮るのは、私達の役目です」
彼女が、一言それを言い切った時、一人の男が現れた。
現実では女であると言うことをノーヴァにより暴露された焔錠だった。
「クエストを受けたい」
ご条件はとノーヴァが聞くより速く彼は、はっきりとした口調でクエストを受注すると宣言した。
彼女は、チュートリアルで確認操作もせずにいきなりクエストをするのかと問う。
「クエストを失敗したらチュートリアルを受けるで御座る。 少し、気分が悪いゆえ、本格的なスリルを体感したいだけで御座る」
訝しい顔をする彼女に、そこに隠れていたと示唆するようにギルドの扉を指差すと、少し時の篭った声で彼は答える。
成程、先ほどの事は聞かれていたのかと悟り、彼女は自らの短慮さを自嘲する。
そうして、プレイヤーの意向を無視することは出来ないと心に言い聞かせ受注可能なクエストを選びカウンターに出す。
「どれになさいますか?」
受注された用紙をつぶさに彼は、確認し一切の言葉無しに選出したクエストの紙を渡す。
「お客様、このクエストは今のお客様には多少厳しいかと……」
彼は、渡したクエストの中で最も何度の高い物を選んできた。
彼女は、血相を変える。
確かにユーザーの意向を無視することは出来ないがそれと是とは別だとばかりに声を荒げ抵抗する。
唯のゲームではなくなってしまった。 命が掛かっているのだ。 しかし、焔錠は怜悧な瞳を向け黙殺する。
「…………もし、危ないと思ったら直ぐにリタイアするように!
リタイアしたらペナルティとして資金の二割を失いますが、命よりは軽いものだと割り切って下さい」
忌々しげに歯噛みし彼女は、彼に命を大事にするようにと告げた。
彼は、小さく頷いてギルドを後にした。
「あぁ……何、あったし面倒なことやってんだろ?」
人通りの少ない道の真ん中で彼は、現実世界での本来の口調でポツリと言った。
そうして、クエストの内容を思い出す。 街の北部の湿原地帯の中にある洞窟に巣食う怪物の討伐と言う物だ。
初心者と一口に言っても更に、ランクは細分化される。 全部で十段階あり一から三が初心者下位、四から七が初心者中位、八から十が初心者上位と言う具合だ。
言わば、今、彼女が受注したクエストは初心者のランク一からランク二へと昇格するための昇進クエストだ。
初心者になり立ての彼女が、打破できるクエストではない。
本来は————
「ふふふ、ストレンジアさんってば酷いわぁ。 屑だなんて。 あーぁ、涙出てきた!
何かスカッとしたいなスカッと! あぁ、そう言えば死んだら元の姿に戻るんだっけ?」
焔錠を眼にした女は、可愛らしく小首をかしげ舌で唇を嘗め回す。
そして、カモでも見るかのような瞳を彼女に向けながら歩みよる。
このゲームの特徴の一つにこう言う物がある。 クエストを受注した後も三人一組までならパーティを作ることが出来る。
チームを組まずにフリーで行動している者か一人パーティに空きの有る物に限られるが。
そして、彼女は、チームを組まずにフリーで行動するユーザーの一人だった。
————世界には、様々な欲望が渦巻く物だ。 個性と言う物が存在する限り、その個性と同数の欲望が有る
——牙を剥く。 牙を剥く。 美味しいお肉に突き立てる。 濃厚な味が広がる——
快楽と言う名の甘い果実の美味が————
⇒Part3