ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 黒蝶は夜に輝く ( No.10 )
日時: 2011/07/09 20:28
名前: 華世 (ID: 9QYDPo7T)

♯3 歪な過去は何処へ消えた



「どうしたんだい?」
 
いつからいたのだろうか、兄——黒田一樹が立っていた。
 黒いジャケットに紺のジーンズと、いかにも今流行と言う感じの青年だ。
「兄さん……」
 魅栗は心配する一樹に優しく微笑み、後ろを向く。
「ちょっと、昔の事を思い出して」
 その言葉を遮る様に、魅栗を抱きしめながら呟いた。
「そうか。魅栗もそろそろ寝たほうが良いよ」
 そう言い残して一樹は自分の書斎へと戻って行った。

 書斎に戻った一樹は、一枚の写真を手に取り過去の事を思い出す。
 ————あれから6年か。
 写真を眺めて、そんな事を思ってみる。
 写真の中の幼い少女達は、無邪気な笑顔を浮かべていた。
「しかし、恋華の記憶はまだ戻らないんだね」
 眺めていた写真を引き出しにしまい、腕を組んで目を閉じる。
「戻ったときの反応が楽しみだなぁ」
 彼が内面に秘めた過去。
 それはまた別のお話————。

             *  *  *

 時計の針は午前0時を指している。
 黒田恋華はまだ眠りについてはいなかった。
「思い……出せない……」
 高い天井を見つめ、過去を思い出そうとする。
 だが、記憶消失の少女には無理のある事だった。
 その時、恋華の右目に言い表せないような激痛が走った。
 過去を思い出すなという様でもあるように。
「くッ……傷が痛むわ」
 右目に巻かれた白い包帯の上に両手を覆った。
 
「まあいいわ。いつか、必ず……思い出してみせるから」