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Re: 黒蝶は夜に輝く ( No.32 )
日時: 2011/07/27 22:30
名前: 華世 (ID: 9QYDPo7T)

♯7 運はどちらの手に



「ところで、俺に勝負を仕掛けたのは何故なんだい?」

 『闇のギャンブラー』と呼ばれる男が、目の前の少年に問いかける。
 その少年——黒田一樹は、男の問いに淡々とした口調で答えた。
「お金ではなく、貴方の妹を頂きに来ました。駒崎裕介さん……」
「……面白いねぇ。さぁ、そろそろ始めようか?」
 裕介は、ワイングラスの中の水割りウォッカを一口飲んで立ち上がる。
 水割りとはいえ、非常に刺激の強いウォッカが彼の気分を最高潮にさせた。
「俺を甘く見ないでくれよ?」
 そして、自分の力を信じてルーレットを始める裕介。

 彼は、どんな時でも自分自身を信じている。
 果たして、運なのか誰も知る由は無いのだが、実際に負けたことは無い。
 だからこそ、彼は一樹との勝負を引き受けたのだ。

 ルーレットの玉はグルグルと淵を回っており、次第にスピードを落としていく。
「…………」
 何となく、外れそうな予感がした。
 今まで外した事は無かったが、今日に限って嫌な予感がする。
「どうかしました? まさか、外しそうとか……?」
 背後でルーレットを眺めていた一樹が、皮肉交じりの疑問を裕介にぶつけた。
 それに答えることも無く、裕介は呆然と玉の行方を追っている。
 そして————。

 カタッ……

 裕介の予想通り——玉は見事外れた。
「……ッ!」
「……外れましたか。まあ、次は僕の番ですので」
 特別、驚きもしない一樹に緊張感を覚えたが、冷静になろうと心を落ち着かせる。
「行きますよ……?」
 一樹のルーレット玉は、勢い良く回り始めた。
 ————入るな……外れてくれ。
 裕介は心の中で祈るが、全ては一樹の運。
 玉は速度を徐々に緩め始め————。

「……僕の勝ちです、裕介さん」
 
 今、一番聞きたくない言葉が相手の口から放たれた。
「嘘だ……嘘であってくれ……!」
 それは嘘などではなく、紛れも無い事実であり……
 同時に、裕介は大きな過ちを犯してしまった。
 ————くそッ……ウォッカの刺激が強すぎたか。
 そんなことを考えても、もう遅い。


 『闇のギャンブラー』と呼ばれた駒崎裕介は今宵、初めて賭け事に負けたのだった————。