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Re: 黒蝶は夜に輝く ( No.41 )
日時: 2011/07/29 23:23
名前: 華世 (ID: 9QYDPo7T)

♯8 裏取引と記憶消去




 暗く、怪しい闇カジノ。
 先ほどから続いていた長い沈黙を打ち破ったのは、黒田一樹の方だった。

「……さあ早く、貴方の妹を渡して下さい」
  
 その言葉に、裕介は虚ろな顔で静かに頷き、隣で寝ている妹に目を向けた。
 今の現状を知らずに眠る色白の少女。
 綺麗な栗色の髪は、裕介によく似ている。
 妹の寝顔を見て、裕介は悔しそうに歯を食い縛った。
「俺を許してくれ……!」
 そして、一粒の錠剤を少女の口に入れた。
 
 記憶を消す薬————プロプラノロール。
 
 本来、心臓病患者に用いられる薬だが、闇カジノという裏ルートからは簡単に手に入ってしまう。
 自分の犯した罪を全て忘れ去りたい。
 だが、妹だけは記憶に残しておきたい。
 2つの感情が混ざり合って、彼の心を駆け巡る。

「早く……早く妹を連れて行ってくれ……!」

 裕介は怒鳴った。
 冷たい目で自分を見つめる黒田一樹に。
「では、之にて失礼します」
 一樹は一礼をし、眠っている裕介の妹を抱きかかえて去って行った。

 
 裕介は大きな罪を犯した。
 自分の理不尽な賭け事で負け、妹を売った。
 だが、自らが犯した罪は消え去る事は無いだろう。
 ————くッ……あの勝負を断っていれば!
 自分自身への怨みと、怒りに唇を噛む。


 それが彼の犯した大きな、大きな罪だった。