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Re: 黒蝶は夜に輝く ( No.5 )
日時: 2011/07/03 20:12
名前: 華世 (ID: 9QYDPo7T)

♯1 天使に愛された悪魔



 嫌い、嫌い、大嫌い。
 この世で一番大嫌い。


 少女は、星空と共に白く輝く満月を眺め泣いていた。
 そして、月の光に照らされる一筋の涙も、美しく輝いていた。

 その名前は、黒田恋華。
 6年前の記憶が無く、右目を失った浮世離れした美少女。
 勿論、右目を失った理由など知る由も無い。
 只、はっきりと確信しているのは、双子の姉が大嫌いだと言う事。
 その理由さえ解らない。

「……入ってもいい?」

 この世で一番嫌いな人間の声がした。
 恋華は扉の方へ目を向けずに「どうぞ」と一言呟いた。
 静かに扉が開き、恋華と同じような顔をした少女が顔を覗かせる。

 彼女は、黒田魅栗。
 美しく透き通るような白い肌に、栗色のショートカット。
 純白のミニワンピが強調するボディラインは、恋華とよく似ている。
「……姉さん、何の用?」
 半分厭きれたような顔で、恋華はガラス越しに映る姉の姿を眺める。
 魅栗は、窓の外を眺めている妹に近づいて行き、後ろから抱きついた。

「恋華、愛してる」
「…………」

 返す言葉が無いわけではない。
 返そうと思えば、幾らでも文句くらいは言える。
 しかし、言葉を返したとしたら、魅栗は恐らく“愛してくれている”と思い込んでしまうだろう。
 それだけはどうしても避けたかった。
「やめて」
 ぴしゃりと言い放った妹に竦みながらも、静かに微笑む。
「そう言おうと、あたしは貴方を愛してるから」
 そう言い残して部屋を出て行った。
 
 ————大嫌い。
 魅栗に対する恋華の思いは、そういうものでしかなかった。
「姉さんなんて大ッ嫌いよ……!」


 先ほどまであんなにも美しく輝いていた満月は、雲に隠れようとしている。
 まるで、悪魔が天使から逃れるように。