ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 極彩色の紹巴—オリキャラ募集中?— ( No.37 )
- 日時: 2011/11/10 18:59
- 名前: 華京 ◆wh4261y8c6 (ID: yE.2POpv)
男は途中で馬を捨ててきたことを後悔した。
せめて馬を休ませてからもう一度乗ってくれば、もっと早く付けたかもしれない。
と考え直したのだ。人間は焦っているときほどバカをやらかすものだな、と男は苦笑した。
そして、完全なる闇を手探りで進む。
偶に木にぶつかって枝葉が傷を掠めることがあったが、それでも男は諦めずに進んできた。
そして、高名なる陰陽師、工藤紅の面会許可を求めるべく叫ぶ。
が、己の声が暗闇に木霊するのみでほかには何の変化も無い。
男はため息を吐いて、諦めかけた。そのときだった。
「貴方が青龍王の使者か」
急に陽光が降り注ぎ、男は目を細めた。
が、直ぐに慣れたのか声の主を見てあからさまに驚愕の表情を浮かべた。
声の主は、面会を求めていた人物、工藤紅だったのだ。
男は、紅の紅蓮の眼帯と腰の刀を見てもっと低い声かと想像していたのであろうか、紅の出した中性的で柔らかい声にたじろぎ、一寸遅れて跪いた。
「青龍様に御仕えしておりました、クラウスと申します、急ぎご報告を……」
クラウスがそこまでいったとき、紅は優しく微笑んで彼の手を取った。
「待て待て。堅苦しいのは無しだ。貴方も長旅で疲れてるだろうに。立ってくれるか?」
芥子色の髪の男、クラウスはそのままの身なりで来たことを後悔した様子だった。
伝えなくてはいけないことが多すぎ、その重圧に押しつぶされそうになっているのだろう。
顔から見て、彼はまだ若いのだろうから当然である。
「しかし!」
「茶と菓子を用意した、そちらでどうかな」
紅はいらだった様子のクラウスに向かって微笑みながら軽くあしらうと、日の照る庭へと案内した。
桜の花びらが降る庭は、小さな池もある。
王宮の春の庭に似せて作らせたと紅が言いながらクラウスの方をちらりと振り返ると、クラウスは桜や池の美しい風景に夢を見ているのではないかとでもいいたげな顔をしていた。
そうしているうちに、桜の木の下についた。
そこには、純和風の作りである紅の屋敷にはには似つかわしくない西洋の象牙色のテーブルと椅子が二脚ちょこんと置かれている。
湯気立つ茶器に注がれた茶はどうやらこのあたりでは稀少な「紅茶」であるらしい。
そして、その隣には焼きたてなのか甘い臭いが漂う焼き菓子が添えられている。
思わず、クラウスの鉄紺の目から涙が零れ落ちた。
何か痞えが取れたようにクラウスは泣いた。
「ふっ……うっ……」
「屋敷にあったものは僅かなものでね」
「いえ……僕なんかのために」
「……よくぞ生きて参られた、クラウス殿」
鳴咽を漏らすクラウスの肩を、紅は優しく抱いた。