ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

ブラッドクリムゾン ( No.43 )
日時: 2011/09/07 16:58
名前: 華京 (ID: jklXnNcU)

「……暇だ」



寝室で、もう外では太陽が高く昇っているというのに、あー、だの、うー、だの奇声を発しながら布団の上を転がりまわる彼女。

このふ抜けた様子を見て誰がこの人物を「つき姫」「妖殺し」と恐れられる工藤紅だと思うだろうか。

だが、彼女がこのような状態に陥ってしまうのは自業自得なのである。

彼女はよく机仕事を溜め込むため、終わるまで部屋から出してもらえないのだ。

つまり、彼女はまったく暇な訳は無く、せっせと仕事をこなすべきなのだ。

だが、彼女は仕事なんて無く、まるで自分を閉じ込めている部下が悪いといわんばかりにぶつぶつと愚痴を吐くと、はたと動きを止めた。

そして、ぽん、と手を打つ。



「脱走しよう」



言うが早いか紅は桐箪笥から己の戦装束を取り出した。

そして、念のため、と傍らに置いて置いた刀を腰に挿す。

そして、押入れの奥から紙と筆、そして硯を取り出すと、屋敷の見取り図を書き始めた。
そして、屋敷内の己の居る場所に丸印を、屋敷の外にも丸印を一つ書き入れた。

そして、紅が両手でその丸印を押さえる、と。

紅の姿は寝室から消えて、
その代わりに屋敷の結界の外、紫狐紅の森の中に紅の姿が現れた。



「相変わらず暗い森だな……」



紅はそう呟くと、大きく伸びをしてそれはそれは嬉しそうに、微笑みながら息をついた。


その刹那。



何の前触れも無く閃光が辺りを埋めた。




紅は紫狐紅の暗さに慣れていた為、不意打ちの眩しさに目を細め————そして腰の刀の柄をつかんだ。

いきなり異質な気配の『何か』が現れたからだ。

紅は暗闇の中、こちらを見ている『何か』にドスの聞いた声で話かけた。



「おい、貴様は『何』だ?」

「……『何』か? 吾輩の姿を見て——いや、暗闇で見えるはずも無ければ、吾輩が何かも君には理解できないだろうね。いやはや失敬失敬」



人を馬鹿にしたような言い方に、紅はたたっきってやろうかという思いが浮かんだが、踏みとどまった。
そして、同じ質問をもう一度投げかける。



「貴様は『何』だ?」

「……吾輩は——」



『何か』が言いかけたときだった。

また閃光が辺りを埋める。

紅は気配を感じた。
異質な気配がもうひとつ増えた事と
屋敷の方、つまり紅の背後からの気配が近づくのも。



「姐さん!」

「姫!」



松明の明かりが二つの『何か』を照らす。

現れたのは、膝辺りに届く金の長髪に宝石を貼り付けるという悪趣味な装飾をした金色の悪趣味な外套を羽織った男。

そして、左腕の手首から肘の中央に深紅の刃を持つ赤い髪を持った少年だった。

部下、そして紅の目の色が変わった。



「おやおや、危険だねぇ。吾輩は失礼するか」



金髪の男はそう笑うと、先ほどよりは弱いが閃光の後に姿を眩ませた。

部下はそれに困惑したが、紅はそれにかまわず、というか部下の動揺の声が聞こえていないのか、左腕に深紅の刃を持つ少年を睨み付けていた。
不可解な現象とその刃から、少年を妖怪と断定したのだ

相手も同じようにこちらを睨み付ける。

そして、木の葉が松明で照らされて落ち、地面に触れた。

その瞬間、二つの紅は交錯した。

ギリギリと少年の深紅の刃と、紅の刀が噛み合う。

刀が刃に押されて紅の方へと近寄ってくる。

紅は、少年の力に押されて忌々しげに舌打ちをすると、素早く距離をとってから常人には見えぬ程の速さで疾走して刀を少年の胴めがけて横に薙ぐ、紅の深紅の瞳が流星のように尾を引いた。

少年は腰を落として紅の刀を己の刃で受け止める。

そして紅の一撃を受け止めたまま、己の間合いに入った紅の腹に思い切り蹴りを叩き込んだ。

「………ッ!」

紅は己の腹へと決まった一撃にたたらを踏み、咽返って苦痛に顔をゆがめる。
紅はそれならば、と呟くと、刀を指の腹でなぞる。
紅の指から血が滲み、刀に滴る。

すると、紅の刀に炎が宿った。

少年と部下は目を見張る。
紅は口角を吊り上げた。

「妖、この炎に焼かれれ消滅するが良い」

そして、少年に向かって炎が放たれ、少年は紅の金縛りに合い身動きが取れぬまま、その業火を浴びた。
少年は消滅した。『ように見えた』

少年は炎を真正面から浴びたにもかかわらず、傷ひとつ無くたっていたのだ。
紅はそれを見て目を見開く。
そして、刀を納め平伏した。

今度は少年、そして部下が目を見開いた。

「貴殿を妖と間違え攻撃してしまいました事誠に申し訳御座いませんでした」







その後。
部下は紅をかばって号泣しながら前に立ちはだかるわ少年は状況が良く飲み込めないやらで、騒ぎが収まったのは数十分後だったとか。