ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

ブラッドクリムゾン ( No.47 )
日時: 2011/09/27 19:21
名前: 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE (ID: 6iekfOAS)
参照: 作業用BGM:矢島美容室『ニホンノミカタ 〜ネバダカラキマシタ〜』



「———成程、つまり」

 紅の屋敷で、屋敷の主とその部下…それと紅の髪の少年が全員正座していた。

「貴殿は、『ぱられるわあるど』…つまり別の世界から

 あの不審な人物を追ってきた『あんどろいど』だと、そういう事だな?」

「まあ…はい。そういう事です」

どうにも微妙な表情の紅の心中を察するに、聞き慣れない単語や突拍子もない経緯に理解が追い付いていないようだ。

無理もない。

例えばいきなり『実は俺、火星人だったんだ』と真顔で言われたとする。

例えそれが事実であれ虚偽であれ反応に困るだろう。つまりそういう事である。

本当に厄介なのはそれが事実だった場合であり、また今がまさに『本当に火星人だった』状況である。

無論これらは例え話であり、この少年は決して火星人ではない。

 ただ、れっきとした『人造人間アンドロイド』なのだが。

そもそもの話として、この世界の人間にとっては

『あんどろいどってなんぞ? え? 何々? 意志を持ったからくりの人形? へー、そうなんだ。…ゑ?』

みたいな感じなのだ。

 しかし不幸中の幸いといえるのは、この世界に魑魅魍魎共が在ったことであり

またそいつらを祓うことのできるこの『工藤 紅』という人物に遭ったことであろう。

現に、紅は先程空間を刹那にして飛んでみせたのだ。

例え別の世界が存在して、またその世界に世界を飛び越える術が存在していたとしても

「不可能ではない、か……」

「…信じてくれるんですね?」

「意外か?」

多少の不安を持つ紅い髪の少年の表情を見て、紅は笑みを浮かべながら一言だけ言った。

「異世界に飛んだなどという題材の小説などは多く、ボクが持つ記憶媒体の中にも幾つかインストールされています。

 ただその内容の中には多かれ少なかれ

 自分が飛んだ先の世界の住人にはその事実を信じてもらえないという内容がありますから。

 たとえ創作であったとしても、そういった人間の心理を表す部分に於いては特に馬鹿にならないのです」

「いや待て。え…何? きおくばいたい? いんすと? え?」

「あ、えとすみません。そうか、世界観に相違が……」

信じる信じないよりも、先ずはこの辺りが問題だろう。

『SAMURAI(サムライ)』とターミネーターの奇跡のコラボが実現したようなものなのだから。

世界最強の近接兵器と謳われる『KATANA(カターナ)』と文明の利器代表『ましんがん』の注目の一戦はさておき。

「…ともあれ、そうとは知らず貴殿に攻撃を仕掛けた事については誠に申し訳なかった」

「いえ、むしろ仕事熱心なんだなあ、と感銘を受けました」

「そ、そうだな。あは、あはははは」

じとりと部下に横目で見られる紅は、自分があそこにいた理由が

溜めこんでいた仕事から逃げたからだとは絶対に言えない。

「それにしても、魑魅魍魎が跋扈する世界とそれを退治する陰陽師か。…すごいなあ。

 文献では見たことあるけれど、まさか自分がその世界に来ることになるなんて」

「それはそうと、貴殿は大丈夫なのか?」

紅は一つの疑問を提示する。

先程の話が本当であれば、この少年はあくまであの奇妙な男の奇妙な能力によってこの世界に来たのだという。

だが、この世界にはそういった世界を超える技術はおろか『あんどろいど』さえも存在しない。

「貴殿はこのままでは元の世界へは帰れないのではないか?」

紅がそう思うのも当然であり、

「ええ、その通りですね」

少年がそう答えるのも当然であった。

「おそらく元の世界に戻るにはあの男を捕えて、能力を使わせて再び元の世界に飛ぶしかない」

 つまり、もしかしたら永遠に元の世界に戻れないかもしれないという危険性を前にして

それでもこの少年…もとい、『あんどろいど』は自分のやるべき事を果たすためにやってきた。

「一つ訊いても良いか?」

少年は無言で頷く。

「ここまでして果たさなければならない程の、貴殿の使命とは一体何だ?」


「あの男を…いえ、『違法人造人間』を破壊することです。『断罪者』の一員として」


 紅には『断罪者エクスキューショナー』というものがどういうものであるかは、いまいちピンとこない。

ただ少年が言うには『暴走した人造人間、違法で製造された人造人間、またその原因の追及と抹消』らしい。

紅は『断罪者』というものがどういうものであるかはよくわからない。

しかし、『秩序を守る』という点において何らかの共通点を見出せずにはいられなかった。


そして使命感を帯びている、自身と同じ深紅の瞳にも。


「…よければ、その男を捕えるのに私も協力させてもらえないだろうか」

紅の突如の提案に、少年は目を丸くする。

「これでも腕に多少の覚えはある。

 妖を祓う私の術が彼奴に通用するかどうかはともかくとして、案内役も必要だろう?

 或いは、向こうが妖たちを味方につける可能性もあるだろう。そうなればいよいよ私の出番だ。

 何より、先程誤って斬りかかったことの詫びであり———」

一息置いて。

「私の知っている範囲の異変ならば、私にもそれを未然に防ぐ権利も義務もある筈だ」

「………………」

紅は少年の目を見据え、少年もまた紅の目を見据える。

少し続いた沈黙は、互いの使命感の量り合いであった。

「…オリハルコンの刃の一撃を防いだのも事実、本来この世界の住人を巻き込むべきではないけれど

 しかし…一刻も早く解決するべきなのもまた確か。

 そうなると、やっぱり協力者が必要……」

少年はしばしぶつぶつ言いながら考え込んでいたが、やがて。

「———是非ともお願いします」

「こちらこそ、力を借りるぞ」

両者はどちらからともなく握手を交わした。

「こういう時に、丁度いい言葉があったけな…そうだ、『かたじけない』だ」

「其れも此方の科白だ。ところで、貴殿の名前は……」

そうでした、と少年は微笑んで。


「『ルージュ』、っていいます。よろしくお願いします」

「『工藤 紅』だ。よろしく頼む」


 両者の共通点は、血のように紅い紅い瞳の色。