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Re: 極彩色の紹巴—コラボなう— ( No.48 )
日時: 2011/10/15 13:27
名前: 華京 (ID: jklXnNcU)

「よし、じゃあ急いでは事を仕損じるというしな。戦闘準備も必要だし、今日はルージュ殿が来たことを祝って宴会だ!」
「了解です、姐御!」


紅の言葉にその場にいた部下達全員が勢い良く立ち上がって満面の笑みで拳を上に突き出した。
何だかんだ言って、彼らはお祭り好きなのである。


「腹が減っては戦はできぬ。ルージュ殿も心行くまで休まれよ」
「あ、はい。ありがとうございます。でも……」
「でも?」
「僕、紅さん達と同じものは食べられないんですよ」
「……そうであったか……」

紅はルージュの言葉に渋い顔をして黙り込んだ。
紅は人としか思えないルージュが自分達とは別の存在だという事をいまいち把握できていなかったようだが、食べ物の件でそれを再確認したらしい。
ルージュはそんな紅に微笑みかけた。


「大丈夫です。気にしないでください」
「だが……」
「大丈夫です」
「……そうか」


ルージュの微笑みと再度繰り返された言葉に、紅は頷いた。
しかし、まだ渋い顔だったが。


「兎に角、部下には芸達者もいるからな、楽しんでくれ」
「はい、楽しみです」
「うむ。……あぁ」


紅はルージュの言葉に嬉しそうな顔をして、そして思い出したようにぽんと手を打つ。
ルージュは訝しげな顔で首を傾げた。


「宴会の準備をしている間、書庫を見ているのは如何だろう?」
「書庫、ですか」
「ああ、何か参考になるかもしれんしな」
「そう、ですね……」
「では私が案内しよう。こっちに……」


紅がルージュを案内しようとした時だった。
周囲の部下が紅の耳を引っ張って、囁く。

「姫? 執務終ってませんよね? 駄目ですよ? せめて半分は子の刻までに終わらせてください」


紅はそういわれて顔を強張らせた、が、悪あがきをしようと口を開いた。


「ほら、ルージュ殿はこちらに来て疲れているだろうし、此処は私が……」
「ルージュ殿を書庫につれていこうとしていたのは誰でしたっけ?」


ぴしゃりと言い放たれる。
紅は背中に『言い訳』とかかれた雪ダルマが日の光に照らされてどんどん溶けていく映像を頭の中で思い浮かべた。
ここは折れるしかないだろう、と考えた紅はため息をついてわかったよ、と返答した。
部下は満足そうにうなずくとほったらかしにされていたルージュに向き直り、事情を説明すると連れ立って歩き出し、廊下の角に消えた。
紅は心の中でいろいろ間違った決心をする。
負けるもんか!





それから数刻後。
宴会の準備がほとんど整った。
紅もボロ雑巾のように疲れ果てるまで部下と共に執務をしたが、そろそろ始まるという事で終わりを告げられる。
ボロ雑巾のようになるまでがんばった甲斐あってか、うず高くつみあがっていた書類の山は後数十枚程度になっていた。
紅は安堵の顔と共に、戦装束から着物へ着替える。
着物といっても、動きやすいように多少の改良がしてあった。
一応屋敷の主で女なので、格好はつけろと部下が口うるさいからだ。
紅はため息をつきながら立ち上がると、部屋の外にいた部下にルージュの居場所を聞いた、が。


「ルージュ様ですか? 見かけておりません」


という返事がかえってきた。
書庫にいるのか、と思ったが、紅が執務の処理を始めた時には日はまだ高かった、だが今はもう日は暮れかかっている。
こんな長い時間書庫にいるハズはない、と紅は笑ったが、どうしても気になり書庫へ足を進めた。






そして、結局書庫にルージュはいた。
紅は長い時間書物を読んでいた彼の集中力に素直に感心した。


「ルージュ殿?」
「……ああ、紅さん。どうしましたか?」
「そろそろ宴会が始まるので呼びにきたのだが……」
「ああ、態々すいません」
「いや……構わん。手がかり探し、手伝えずに申し訳無い」


静かに、そして申し訳なさそうに話す紅に、ルージュは苦笑した。


「大丈夫ですよ。あ、手がかりになりそうなもの、っていうか気になるものをみつけたので、宴会の後に見ていただけますか?」
「……ああ、わかった。では行こうか」


紅は礼を述べるルージュに静かに微笑み返し、先立って歩きはじめた。






広間には既に大勢の部下が集まっていた。
見ない顔のルージュに、事情を知らない部下達からの好奇の視線が容赦なくぶつけられる。
紅はざわつく広間の上座に立ち、勢い欲片足を振り下ろす。
ダァン! という音が響き、広間のざわつきはたちまち静まった。


「さぁて、静かになった所で、紹介だ。ルージュ殿」


こっちへ、という言葉の代わりに紅はちらり、とルージュをみやる。
ルージュは一瞬戸惑うような仕草を見せたが、紅の隣に並んだ。
そして、紅に促されて顔をあげる。


「初めまして、ルージュって言います」
「訳あって素性は明かせんが、ルージュ殿は我等の大切な客人! 無礼をしたら私の鉄拳を食らうと思え!」


紅の言葉に、周囲は威勢のいい返答を返す。
その中には、ルージュに向かっての「よろしくな!」「仲良くやろうぜ!」という言葉が混じっていた。
紅は満足げに笑うと、朱塗りの杯を持ち上げた。


「ようし、じゃあ宴会をはじめ……」


紅がそういったときだった。
襖がありえないくらいイイ音を立てて開き、まるで獲物を狙う鷹のような速さで誰かが部屋に入ってきた。


「ひぃぃいいめぇええさぁぁあまぁああ!」
「そげぶぅっ!? 耳が、耳がぁぁああ!!」


襖の開いたときの音で耳をやられたのか、畳の上を転がり悶絶する紅と平然とするルージュ。対照的な二人に部下はため息をついた。
そんな紅の様子を気に留めることもなくその誰かこと紅の部下は紅の前にすっ転んだ。が、彼は気にも留めずに顔を上げる。
その顔には先ほど畳の上を滑りながら転んだせいか、畳の跡がついていた。
だが、それよりも広間にいた人間の目を引いたのは彼の額に巻かれた包帯だった。
紅はまだ痛む耳をさすりながらも、鋭い視線を部下に向けた。


「……おい、それは誰にやられた?」
「俺の怪我なんてどうでもいいんス、姉御! それより、大変な事がッ!!」
「大変な事?」


紅が眉をひそめながらその部下に続きを促す。
部下は一呼吸置いて息を整えてから、口を開いた。


「全国の妖達が群れを成しはじめているようです! どうやら指導者は『金色の妖』だそうで……」


紅とルージュは互いの顔を見合わせた。
金色と聞いて、心当たりがあったからだ。
人造人間はこの世界にはもともと存在しない異質な存在である故に、妖と判断されるだろう。

——つまり。

ルージュと紅達が追っている人造人間が『金色の妖』として認識されている可能性は極めて高い。


「やれやれ、ゆっくり宴会をしていられなくなってしまったな。人生に必要なのは遊び心とお気楽さだと思うんだがなぁ……いや、この場合は妖生か?」
「……そうですね」


至極残念そうに言う紅に、ルージュは僅かな沈黙の後に同意した。
そして、ルージュはふと考えた。

本当にこの人に協力を仰いで正解だったのだろうか? と。