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Re: 極彩色の紹巴 ( No.7 )
日時: 2011/11/10 18:54
名前: 華京 ◆wh4261y8c6 (ID: yE.2POpv)

自分よりも体の大きな草食獣を食らう肉食獣のように、紅は次々と京都付近を根城とする妖達を払っていった。
そのような行為を幾度か繰り返すうちに、紅は全国の異形、或いは同業者に知れ渡る程の陰陽剣士になったのである。
勿論、襲撃される側の妖達も黙っているわけではない。
時に自分達から襲撃を仕掛け、時には今まで対立していたもの同士で徒党を組み、紅の襲撃に備えた。
ところが、紅の名前が知れ渡っていくにつれ、新たな事態が起きるようになる。
今度は紅の襲撃を待たずして、紅の元へと走る妖達が後を絶たないようになったのだ。
紅の武勇が他の妖達を圧倒するものだった、という理由も勿論これには関係している。
だがそれ以上にこの事態に大きく関係したのは、工藤紅の在り方だった。
この地方の妖達は、生きるために身を妖に落としてしまったモノが多く、自我のあるモノはできることならば過去の自分自身とも言える漁民や村民を襲いたくはなかったのである。
紅は、そんな妖を受け入れ、破魔札を貼る事によって人として自分の屋敷で生かす事を決めた。
それと猛一つ、妖達の間で工藤紅の名声を高めたのが、紅の屋敷で働く妖達への接し方だ。
いつの時代も、ドコの立場でも、自分の部下を自分の持ち物として扱う君主は少なくない。
だが、工藤紅は自身に対してはどんな態度で接しても構わないと言い、部下達を自身の家族のように扱った。
また、襲撃の際に、紅は必ず前に出て、部下の被害を出来る限り少なく抑えようと奮戦した。
数百名に膨れ上がった部下達の、末端の一人に至るまで名前も顔もしっかりと記憶し、部下達も強制されたからではなく、いつしか心の底から敬意と親しみを込めて紅の事を「姐さん」或いは「姫」と呼ぶようになったのだ。
これが、妖達を紅のもとへと走らせた理由であった。
戦いと、それによっ着実に高めた名声によって、一大勢力を築き上げた工藤紅は遂には彼等が拠点とする紫狐紅から自分達以外の妖の集団を殲滅、吸収することに成功したのだった。
かくして、全国の妖は、その圧倒的な力とその経歴の神秘性から工藤紅の事を『つき姫』、或いは『妖殺し』と称するようになったのである。