ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Sick ( No.2 )
日時: 2011/07/12 15:40
名前: Neuron ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)

病名、Ability Sick 。 これが、俺の病。
 そして、もう少し詳しくその病気のことを言うと、その病気はその名の通り、能力を発現する奇病だ。
 治療は未だ出来ていない。 そのくせ、この病気自体は100年以上も昔からあるというのには驚きだ。 何故、100年間もの間、治療が出来ていないのか。 疑問に思うかもしれない。 だが、治療法は見つかっている。 そして、治療が出来ない。
 治療方法はいたって簡単。 能力を酷使し、副作用を恐れることなく不死鳥の元にたどり着けばいい。
 この病で発現する力には、副作用がある。 そして、発現する力は二つ。
 意思に対応し、自分の意思で発動する思想発動。 それと、もうひとつ。
 意思とは無関係に、思想発動の能力を使うと勝手に発現する、副作用の二つの力。 そして、その副作用は人によっては副作用で無い場合も多い。
 故に、副作用と呼ぶ奴も居れば、二段階発動という奴も居る。
 そんな俺の発現した力は、中々攻撃的な力で、国から発動規制が掛けられている代物。 黒い雷電を操るというものだ。
 その威力は、スタンガンをはるかに凌駕するが、それだけのエネルギーがどこから抽出されているのかと聞かれれば、俺は分からないと言うほかないだろう。
 「検査終わりましたよ、現状はレベルⅡ、末期ですね」
 最悪の言葉が、今まさに俺に投げかけられたところだ。
 この病気は、レベルⅠからⅩまでに分けられる。 そして、そのレベルが小さくなれば成程、その能力の性能が上がる。 そして、副作用に発動される能力の発動時間も長くなる。
 そして、俺の副作用は元々長時間発動されるもので、末期を迎えた俺が副作用を起こせば、その副作用の発動時間は嫌に長いものになるという事だ。 ただ、副作用が攻撃的ではないという面では、喜ぶべきかも知れない。
 「副作用、どれくらいですか?」
 検査台の上から降りると、真っ先に口をついてその言葉が飛び出す。 今まで、能力を発動した事はあまり無いが、寝ながら無意識に一瞬の発動で半日副作用が出続けた事もある。
 「そうですね、一分で一日か、二日だとおもわれます。 ただ、実際に計測しない限りは不確定で……」
 「そう……ですか」
 確かに、この病には個人差がある。 そして、人類の六人に一人がこの病に罹っている。 つまり、今の総人口は約60億人。 つまり、10億人がこの病に罹っている計算になる。 そして、その病によって発現する能力は、同じにはならない。 双子で、同じ力の発現は有り得る。 双子でもない二人や、三人が全く同じ能力を発現したという例は無い。
 恐らくは、遺伝子によって違うのだろう。
 病院の受付に行って診察料を払うと、俺は外へと出た。 建物に閉ざされ視界は狭く、車道があって、歩道があって、街路樹が植えてあって、今は28世紀だと言うのにその景色は22世紀から変わってはいない。
 変わったとされている面は、建造物の構造や、宇宙旅行などが出来るようになったところだけだろう。 相変わらず、国は幾つも存在し、戦争もあれば貧困もある。
 21世紀から進歩していないと、最近はテレビでよく聞く。 だが、俺にはそんな事はさっぱりだ。 実際、21世紀からずっと生きてきたわけでもなければ、21世紀の町並みや生活を知っているわけではない。
 「昼、どうすっかな」
 その言葉とともに腕時計に目が行く。 時針が午後二時を指している。分針を見れば、もう二十分も無く三時になるという事も理解できると思う。 昼は、今日も抜きだな。 それか、帰ってカップ麺にでもするか……。
 そんな不健康な思考だから、こんな変な病気に罹るのか。
 そんな事を考えながら、道路を渡ろうと信号を待つ。 そして、その時だった。 車が一瞬途絶えた道路の真ん中に……黒猫が子猫をくわえ渡ろうとするが、子猫が車のエンジン音におびえ、暴れ、それを追いかける母猫と子猫が道路の真ん中を右往左往しているのだ。
 非常に、喜ばしくない状態。 そして、車が走ってきている。 運よく車体の下を猫が潜ればいいが、明らかにそこはタイヤが通るであろう場所。
 周りの人は、全員が気付いている。
 けれど、「たかが猫」なのだろう。 死んでも自分が困るわけでもなければ、死んだからといって自分に被害があるわけではない。
 ただ、猫が死んだという結果だけが残る。 つまり、そこに居た人間は自分が可愛いのだ。
 一人の小さな子供が、猫を指差し、
 「ママ、ネコさん車にひかれちゃう」
 そんなことを言うが、母親は子供が猫の元へ走っていかないように、その手を強く握る。 そんな中、俺の思考を無視し、俺の体は行動に移っていた。
 猫が車に轢かれる直前、黒い閃光が、車のタイヤスレスレを駆け抜ける。 さっきまで俺の居た対向車線に、俺と、猫の姿。
 逃げるか見ていたが、逃げなかったための止む終えない能力の発動だ。
 「……やっちまった」