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Re: welcome to heven 天国へようこそ ( No.3 )
日時: 2011/08/23 07:59
名前: 王翔 (ID: EMu3eY/n)

第三章


「そんなに暗い顔しないでよ、困っちゃうから」
 
 気付けばラファンが心配そうに俺の顔を覗きこんでいた。
 どうやら、俺は考え込んでいるうちに難しい表情になっていたんだろう……自分の表情は自分で確認できないから案外言われるまで気づかないこともあるんだな。気をつけるか……。
 初対面の相手を心配させるのはどうかと思い、俺は否定する。

「べ……べつに、暗いことなんて考えてないつもりだけど……」
「ふーん……それならいいや」
 
 ラファンは朗らかな笑みを一瞬俺に向けると踵を返し、足を踏み出す。

「ところで、どこ行くんだよ?」
「家かな? 僕の家でいい?」
「いいって、何だよ」
「やっぱり、来たばかりは一人暮らしは不便だからね。死喰人が来たら大変だし、僕が引き取ってあげるよ」
 
 引き取る、と言うのは俺の頭ではペットを引き取るとか子供を引き取るとかしか思い浮かばなかったので、少々機嫌が悪くなったが、それでも頷いた。
 まだ他に知り合いがいない。今、頼れるのはコイツだけだし、無下に断るわけにはいかない。


         ◆ 

 
 ラファンの自宅は、森の妖精さんが住んでいそうな可愛らしい外観の家をそのまま人が住めるサイズにしたような感じだった。
 クリームのような可愛らしい形の赤い屋根にまるでケーキのスポンジのように黄色いレンガでできている。
 天国の家は、どこもこんなにメルヘンなもんなのか。
 べつに、気に入らないわけではないけど……。
 家に上がらせてもらうとリビングに案内され、とりあえず俺はふわふわの雲のようなソファに腰掛け、目についたうまそうなクッキーをもぐもぐ食っていた。
 ラファンはにこにこと営業スマイルのような笑顔でコップにジュースを注いで俺の前に置いてくれる。
 うん、まぁ……それなりに親切な奴らしいことは分かった。

「瀬座、部屋は三つあるから好きなの使っていいよ。ラブリーなのとラブリーなのと、ラブリーなのがあるよ」
 
 好きなの使っていいって、一種類しかないじゃないか。
 コイツ、頭イってんのかね。

「あー……ラブリーなのでいいよ。つーか、それしかないんだろ」
「まあね」
 
 ラファンは苦笑混じりに言う。

「女の子の好きなものって分かりにくいから、あんなのしか用意できなかったんだよね」
「女の子…前に一緒に住んでたのいたのか?」
「うん、何人か……まあ、受け入れるのは一人ずつだけど」
 
 気付けば俺は、菓子を食うのをやめて暗い気分になっていた。

「まあ、みんなすぐ出て行くけどね」
「ふーん、そうなのか……」
 
 俺はラファンの話に耳を傾けつつケーキを手で掴んで丸かじりした。

「それにしても、瀬座もやっぱり女の子だよね。お菓子が好きそうなところとか」
「フォークで上品に食ってなくて、手で掴んで食ってる俺がか?」
「うん、とっても可愛いよ」
 
 ラファンは何かおいしいものでも食べた後のように朗らかに笑った。
 それ、動物みたいとか言うんじゃないよな?
 俺は愛嬌のあるペットと思われてないことを、クッキーに願った。