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Re: 始まりは復讐から‐殺人鬼になった少年‐ ( No.5 )
日時: 2011/07/24 14:16
名前: 奈美 ◆a00JQBXv3o (ID: FkTwM/pM)

第一章

「あいつがいなかったら、あいつさえいなければ———」

14になった雄人は、5才の時に母親をなくした。妹の命と引き換えに。その妹といえば、のうのうと暮らしているではないか。一言もしゃべったこともないし、生みの親をあの目で見たことさえないのだから。父親といえば、母親をなくしたときすぐに再婚して、妹は再婚した女が母親だと思い込んでいる。でも雄人は何もかも知っている。今の母親は本当の母でないこと、妹が生まれたせいで本当の母親が死んだこと、その時から宮川一家は変わったこと。

「奈那ちゃん? ちょっといい?」

妹が母親だと思っている女が、奈那を呼んだ。

「なぁに、ママ」

奈那が自分の部屋から顔を出して洗面所をのぞいた。奈那の部屋と洗面所は向かい合わせになっている。マンションだけど結構部屋があって、ここら辺では人気のマンションだった。廊下がまっすぐ伸びていて、玄関からすべての部屋が見渡せる。
雄人は、今の母親の事を紗樹さんと呼んでいる。小学三年生くらいまでは、『母さん』と呼んでいたけれど、だんだん年がたつにつれて、紗樹さんと呼ぶようになってきた。雄人は、ちょっと仕掛けてみることにした。

「紗樹さん、また洗濯機の使い方分からないんすか? もう9年主婦やってんすよ、いい加減覚えたらどうすか?」
部屋から顔を出して、洗面所にいる紗樹に呼びかけた。

「そうよねぇ、でもなれないのよぉ」

「もう! ママったら。いつまでもお子ちゃまね。」

「ひどいわぁ、奈那ちゃんまで。雄人くん、お子ちゃまはないわよね。」

(これでも気付かないか。奈那はどこまでバカなんだ?)

紗樹呼びかけをスルーして、自分の部屋に戻った。マンガでいっぱいの部屋は、ベッドへ行く道と、勉強机へ行く道とが分かれていた。勉強机へ行く道は、半壊している。雄人は迷わずベッドに直行した。道を無視して。当然、マンガは崩れ落ちる。

(母さんは、自分が死ぬことを知っていたんだ。なのに!)

涙が頬を伝って、枕が濡れる。ベッドはふかふかだった。実の母が生きているときは、母の匂いがしたのに、もうあの時の匂いはしない。ただ、さびしそうな太陽の匂いがした。雄人の心の中にある時計は、あの時から、秒針さえ動かない。あの時から、時は止まったままなのだ。急に眠くなって、そのままベッドで寝た。雄人は信じている。奈那を殺したら、自分の時計は、動き始めると。母の仇をとれると。

第一章終わり