ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 「Story」 ( No.1 )
- 日時: 2011/07/24 10:55
- 名前: 華京 ◆wh4261y8c6 (ID: ThA8vNRQ)
ある出会いを切欠に私は変わった。
それは今まで生きてきた自分の道を覆すほどの出来事。
蜘蛛の糸 —prologue—
生まれた時から何不自由なく生きてきた。
父親は幼い頃に蒸発したから、顔さえ覚えていない。
でも、暖かな手のぬくもりだけは覚えている。
母親はいつも仕事で忙しく、顔を合わせる時間は一週間に一時間あれば良い方だった。
小さい頃から感じていた距離——誰より一番身近な存在である筈の母親との距離は、いつも遠かった。
自分の母親は冷静沈着で隙の無い、非の打ち所も無い完璧な人だと子供心に尊敬していた。
子供の私から見ても彼女は氷のように冷たい美しさの持ち主だったと思う。
そのせいか、私には他の母親のように彼女から惜しみない愛情を注がれた記憶など殆ど無い。
それでも、母親が私に完璧を求めていたことはなんとなく分かっていたから、その期待に応えるために日々の努力を怠るようなことはしなかった。
勉強、運動、礼儀作法————数え上げればキリがない。
私の人生は母親によって既にレールを敷かれていた。
だけど、それを不幸と思った事もないし、今までの自分の人生に全く疑問を持たなかった。
そんな時に出会った一冊の本。
小学6年生の時に、私は一冊の本によって人生を変えられた。
それほど衝撃だった。
暇つぶしのため何気なく手に取った一冊の本から、私は目が離せなかった。
それは、自分の人生を自分の思うままに生きていく少年の物語。
中でも私が一番惹かれた部分はある一節。
「興味が無い、金も命も」
「ただ俺が楽しめれば、それでいい」
私は、ずっと自分の人生を楽しむことを忘れていた。
母親の言うとおりに過ごし、ただ笑顔を振りまき相手に失礼の無いように振舞う日々。
気がつけば、自分の笑顔が酷く作り物らしくなっている事に気がついた。
成長すればするほど感情が壊れていく自分。
ずっと必死でそれを食い止めていた私の心を、その本はあっさりと見破ってしまった。
何よりも求めていた、『楽』の感情を。
それから私が本に夢中になるのに時間はかからなかった。
本の素晴らしさに魅入られ、さまざまな情報が私を変えていく。
だけど、沢山の書物を目にした今でも、一番心深く残るのは最初に出会ったあの本。
「紫電スパイダー」
いつか、私も主人公の少年のように強くなれるのだろうか?
——初めて自分の人生に疑問を持ったのは、11の春。
——二度目の変化が訪れたのは、14の冬。
そして、自分の人生を決める婚約の席をすっぽかしたのは中学卒業後の春。
私は歩き出す————誰にも束縛されない自分だけの道を……