ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 4話。 ( No.9 )
- 日時: 2011/08/30 21:14
- 名前: 左倉. ◆Vag2WY00rE (ID: mtlvkoR2)
どうしてこうなった、と思わず聞きたくなるようなその光景を作ったのは、紛れもなく我らがクラスメイトであり、そうなる過程まで私はしっかり見て、ちゃんと記憶している筈だったのだけれど。
しかもそれはどうしようもなく現実で疑う余地などないのに、どうしても私はそれを聞かずにはいられなかったのだ、とちょっと格好良く纏めてみたりなんかして。
「……どうしてそうなった?」
要するに、私は現実であるはずのその事実を信じられなかったのだ、と。それだけの話なわけだが。
あいつ何やらかしたんだ、と囁くクラスメイト達の言葉を聞き流して、今まで彼がいた場所をぼんやりと眺めた。
……「雨宮和が無期限停学になった」と。
私が聞いた事実はそれだけだったのに、何故だかどこか、まるで何か大切なものが死んだかのような虚無感と衝撃を持って、私はその紛れもない事実を聞いていた。
今日は体調不良で休んでいるらしい彼の友人は、一体これをどう思っているのだろうか。
そんなどうでもいいことをぼんやりと考えながら、読んでいた本に目線を戻した。……私がそんな事を考えていても仕方がない。もう過ぎた事なのだから、と自分を半ば無理矢理納得させて。
※
痛い。
暫く感じていなかった痛覚にどこか懐かしいような奇妙な感情を抱きながら、隣でやたらと暢気に細い棒状の菓子を食べている友人を一瞥する。……何やってんだこいつは。
「お前、停学になったんじゃないのか」
ちなみに今居るここは保健室であり、体調のよろしくない、例えば今の俺のような状態の人間が休む所で、決して停学になった人間が暇を潰す場所ではないことを理解して貰いたい。誰に言ってんのか知らないけど。
そんな俺の思考も、わざと作った奇妙なものを見るような目も無視して、あくまでいつも通りの何も変わらない顔で菓子の入った箱を差し出す。……あの、やたらとチョコが甘ったるいことで有名な製菓会社のロゴマークが入っていた。
「食べる?」
珍しい、本当に珍しい。
こいつが自分の食べているものを人に差し出すところなんて、(少なくとも俺の経験上は)見た事が無かった。多分これからも見れないんじゃないかこんなの。
たべないの、なんて首を傾げてのたまうこいつに思わず馬鹿かおまえ、と盛大に突っ込みを入れたくなったが、そこは病人であることも手伝って(ちなみに頭が痛い)抑え込み、その代わりにぽつり、と一言呟くように言う。
「……俺、甘いもの苦手だって言わなかったか」
「そうだっけ?」
あれ、ちょっと前にも同じ会話したような……まあいいか。
何も変わらずに無邪気なままの友人に軽く溜め息混じりの生ぬるい息を吐いて、やっぱりこいつ馬鹿だろと再認識した。……ちくしょう。まあそんな馬鹿と付き合ってる俺も俺だけど。
今度は自分に対して呆れと諦めを込めて深くため息。「ため息つくと幸せ逃げるらしいよー、」とさして興味も無さそうに菓子をぽきり、と折って言い放たれた言葉に本当にデコピンの一つでもしてやろうかと思ったが(誰のせいだと思ってんだ!)、こらえた俺すごい。うん。
「……明日、」
不意に呟かれたその言葉に即座に反応出来なかった俺は当然のごとく「はぁ?」と(自分でも柄が悪いとは思った)間抜けな声を上げたわけだが、勿論あいつがそんなことを気にする筈もなく。
「お菓子用意しててねー」
へらり、といつものようなこっちがむかつく位の笑顔でそう言い残して保健室を出て行った雨宮に何も言えなかったのは俺だけのせいじゃないと思いたい。
……というか明日って、土曜日で学校休みなんだが。
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フラグ(?)と初めての前後編。
別になんか意味があるわけではないです。次の話にはなりますが。