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Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.1 )
日時: 2011/07/27 18:20
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)

 生きているのは、罪ではないと思う。 けれど私はあなたに謝らなければいけない。
 生きてしまって、生きていて。 殺してしまって、ごめんなさい。 と。
 私の命は、彼の助けなくしてはこの世にもう無かったであろうもの。 彼が、取引で私を救ったのだ。
 そう、悪魔との取引で。

 彼の願いは、彼女を救いたい。

 それだけで、大きなものだった。
 私と彼は、仲がよかった。 親友と言うものだったのかもしれない。
 彼は私が15の時、周囲の反対を押し切り、魔道師になると言って町へ出た。 私は村娘。 村の中しか知らない蛙だった。 そんな村が、ある日突然炎に包まれ、悲痛の叫びがこだまする地獄に姿を変えたのは、いつの話だっただろう?
 もう、3年前になるだろうか。 その話は、当然の如く彼の耳にも入った。 そして、村にも救助が来た。
 そのときの私は、体中の大火傷と、敵兵に切られた右肩から腰にかけて走る斬り傷で、出血多量。 医師にはもう三日持てばいい方だと宣告された。
 そんな中、魔術師になると意気込んで町に出た彼は、私を見つけ、傍らで崩れた。 私の言葉は、空気が口から漏れる音だけ。 それ以外には、動く事すら間々ならず、包帯が巻かれ、半ば死体同様。
 そこで崩れ落ちた彼は、しばらくすると立ち上がり、収容所を後にした。
 そして、翌日。 彼は再び、私の目の前に現れると、一言。

 「今夜、君に自由をあげる。 君の才能には、ボクは惹かれっぱなしだったよ。 ボクより君の方が、生きるに値する人間だ」

 それだけ言い残し、その日の夜中。 彼は、一冊の分厚い黒表紙の書物を片手に、私の目の前に現れた。
 そして、書物を開くと、なにやら呪文を唱えだし、詠唱する事約一時間。
 彼の詠唱が終わると共に、書物に記された陣から黒髪の男が現れ、私達を見下ろした。
 呆気に取られているものの、表情一つ変えられない私と、覚悟を決めたような表情の彼を。
 そして、その男の言葉は、

 「汝、何が望みだ?」

 単純明快、そしてこの上なく分かりやすい。
 何がほしいか。 それが、この男の問いだった。 彼は立ち上がり、

 「彼女に命がほしい。 このままでは、明日にでも死んでしまう」

 彼の言葉は、攻撃的だった。
 恐らく、相手は悪魔。 それと取引をするのだ、彼自身、求めるもの以上の見返を要求されるだろう。
 「止めて、殺して」そう叫びたかった。 けれど、喉を通り、口から出るのは空気の通る音だけ。

 「よかろう、では代償は何を選ぶ? 生半可なものを提示すれば、貴様もろともこの娘も殺す」

 ……数秒の沈黙。 そして、彼は口を開いた。

 「ボクの……命でどうだ。 命がほしいんだ、命を差し出して不足は無いだろう? それとも、ボクの魔力か、魂か。 何でもいい、ボクの持っているものを、全て持っていけ。 それで足りるはずだ」

 彼の言葉の後のことは、覚えていない。
 意識が途切れ、翌朝。
 私は、自由に動く体を手にした。 彼の全てと……引き換えに。

 そこから三年の月日は、彼女を更に苦しめた。