ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.12 )
日時: 2011/08/06 20:57
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)

                      Capitulo Ⅱ 『残酷は人により誇張する』

 体が、だるい。 意識が、朦朧とする。
 突如、彼女をそんな感覚が襲った。 だが、気絶する事はないはずだ。 いや、気絶するわけが無かった。
 しかし、悪魔の呪術と言うのは強力らしい。 気絶できないはずの彼女が、不死鳥の一声で気を失ったのだ。
 意識が戻ってきた。 辺りは、なにやら騒がしい。 

 「怪我人がまた来たぞ、10代中ごろと思しき少女が一名。 全身大火傷で死に掛けてる!」

 聞いた覚えのある台詞と、見覚えのある光景。
 まさか……。
 甦る悪夢。 これは、あの日運び込まれた私だ……。 それも、彼が来る前、死の足音を聞いていた頃の。
 彼が来てはいけない、彼が来るのを止めなければ。 彼がここへ来て、魔術を行使してしまえばそれまで。
 それまでに、彼を探し、全てを私の思うように修正できれば……!

 そんな考えの最中、

 「敵軍が第三防衛ラインを突破したぞ! 引け! 命が惜しい奴は引け! 怪我人は動ける奴は動けない奴を背負って逃げろ!」

 だれかが、叫んでいる。 このままでは、私は置き去りか。
 それも良いかもしれないが、私が彼と笑い合うときは無くなる。 不幸にはならないが、幸せにもなれない。

 「退け、私が食い止める!」

 アリソンが、先陣斬って突っ込もうとする兵団を手も触れず、吹き飛ばすと銃弾の嵐に構うことなく先頭に立ちはだかった。 今まで広範囲に広げられていた弾幕が薄れ、彼女を狙う。
 集中砲火、蜂の巣だ。 だが、彼女は不敵な笑みを浮かべ、その鉛球をその身に受ける事を躊躇しない。
 何発、銃弾を叩き込まれようとも、何処に銃弾が当たろうとも!
 痛いだけで、私は死なない。

 「命が惜しい奴は、今すぐに引け! 三秒だけ待つ。 3……2……1……激痛『シッカーペイン』!」

 コーン。 空き缶を指で弾いた様な音と共に、彼女の前にいた兵士の群れは、血液を噴出し跪く!
 彼女の瞳は怒り一色。 手加減などと言う概念は消え去り、目に映るものを全て。 敵と認識していた。

 「敵軍の魔術師だ! 引け! 新兵器の光線で焼かれるぞ!」

 敵の将が、叫ぶ。 目の前は、山。
 敵の新兵器の光線? 魔術具か? 私には……関係ない。

 「撃つと良い、そして知れ。 貴様らに対する、私の恨みを」

 アリソンは両手を広げ、的になる。
 一瞬、森の中で光を発する一点を目に焼きつけ、そこから飛んできた光線を、その身に一手に引き受ける!
 服が焼け落ち、皮膚がただれ、剥がれ、血が噴出し、眼球が剥き出しになる。
 だが……死なない。 死ねない。
 傷は瞬時に回復。 衣服すら、修復される。

 「その身に報いを受けろ、私の残酷を知れ」

 激痛……

 「痛みよ、大地を抉れ『フィードアウト』」

 呪文。 それと共に、恐らくは。 新兵器と呼ばれていたレーザーキャノンもろとも、彼女の受けた『痛み』は大地を切り裂き、山を吹き飛ばす。
 ペイン。 激痛転移系統の魔術は、確かに強大だ。 媒体が、痛みだけに死のリスクが伴い、術者の許容を越えた威力での発動が出来ない。
 だが、死ぬことの無い彼女にとっては、痛み程度であればどれだけでも。 苦痛に比べれば、なんてことは無い感覚だった。
 よって、その威力に上限は無い。 痛みを感じただけ、術式にその媒体が組み込まれ、増幅され、威力は際限なく増し続ける。
 まさに、彼女にはぴったりの呪術だ。 ただ、今の一撃に蓄積していた痛みを全て使ってしまった。 次にまた、このレベルの威力を撃とうとすれば、相当な量のダメージが必要だ。 どうしたことか……。
 その直後。 彼女に追い討ちをかけるかのように異変が起きる。 敵の再来を防ごうと、結界を張ろうとした時だった。 全く、魔力と術式が反応しない。 
 魔術が、発動しない……!
 何故? 激痛魔術は、魔力は大して使わないのに、何で! このまま魔力が無いまま、夜になって彼が来てしまえば、どうなるか。
 嫌なほど、分かっている。
 魔術が発動しないのを、確認したのだろうか? 彼女の背後には、無数の人影。 彼女は気付くことなく、再び魔術を行使しようとしている。
 そして、別系統の魔術に切り替え、地面に手を当てたときだった。 彼女の胸から、剣の刃が飛び出す。
 それも、次々と、容赦なく。

 「捕らえたぞ! 魔物だ!」

 兵士が叫ぶ。 そうか、私の扱いは……魔物か。 あながち間違ってはいないが、御幣が生じるな。
 私は、

 『魔物じゃない。 まだ、人間だよ』

 話をしようにも、剣に喉を貫かれ、空気がそこから漏れる音しかでない。
 自らを貫いた剣数本を引き抜き、彼女が起き上がると同時、

 「我が敵を縛れ『チェーン・ロック』」

 地面から無数の鎖が出現したかと思うと彼女の体の自由を奪う。 それと同時、彼女の瞳に映ったその魔術の行使者。
 それは、彼女にとっての『残酷』そのものだった。
 “彼”が、行った魔術。 敵の意識を奪い、動きを封じる魔術だ。 簡単で、強力。
 ただ、意識を失えれば幸せだった。
 意識を失うことなく、私は……彼に敵とみなされたことを知ったのだから。
 彼女は頬を伝うものを抑える事ができず、ただただ、感情の無い瞳で彼を見つめる。

Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.13 )
日時: 2011/08/24 12:59
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)

 「何か言いたそうだな、バケモノ。 どうした、何故涙を流す?」

 彼は、私を見て、言う。
 声が出ない。 声を出そうにも、喉をやられている。 再生まで、時間が少しかかってしまう。 その間にも彼はこの場を離れてしまうかもしれない。
 彼が、この場を離れれば、最後。 私の元へ来て、儀式を行い、魔術を行使してしまうだろう。
 それだけは、避けなければいけない!

 『ああ、懐かしい。 ヴァン・ノクターン、君に話がある』

 恐らく、私が何を言っているのかなど、周囲を含めて彼すら、分かっていないだろう。 だが、それで今は良い。
 彼はアリソンに歩み寄り、顔を近づける。
 そして、鎖を解くと同時。 彼の首を引っ掴み、刃をその喉元に突きつける。 いや、正しくはそうさせられた。
 彼の封印術は、どうも操作にもまわせる性能があるらしい。 自分の意思を無視し、体が勝手に彼を締めようとしているのだ。

 「君は何者だ? 魔法使いなのは分かるけど、あの魔術は異常だ。 魔物と勘違いされるのも無理は無いよ。 ボクが、隙を見て逃がすから……今は大人しく連行されてくれ」

 そこで、彼は小声で言うと、私の体の呪縛を解いた。
 また、会えるのであれば機会はある。 彼に儀式のことを話し、中止させなければ。

 「どうやら、術式が緩かったらしい。 諸君、この女を檻に連行してくれ」

 そういうと、彼はその場を後にした。

 連行され、町の刑務所の檻へ彼女が放り込まれると、看守をしていた警官の態度が一変する。 どうやら、彼女の事を盗みでも働いた貧しい一市民か何かだと思い込んでいるのだろう。
 実際、彼女が不死身でなく、魔法が使えなければただの人。 看守の気持ちも分からなくはないが、看守が悪い。
 彼は彼女の居る檻に近づくと、目があったという理由でつばを吐きかけるが、それは彼女の目と鼻の先で焼け石に落ちたかのように音を立て、蒸散するのだ。
 彼女は既に、半分それになっていた。
 そう、不死鳥として、認められかけている。

 『酷いな、唾吐きかけるなんてさ」

 彼女のその空気が喉から抜ける音が、よりいっそうの恐怖を、彼に与えた。

 数時間後、日が沈み、月が昇り始める。
 可笑しい、彼がもうここへ来て良い頃。 なのに、一向にその気配が無い。 
 そんな中、彼女の脳に、最悪の考えが浮かぶ。
 私に会う前に、私を助けた魔術を行使してしまうのではないか……と。 
 実際、細かな時間は分からない。 辺りが暗く、夜だということだけ。 だとしたら、十分ありえる。

 「看守! ここから出せ! 早く! ヴァンが死ぬ!」

 アリソンが、叫ぶ。 だが、誰かいる気配が無い。
 不味いな、早く出なければ、彼が……!
 掌を、檻の扉に押し当てる。
 お願いだから、発動して……! 

 「我が道を閉ざす者よ、我に道を譲れ。 『ロード・パス』」

 運がよかった。 ガチャリと音を立て、鍵が開き、格子が開く。
 長い石畳の上を駆け抜け、外へ出る。 もう、遅かった。
 遠くに、彼と、私と、もう一人。 黒髪の男が居た。

 「汝、何が望みだ?」

 男が、彼に問う。

 「止めろ! 駄目だ、取引をするな!」

 私が、叫ぶ。 

 「彼女に命がほしい」
 鼓動が、早まる。
 「駄目だ、止めろ!」
 涙が、頬を伝う。
 「このままでは、明日にでも死んでしまう」

 アリソンはその場で、膝を突いた。
 言って……しまった。
 そんな絶望と、自分の考えの甘さを呪いながら。

 「これが……」

 惨……酷……。