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Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.17 )
日時: 2011/08/04 11:58
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)

 「よかろう、では代償は何を選ぶ? 生半可なものを提示すれば、貴様もろともこの娘も殺す」

 男の言葉が、彼女の耳に入る。
 まだ、手遅れじゃない。
 アリソンは指先を、その男に向け、

 「我が内なる苦痛を、解き放て『カース・ペイン』」

 本来であれば、完全無敵の魔術。 自らの感じる最大の苦痛に対してのみ発動出来る、人間どころか神であろうとも生涯発動可能なのが一発のみの魔術。
 それを、彼女は黒髪の男に放った。 だが、魔術が……発動しない?
 いや、発動はしている。 何か、魔術の発現を妨げる要素が?
 
 「ボクの……命でどうだ。 命がほしいんだ、命を差し出して不足は無いだろう? それとも、ボクの魔力か、魂か。 何でもいい、ボクの持っているものを、全て持っていけ。 それで足りるはずだ」

 その言葉に、男は冷笑すると、掌に鎖を出現させ、ヴァンを拘束する。
 そうやって、彼を……。
 こみ上げる怒りの中、彼女は思わぬ言葉を耳にした。

 「無駄だ、女。 いや、アリソン。 ボクを邪魔しに来る事は、なんとなく分かってた。 だから、もう会わないつもりだったんだけどな……駄目だったか。 けれど、ボクは魔力を喰う体質がある。 君にボクは止められないよ。 君は、ボクのことなんて忘れて幸せに生きろよ。 ボクの事、簡単に忘れられるだろ?」

 彼の言葉に、彼女は首を横に振る。

 「無理……だよ。 三年間も、君を取り戻そうと努力した! なのに! 忘れる事なんてできないよ! 私は!」

 彼女の瞳から涙が零れ落ちる。

 「泣くなって。 君を生かしたのはボクの勝手だ、君の勝手でボクを取り戻そうなんて、するなよ。 また、ボクは君を失えば、君と同じように取り戻そうとするぜ? だから、忘れろ」

 ヴァンは小さく微笑むと、男と共に闇の中へと消え去った。 その場に、あの呪術書を残して。



 どれだけ、その場に居ただろう。 どれだけ、涙を流しただろう?
 時が止まったように、彼女はその場でただ膝を突き、彼の居たところを見つめている。
 不意に、立ち上がると私は私に歩み寄る。
 傷が……火傷が、完治している。 見たいのは、無様に生きた私ではない。 この、横にあった呪術書。
 背表紙には、不死鳥とは別の文字が記されているが、英文ではない。
 私には……分からない文字だ。

 「ここで、死んだほうが幸せかもしれない。 けれど、殺せないのか……」

 思わず、その言葉が口から漏れる。
 その直後、彼女の視界が、周囲の景色が廻りだした。 周囲は積み木を突き崩すかのように崩壊し、今度は別の場所へ。
 見覚えのある、嫌な所へとまた、彼女は落とされた。

 酷い話だ。

 彼女自身、最も恐怖を感じた場所。 自分の居た村の、戦闘の真っ只中。
 そこに、彼女は立っていたのだ。
 視界の端で、家が燃える。
 見覚えのある、彼女の家も燃えていた。 殆ど消し炭同然になり、今にも崩れそうだ。
 瞬時。 彼女は自らの首に刃が触れたことを感じ取った。
 敵の、剣の刃。
 その刃は彼女の首を切り裂き、胴体から切り離そうとする。 だが、刃が彼女の首を通過しても、彼女の首は胴体から離れることを、その怪物染みた再生能力が許さなかった。
 バケモノ染みた回復力が、首を失くすことすら不可能にしている。

 「酷いな、焼いたくせにまだ刻むつもり?」

 彼女は、剣を振り切り、体制を崩した兵士の背を、腰の剣を抜き、殴打した。
 実際、切り抜きたいのは山々だが、この剣に刃は殆ど無い。 つまり、剣ではなく、金属製の棍棒でしかないのだ。

 この景色、見覚えがある。

 「私が殺されかけた日だ……」