ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.2 )
- 日時: 2011/08/07 13:02
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)
Capitulo Ⅰ 『不死身は死人の町を歩む』
私が通常の人間であれば、もう死んでいるだろう。 三ヶ月間、何も食べていなければ、人にも会っていない。 彼女は砂漠の真ん中に居て、食べ物はおろか、水すら持っていない。
彼女は、飲まず食わずでも、寿命が尽きるまで死ぬ事は許されていない。 ゆえに、彼女は空腹にあえぎ、喉の渇きに延々苦しみながら、砂漠を横断し、行進を続けている。
その目的は、決まっていた。 あの時、自分のせいで死んだ、自分の殺してしまった彼を、悪魔から取り返すこと。
たったそれだけのために、三年間。 魔術と言う魔術を学び、盗み、時には人を殺す事も躊躇せず、悪の道に落ちることも怖く感じない。
悪い方向に完璧な人間へと、彼女は変わり果てていた。
『流石に……限界』
声と言うべきか分からない。 掠れ切った声でそんな弱音を吐きつつも、彼女は意識を手放す事すら許されず、歩みを進める。
マントに飛んできた砂を払い、フードを深々と被りなおす。 直射日光が、この炎天下ではただの熱光線にしか思えなくなってきた。
照りつける日の光は、砂を熱し、彼女の体温を一気に上げる。 だが、彼女は汗をかくことも無く、ただ体内にその熱を蓄積している。
熱で意識が朦朧とする。 だが、朦朧としているはずの意識はハッキリとして、その苦痛だけを感じる。 いっそ、気絶してしまえればどれだけ楽だろう?
見渡す限りの地平線の彼方に目を凝らそうとも、人の通った形跡も無い。 大体、砂漠に足を踏み入れてから三ヶ月。 眠ることなく歩みを進めた。
『私の足で……1200kmと言ったところか。 そろそろ、この砂漠を抜けてもいい頃なんだけど……』
真上から見たこの砂漠は楕円形で、一番長く見るとその全長は約1230km。 両脇を岩山に囲まれ、その地形を見れば砂漠を行くほうが遥かに安全と言える。
その理由は簡単。 岩山は、足場がもろく、滑りやすい上、尖った岩が多い。 突き刺されば、もれなく痛みと出血であの世行きだ。 ショック死すれば運がいい。 彼女に限っては、強烈な痛みと傷口の瞬間的な治癒で動けなくなってしまうと言う部分が大きい。
早く移動できようが、動けなくなってしまう可能性があるのであれば回り道をするしかない。 彼女の寿命が尽きるまで、彼女は不死身なのだから。
歩みを更に進める事、二時間。 ようやく、地平線の彼方に、町らしき影が見え始める。 ……恐らく、町と見て良いだろう。
ようやくか。 と、言いたいところだが彼女はもう声など出ない。 まずは、水だ。
早足になり、町へ進む。 途中。
ラクダに乗った一行が、彼女の前に立ちはだかる。
剣や、銃を持っているあたり、盗賊とか。 そんな、ろくでもない奴らなのだろう。 銃を持っていいのは、今のところ国家兵の、銃士隊だけだ。 護身用であろうが何であろうが、銃士隊でない者が銃を持っていれば罰せられる。
それも、国家兵ではなく、上級指揮官の持つような単発式の装飾銃をこんな王都から離れたところでお目にかかれるわけが無い。
それに、この先頭の男の装備は鎧に剣……そして銃と来た。 明らかに、殺傷目的。 ここまで来れば誰しもが、盗賊などと言う答えに行き当たるだろう。
それに対し、彼女は何も躊躇せず腰の剣を抜く。 一振りし、切れない剣特有のバットを振るような音を響かせる。
それを見て、相手は相手で銃を構え、
「悪く思うなよ」
躊躇無く、引き金を引く。 それと共に、『ダンッ』という乾いた火薬音。 そして、被弾したであろう彼女の体は後ろに吹っ飛び、仰向けに倒れた。 だが、意識はハッキリとし、被弾した部位は瞬時に回復。 そして、平然と起き上がった。
銃弾を避けるなど、並の人間には出来ないのは当たり前。 彼女は、死にこそしないものの、スーパーマンのような超人ではないのだ。
『悪く思うよ、私が今死んだらあの人に申し訳が立たない』
空気が喉から抜ける音。
丁度良いな、砂漠に生身の人間が居ると言う事はことは、自分達の飲み水を持ってここに居るはずだ。 奪い取れば、少しは喉の渇きもましになる。
持って居なければ、こいつらの動脈を切り裂いて血を吸えばいい。 水である事には変わりないし。
「あぁ? 何言ってんだ?」
先頭の男がラクダから降りると、後に続いていた群れも、ラクダから降りる。 つまり、この男が頭か。
『悪いね、水が足りなくて声がまともに出ないんだ』
掠れ切った空気の音。 もはや、声ではない。
彼女が剣を構え、相手は集団で銃を構える。 一気に片をつけるつもりなのだろうが、彼女には無意味だ。
例え、脳天を貫通させたとしても死ぬ事はない。 いや、死ぬ事が許されては居ない。
彼女が、剣を片手に動いた。
- Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.3 )
- 日時: 2011/07/27 21:03
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)
- 参照: 瓢箪=ひょうたん
剣を構えたまま、典型的な型にはまった剣による、一太刀。
それを、男は易々と避けると、剣による一撃を、彼女の体に叩き込んだ。 間一髪で彼女はそれを避け、フードが頭から落ちる。
「んだ、女かよ。 彼女、俺達と楽しいことしねえ?」
『悪いけど、断らせてもらうよ』
地面を擦りそうな長い金髪を揺らし、無表情で盗賊であろう群れに言い放つ。
怒りは無いのか、無表情の方が恐怖を感じる。 だが、彼女はそんな事計算していない。 ただ、いつもの顔つきがこれなのだ。
深いブルーの瞳が、彼らを見渡し、先頭の男と目が会うと同時。
彼女はなにやら言葉を発したかと思うと、周囲の景色が一変。 先頭に立っていた男は、暗闇の中に放り込まれた。
「何だってんだよ! 出せ! 出しやがれ!」
暗闇の中に他が一つだけある小さな光の差し込む窓を覗き込み、絶叫するが外には届いていないらしい。
外の景色が、その窓から見える。
「お頭が……! 逃げろ、この女魔術師だ!」
暗闇に放り込まれた男の後ろに立っていたターバンが、怯えた様に叫ぶ。 が、次の瞬間。
暗闇の中に。 頭と呼ばれた男の横に、もう一人。 誰かが放り込まれた。
それは、間違うはずも無く、ついさっきそこで叫んでいた子分。 つまり、ターバンである。
小さなその窓から、彼女が彼らを覗き込んでいる。
『悪いけど、布切れに閉じ込めさせてもらった。 キーは水で次元融解して出られるけれど、こんな砂漠地帯。 誰も貴重な水をわざわざ得体の知れない布切れにかけるなんてこと……しないだろう?』
彼女のその言葉が終わる頃には、目の前に居た盗賊の姿は忽然と消えていた。
撃っても斬っても死なない化け物と遭遇したのだ、逃げない方がおかしいだろう。
……面倒くさい連中だが……残すものは残してくれたようだな。
彼女は布切れを投げ捨て、置き捨てられたラクダの装備を引き剥がし、その中から水を探す。 ラクダの前足の方に、瓢箪が一個。
駄目だ、火薬臭がする。 恐らく、銃の火薬だな。
……ラクダはあるけれど、水を持っていない? 仕方ないか。
彼女が剣を抜くと、ラクダはおびえたように後ずさる。 もちろん、ラクダの直感は正しかった。
彼女はその剣を振りぬくと同時、ラクダの首が空を舞う。 倒れた首の切断面に彼女が手をやると、見る見るうちに手の中に血液が溜まっていく。
「……生き返ったな、死ねないけど」
彼女は掌に溜めたラクダの血液を飲むと、もう一口。
そして、足早にラクダの死体を捨て置き、眼前の町へと急ぎ、足を速める。
大体、10分後。 彼女は、その村の門までたどり着いた。 だが、門番の姿はおろか、人一人すら居ない。
気配も無ければ、人が住んでいるような形跡が無い。 中央には、巨大な石造りの塔が聳え立ち、巨大な影が時計の針のように東をさしている。 噴水だっただろう物体は崩れ、井戸を覗き込むと、水は無かった。
もう、日が傾いている。 それと共に聞こえる、魔物のうなり声。
「住人は喰われたか」
「いいや、喰われてなどいないよう。 どうしたのかね、血だらけで」
彼女の言葉に、誰かが答える。
馬鹿な! 水源が確保できないこんな灼熱地帯に人間が住めるわけが……。
「ま、死にはしたがね」
声の方向を向くと、そこに居たのは長い黒髪の、着物姿の女。 整った顔立ちの、美人と言うに相応しい美人。
背になにやら細長い袋を背負い、なにやらただならない雰囲気を発している。
「あんた、人間じゃないねぇ。 なら、隠す必要もないか」
その言葉と共に、彼女の頭に黒い耳と、九本の尾が生え、その姿は一気に人間から遠ざかった。
稲荷狐……。 それも、通常の妖狐とはまた違った。 圧倒的な圧力と、得も言えない澄んだ空気を周囲に放っている。
何だ? 今まで見た妖怪とか、魔物とはずいぶん雰囲気が違う……。
「君は誰? 私は急いでいるんだ、早くこの暑苦しい砂漠を抜けたくてね」
「何処に砂漠なんかあるんだい? 確かに今日は蒸し暑いが、よく周りをごらんよ、ここは森の中さね。 砂漠を抜けるというのなら、知恵戦争の跡地でも周るんだねぇ。 あそこの砂漠は酷いもんさ、死人の血の所為で鉄臭くてかなわんよ。 あ、私は大神 空。 なに、なんてことは無い天狐さ。 あんたは何モンだね? わたしゃ、そっちの方が気になるけれど」
……。 天狐?
彼女が周囲を見渡すと、そこは森に囲まれた廃村。 それも、相当長い間放置されていたらしく、寂れた建物が並んでいる。
何故? さっきまで、砂漠の廃村に居たはず。 何故、廃村に? それも、森の中の!
いつの間に、周囲の景色が変わった……?
「……私は、アリソン。 ここは、何処?」
「ここは紀ノ川。 私達、妖狐の村さ。 あんたみたいなのが迷い込むのは、珍しいこっちゃ無いさ。 前にも居たんだよ、紫がかった黒髪の青年さね。 もう、かれこれ千年以上前の話にはなるけれども。 同じように、砂漠を越えて、廃村に入ったらここだったって、言ってたねぇ。 ま、この村じゃ何が起こっても不思議は無いさ。 ここは死した狐の神通力が飛び交う、死の村だからねぇ、クックック」