ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.20 )
- 日時: 2011/08/04 15:31
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)
明らかな見覚えがある。 今日、この日。
私は瀕死の重傷を負い、町の方へと運ばれる。 そして、町で今夜、ヴァンによって私は無様にも生きながらえる事になる。
「てめ……」
まだ起き上がれるのか、大したものだ。
剣で殴打された兵士が、アリソンの右肩から斜め下に、剣を振りぬく。 だが、傷は瞬時に回復し、衣服にすら跡が残っていない。
それを、彼はバケモノでも見るかのような目で見ると、後ずさる。
「汝、我が内なる痛みを知れ『ペイン』」
アリソンの魔術は、兵士がやったのと全く同じように彼の首を飛ばし、右肩から斜め下にかけて刃物による深い切り傷が走らせる。
早く、私を見つけなければ。 私を見つけて……殺す。
よく考えれば、夜までここに居られる保証はない。 フェネクスの考え次第で、場所は何処へでも。
つまりは、今私を殺す以外に彼が生き延びる道は無い。 私が死ぬ分には、構わない。 既に、死んでいるはずの人間なのだから。
とにかく、彼女は周囲の状況を把握しようと辺りを見渡す。 見る限り、焼け野原。 村の端なのだろうが、兵士が大量に行進している。
恐らくは、無所属の傭兵部隊の村という事での攻撃を受けているのだろう。 村の総人口は約1000人。 しかも、日々鍛錬に励んだ実力者揃い。 これが国軍につけば、相当な戦力だ。 迎え撃つ村人も、剣やら長銃やらを携え、応戦している。 所々に大砲を撃つ村人の姿もあるくらいだ。
だが、敵軍の数が圧倒的に上。
約二万の敵軍。 それを、たった1000人が相手取るのだ。 数に押されて倒されるのが見えている。
「汝ら人の子に命ずる、己の力に苦しむがいい『カーディアス』」
今のアリソンはその二万をも圧倒する。
彼女の放った魔術は、簡単で強力。 そして、無差別だ。
目に映る全ての人間に発動される、自害術。 彼女の視界に居た兵士は、各々の持つ武器を自らに向け、躊躇無く自害する。
ある兵士は、ナイフで自らの心臓を抉り、ある兵士は、銃で自分の額を打ちぬく。 そして、何も持っていない兵士も、喉を執拗にかきむしり、時間をかけて死に至る。
まともな神経の持ち主では、扱うことをためらう魔術。 それを、気にもとめる事がない。
“そろそろ、良いだろう。 それでは、適正テストの後に不死鳥の継承を開始する”
頭の中に響く、ソプラノの声。
周囲の視界が、一瞬にして崩れ落ちる。
「さあ、惨酷を克服する……仕上げだ」
黒く背景を塗られた空間に、聞きなれた声が木霊する。
目の前に立っていたのは、見間違う事もない。
“彼”ヴァン・ノクターンが、そこに居た。 それも、ナイフを片手に握り、好戦的な笑みを浮かべている。
本物に限りなく近い……偽者。
「適正テストは、ボクを殺すことだ。 ボクも君を殺そうとする。 ボクのナイフでは、君を殺せない。 さあ、君にボクが、殺せるかい?」
これもまた、想定の範囲内。
そして、最悪のケースが、今、彼女の目の前で展開された。
「嘘だと……言って?」
その言葉に、彼は冷笑し、
「いや、現実だ」
言い放った。
