ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.27 )
- 日時: 2011/08/08 18:09
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)
Capitulo Ⅲ 『神として神の如く強大に』
塔の外へ出ると、周囲はなにやら慌しく、塔の扉を開くと同時。 そこかしこで閃光やら火花やらが散り、そこかしこで爆発が起き、吹き飛ばされる人間の姿が彼女の目に映る。
この光景、見覚えがある。 村が、襲われたとき。
大砲で吹き飛ばされた光景と、重なる。 とても嫌な、景観。
そしてその光景を目にすると同時。 体の内から溢れ出るかのような、膨大な魔力を感じる。
人間が持つ微弱な魔力の比ではない。 それこそ、魔物が持つような。 それより、膨大な魔力。
人間は、自らの持つ僅かな魔力で空気中に存在する多大な量の魔力を操り、魔術を扱う。 だが、今なら自分の力だけで思いのままに。
そんな、根拠の無い自信と爽快感。 気分は最高。 今なら何でも……出来そうな。 そんな気持ち。
爆発の見えた方角に、彼女は掌を向ける。 すると、そこで青白い炎を伴った。 さっきの比ではない大爆発が巻き起こる!
詠唱過程を必要としない、手足のように扱える魔術。 強力で、便利だ。
「まずは、沈静化が先か」
彼女が掌が、今度は天を突くと同時。 無数の稲光と共に、轟音を轟かせ、無数の紅の閃光が、戦闘箇所を襲う。
雲一つ無い、青空の下。 その裁きは下されたのだ。
数時間後。 彼女は塔の前で祭り上げられていた。
何故、こうなったのだろう? そもそも、塔から出てきて雷による鎮静化を図ったのが間違いだったのだ。
この塔は、元々神の住む神聖な場所で。 混乱がピークに達すると、神様が登場して騒ぎを鎮めるとか、そんな伝説がある所なんだとか。
そして、塔から出てきた上、反乱軍を雷によって鎮めた彼女は、今現在神と崇めたてられているわけである。
しかし、この神は中々嫌われ者だったらしい。
権力者達の味方で、愚民を黙らせるとか。 そんな、都合の良い神なのだ。
今現在、彼女目の前で、反乱軍を指揮していた幹部達が手足に縄を括り付けられ、その端を牛の首輪に繋がれているところ。
恐らくは、四つ裂きにでもするつもりなのだろうが、彼女は何食わぬ顔で平然とそれを眺めていた。
彼らが、罪を犯したのだ。 そう、この言葉の直前までは。
『これより、公開処刑を開始する!』
台の上に立った男が、なにやら装飾の施された紙切れに綴られた文字を読み上げる。
塔の前の仮設された処刑場で、それは今まさに行われようとしていたのだ。 彼女が、中心に。 その脇に、アリソンと同じような真紅のマントを羽織った王が。 椅子に腰掛け楽しそうにその様子を眺めている。
ブクブクと肥え太った男が。 そこで人間の死を薄汚い笑を浮かべながら。
『在任の罪状は、以下の通りである。 国王、および王宮の滅亡を祈願した罪』
おいおい、それってただお前嫌いだよって言われただけだろう。
そんな事で、処刑の対象か。 笑わせる。 いや、腹立たしいな。
そんな事を考えているアリソンの視界の端に、兵士達に取り押さえられ、なお暴れる女の姿が目に入る。
恐らくは、処刑される男の妻か……愛人か。 いずれにせよ、処刑の間、大人しくしている事は無いだろう。
『納税の義務を怠った罪。 兵役をないがしろにした罪。 愚民の身分を弁えず、反乱を起こした罪。 ……以上の罪を犯したものたちをこれより正義の名の下に、八つ裂きの刑に処するものとする』
最後の一言に、アリソンの目は見開かれる。
愚民の身分を……弁えず? だとすれば、王という生き物はどれだけ偉いんだ? たかが、人間じゃないか。
正義か、聞いて呆れる!
「王、一個聞きたい」
アリソンは横に座っていた王に、問う。
「何ですかね?」
「税率は、いくらで、兵役は何年だ?」
彼女の言葉は、静かで。 それでいて、落ち着いていた。
「税率は、8割。 兵役は、一貫して10年ですな。動けなくなった場合はそれまでですがね」
……。 私腹を肥やす事しか考えていないのか。
成るほど、反乱軍が作られ、反乱が起こるわけだ。
「そうか、ではあの女は何だ? 兵士を掻き分け、処刑場の中へ入ろうと奮戦しているようだが……」
冷え切った、その言葉。 明らかにそれは、落ち着いてはいるが冷静を通り越していた。
そして、次の一言が、引き金を引いた。
「恐らく、妻か愛人でしょうな。 若さから行けば、愛人でしょう。 さあ、見ものですぞ? 『者共! 牛に鞭を打て! 処刑せよ!』」
王の言葉の後、処刑場にいた兵士は、その手に持った鞭で牛を打った。 すると、牛はつながっていた罪人の四肢を引いた。
罪人は、苦痛に顔をゆがめ、悲鳴を上げた。 それを見て、兵士に取り押さえられていた女はより一層激しく暴れた。
「……成るほど……な、よくわかった」
アリソンは、席を立った。 アリソンは、椅子の横に立てかけられていた剣を握った。 鞘から抜いた。 それを、振るった。
仮設の処刑場の見物席。 王の真上の屋根が、彼女の剣の一振りで一瞬にして塵と化す。
自らに倒れてきた柱を支えると、掌を罪人と呼ばれた男達に向ける。
流石に、あの細い縄をこの距離狙うのは面倒だ。
軽く30メートルは離れている。 それに、それが複数。 1人4本で、8人で32本。 魔術を前段名有させるのは至難の業。
だが……迷っている暇は無い。
「牛にも罪は無いか、面倒だ!」
掌に、無数の小さな火炎弾を出現させ、縄へと放つ。
それは、罪人と牛を繋いでいた縄をいとも易々と焼ききると、地面に当たり、炎が消えた。
「悪いな。 私は……『私と同じ』を作りたくないんだ。 権力の座に胡坐かいてるだけの貴様が、どれだけ偉いんだ? そこの貴様が罪人と蔑む奴らと同じ、人間だろう? 身の程を知れ、全てを投げ打つ覚悟が無い奴に、人の上に立つ資格などない。 それと、正義って言うのは一見。 聞こえはいいけれど、権力を持った人間が自分の行動を正当化するために使う。 見てくれだけの幻想だよ、私と同じ……野蛮人が」
彼女の透き通るようなワインレッドの瞳が、それを睨む。
