ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.31 )
- 日時: 2011/08/21 07:56
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)
不死鳥の力が、知らず知らず彼女を蝕んでいく。 だが、彼女はそれに気付く事など出来やしない。
何故って? 簡単な話さ。
アリソンは自分の行動を見て、頭の上に疑問符を浮かべる。
何故、暴れたのか。 何故、罪人を助けたのか。
不条理な処刑だったから? それもある。 だが、一番大切な部分が欠落しているのだ。
処刑されそうになった男に今飛びついた女。 その女を見て、激昂した。
何故? 何故激昂する必要があった?
何故、激昂した?
愛情の欠落。 それが、不死鳥の持つべきではない感情。
不死鳥は、種の保存をする必要など無い。 つまりは、永遠に一匹。 そして、死ぬことが無い。
つまりは、愛する必要が無いのだ。
彼女は、その手に持った剣を強く握りなおすと、今度は……罪人を殺そうとそれを振り上げる。
が、それを全身に浴びた返り血と、目の前で無残にも横たわる罪人の死体が制する。
実際、そんな事。 一切、起こってなど居ない。 まだ、罪人は生きている。 そして、剣を振りかぶったまま。
その映像が、彼女の視界を支配している。
その現象は、あまりにも現実味を帯び、返り血の匂いから血の暖かさまでを彼女に伝えている。
まさかとは思うが、未来が見えている? いや、そんな魔術は存在しない。 時を相手取るなど、それこそ人間のできることではない。
それに、そもそも魔力を使って時に干渉すればそれこそ多大な魔力を消費する。
今の私に、そんな莫大な魔力などなければ、半端に多い魔力を使い切れば、恐らくこの世に私を縛っている魔術の効力を失い、私は死ぬだろう。
不死鳥の力が、継承されている? だとすれば、あの時空を移動できるほどの莫大な魔力も私が継承することになる。 が、そんな魔力、私は持っていない。
……考えるのは止めだ。 それに、運命とか、予知とかに操られるのも面白くなければ……利があるわけでもない。
そうだな、
「死すがいい、人として魔物の如き王。 貴様に人を統べる資格などない」
その振りかぶった剣を、彼女は王に対し、振り下ろす。
それに間一髪。 黒装束の集団が壁となり、その剣を跳ね返した。 どうやら、護衛団か何かだろう。
「邪魔立てするつもりか? 殺してしまうぞ?」
彼女は、その手に平に火炎弾を再び出現させると、その集団に対し躊躇なく撃ち放つ!
が、黒装束はそれを銀色の光の壁で防御した。
どうやら、魔術師の集団らしい。 それも、相当高レベルな……。
処刑場に目をやると、そこにも彼女の目の前に立ちはだかっているのと同じ、黒装束が罪人に詰め寄って居る。
この距離でもう一度あの火炎弾を当てるのは至難。 ヴィルヘルム・テルでも呼んでくるべきだろうか? まあ、無理な話だが。
「全く、無茶苦茶だ。 不死鳥という奴は、こうも過酷な状況下で仕事しないといけないのか。 何だか、先が思いやられる」
火炎弾を再びその掌に出現させ、処刑場の黒装束に放つと同時。 処刑場へと撃ち放たれた火炎弾に気が向いた目の前の黒装束を、彼女は剣の一振りで切倒す!
もちろん、この刃毀れの酷いボロに切れる刃など無い。 だが、この剣はとてもよく切れるのだ。 何故か。
簡単な話が、摩擦熱。 それを、魔術によって増幅させ、単純に焼き斬っている。 魔術が無ければ、そんな焼ききるなどという芸当は人間に出来るはずもないが。
「さて、古代中国の胴切の刑。 いや、この時代からは恐らく未来か。 大体、今の状態でも10分は生きていられるだろう。 10分以内に、私を殺せば君達は私の血の力で助かるだろう。 一つ、ゲームと行こうじゃないか。 どちらがより、惨酷で自分勝手な非人道的な人間かを、競うんだよ」
- Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.32 )
- 日時: 2011/08/19 15:45
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)
非人道的とは、誰が決めるか。 それは、人間が決めるものだ。
何故なら、惨酷などと思う感情は人間にしかないのだから。 だが、それも言う人間によっては、惨酷でもなんでもない。
欲に溺れた、無能の戯言だ。
「な……なんてことを……」
椅子から転げ落ちた王が、命乞いするかのような目で、後ずさる。 明らかに、自分の身を案じているばかりで黒装束の事など頭の端にもないのは明白。
そうだな、
「少々、惨酷なことをしたようだ。 この者達には、悪い事をしたな」
アリソンは、半ば棒読みにそう言い放った。 すると、案の定。
「何が少々だ! 貴様は人間を殺した、神などではないわ! 近寄るな、下賎な小娘が!」
王は突然、強気になる。
自分では、正義を振りかざしているつもりなのだろう。 だが、そんなもの、まやかしだ。
彼女の前では、彼女が正義。 王の前では、王が正義なのだ。
つまりは、個人の思考が個人の正義であり、公の正義など薄っぺらな紙切れに記され、印鑑を押された虚構の存在。
そんな正義は、恐れるに足らない。 何せ、誰もが従わなくなればそれまで。 莫大な金と、それを給与に従う人間が居て始めてそれは力を持つ。
つまり、その従う人間以上の人間が、その正義に逆らえばその正義はそれまでなのだ。
それが今、圧倒的な力という脅威によって音を立てて崩れていくのを、この男は見ることも、聞く事もできなくなっているようだ。
得体の知れない力を前に、己の力を過大評価し、全てが己のものと思ったこの男の力は、もう無い。
有るのは、今まで行使した力の代償のみ。
「貴様は己の力の本質を見誤った。 よって貴様は己の力によって潰されるが良い」
彼女の周囲の景色が、靄を仰いだように揺れる。
剣を鞘に収める。 そして、その手は陽炎を貫いた。 王の首を掴んだ掌は、青白い炎を吹き出し、掴んだものを容赦なく焼いた。
「簡単に言うと、もう君に従う奴は居なくなったってことだよ」
彼女の姿が、空気の揺らめきが激しくなると共に、その場から掻き消された。
こんな事をして遊んでいる場合ではない。 一刻も早く、夜叉を見つけなければ。
- Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.33 )
- 日時: 2011/08/21 17:45
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)
数分後。 処刑場は混乱に陥っていた。
それもそのはず。 王族の味方となると伝えられていた神が、王族を裏切ったのだから。 最も、彼女はその神ではない。
神として、神の如く強大な力で己の目的を達成せんとする、人間だ。
王族の味方につく神が、そのときの王族と気があっただけというだけだ。 伝承ほど、いい加減なものは無い。
「鍛冶職人の一覧は何処だ……? 資料の整理くらいしとけよ、ったく」
彼女はそんな中、城の政治資料庫に居た。
城は、処刑場を出て直ぐ目に付くほど大きい。 探すのに大して手間は掛からなかった。 だが、資料庫の中はあまりに散らかっている。
現在探している鍛冶屋のリストを探すのに、手間取っているところだ。
兵士の装備などは、腕の良い鍛冶職人から注文したいと思うのが王の考えだろう。 つまりは、兵士の支給品の製造を任された鍛冶職人のところを当たっていけば、手早く夜叉が手に入るという訳だ。
もちろん、手に入らない可能性もあるが、手に入る可能性のほうが、高いだろう。
「何やってんの?」
資料庫で、誰かが彼女を呼び止めた。
声の方向を見れば、そこには黒い子猫が一匹。 彼女を見据え、静かに佇んでいた。
「この資料庫には、政治の人間しか入れないはずだ。 最も、ボクは政治の『人間』じゃないから出入り自由だけどね。 何処から入った?」
猫だ。 この黒猫が、明らかに今喋っていた。
恐らく、アレだ。 喋る猫……前に本で見た。 ケットシーって奴だ。 人とは関わりたがらない、人の目の前ではただの猫。
何故、私には話しかけた?
「どうしたの? 人間とは関わるのを嫌うはずだけど、私が人間じゃないと思って出てきたのかな? 確かに、この資料庫の障壁は特定の人間以外の人間が入ろうとすればその人間を殺すほどの強い邪念を誇る。 けれど、それ以上の強力な魔術による解除であれば、障壁の執行者でなくても、解除は十分可能なんだよ。 ウロボロスの術式ではなかったし、時間がたてば風化するレベル。 私の行く手を阻むほどじゃ、無かったってだけ。 私のことは教えたし、今度は君の事、教えてくれないかな? 私としては、今二番目くらいに欲しいのが、君の情報なんだ。 敵味方だけで良い。 君は、何処サイドに付いてる?」
彼女の問いに、猫は呆れたような表情を浮かべ、
「ただの人間の扱えるような魔力で解ける結界には見え無かったけどなぁ……。 ま、いいや。 ボクは、人間がルシフェルと呼んでいる。 俗に言う、サタンがボクさ。 ま、嘘かホントかは君の自己判断でいいよ。 ボクは居心地の良い空間を探して、ここに行き着いただけさ。 ところで、何を探してるの? ボクは、この書類のありかを全て覚えてる。 案内してあげてもいいけど、君の大事なもの、一つ貰うよ?」
取引。 それも、『大事なもの』という単語に彼女は過敏に反応した。
腰の剣を抜くと、呆気に取られているその黒猫に、容赦ない一太刀を浴びせる。
猫の居た、台が真っ二つに割れた。 だが、黒猫は台から太刀にあわせて飛び上がり、完全に避けている。
確かに、ケットシーとしてみるには極端に能力が高い。 ケットシーといえど、長靴を履いた猫。
知能が高くとも、今の剣撃を避けられるまでの身体能力など無い。
「大事なもの……それは無理だよ。 それを取り戻すために、私は今その書類を捜している」
彼女の視線が、鋭く猫に突き刺さる。
だが、猫は特に何も感じないように、
「そうか。 それじゃ、取引は出来ないな。 で、一番大事なものは一体なに? お金?」
金と……
「彼を、金と並べるな!」
彼女はもう一太刀。 猫の飛び移った椅子もろとも、猫に浴びせかける! が、猫はそれを易々と避け切ると、本棚の上に飛び乗った。
不思議そうにアリソンの姿を見つめ、
「彼? 人間を、大事にしてるの? ……愛か。 反吐が出るね、そんなもの。 ボクだって昔は愚かにも愛情というものを持っていた。 ケド、分かったんだよ。 愛情って奴は、自分を傷つけるだけの無意味な感情だって」
言い放つ。
彼からすれば、恐らくその程度の感情なのだろう。 彼女自身、一度喪失したばかりだからよく分かる。
確かに、自分を傷つけるだけかもしれない。 だが、大切なのだ。
この感情を失えば、彼を助けようとするこの行動の理由すら失ってしまう。
「何でもいいよ。 君には無意味でも、私には大きな価値のある感情だ。 君が金を人間が欲すると思ったように、私も君は勘定に飢えているんじゃないかと思うんだけど、どうかな? 感情が無ければ、孤独も感じない。 わざわざ人前に出てこようとも思わないはずだよね? 君、何が狙い?」
Capitulo Ⅲ 『神として神の如く強大に』 END
Capitulo Ⅳ 『彼とはコインの裏表』