ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.46 )
- 日時: 2011/08/28 14:00
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)
「さて、私も中々忙しい身だ。 貴様の性能測定は、この一撃にて終了しよう。 これを受けてなお、生きて私にたどり着くというのであれば……貴様の言うこの男を解放してやろう」
……滅茶苦茶だ、力が……欲しい。 この理不尽を塗りつぶせる、理不尽なまでの力が……。
怒りは、失せた。 いや、サタンが彼女に与える絶望が怒りを上回った。 身体の力は抜け、サタンの言う一撃を受けきれば、恐らくは粉々になるであろう無防備な状態。
それで、サタンの魔術を受け切るなど笑止千万。
サタンの掌で渦巻く青白い炎は、見る見るうちに彼女の身体を灰へと変えた。
「……フン、生き残る事はできなかったか。 生き残ると……期待していたのだが……残念だ」
サタンは吐き捨てるようにそういうと、絵の具が水に溶けるようにその場から姿を消した。
数時間程して、月の光が書庫を照らす。 資料庫の一つだけしかない天窓から、月光が差し込み灰に当たって、灰は宝石の様にキラキラと光る。
異変が、起きた。
不完全な、力の産物か……はたまた、彼女の尋常ならざる執念か。 灰は、青白い炎を上げ、燃え始める。
・・・・・・・・・
いつものように、俺は王家の召使どもから逃げるように、書物庫へと足を運んでいた。
ここは、居心地がいい。 何せ、ここの結界を解けるのは俺と、数える程度の魔術師のみ。 執事やメイドが踏み入る事は愚か、王である父ですら魔術師に命じて結界を解かなければ踏み入れない。
月明かりが、薄暗い書物庫を照らす。 この景色が、とても好きだ。
……いつもとは違う。 そんな胸騒ぎ。
それは、感じ取ってから五秒後。 現実のものとなった。
「炎……?」
目の前で燃え盛る、青白い炎。 見た直後は火事だと思ったが、火事ではない。 そもそも、燃える要因が無い。
だとすれば、『何か』によって発生した炎。 ここでの何かは、魔法と置き換えるのが最も妥当。 炎は、紅い物より青いほうが温度が高い。 自然発火で、青白い炎など出るはずが無い。
常識的に考えて……だ。
「何だよ、これ……」
魔術の心得は有る。 そして、行使するのも得意だし、並みのレベルを大きく上回っている。
だが、どうも分析だけは苦手だ。
まさか、その炎の中から昼間処刑場で暴れた少女が、炎の中から一糸纏わぬ裸体で、うつ伏せに倒れて出てくるとは、誰が思うだろう?
意識は無い。 ただ、生きてはいる。
えーとですね……。
気まずい空気。 気まずい沈黙。 気まずいシチュエーション。
気まずい三拍子の後、彼女は目を覚ますが、直ぐにそのまま眠りに落ちてしまった。
恐らく、朝まで起きないだろう。
「さーて。 俺、女に免疫無いんだけど、どうすればいいのさ?」
「お言葉ですが、クローセル様」
突然の背後からの声に、クローセルと呼ばれた彼は鬼の如き形相で振り返る。
そこに居たのは、
「レム……どうしてここに入れた? ここは……結界が……あるはずしゃなかったっけ?」
彼が昔、牢からメイドにするという名目で助けた少女。 レム・カディだった。
彼女の罪状は、殺人罪。 そしてそれは、明らかに作られた冤罪だった。 王の意図的悪意が汲み取れる、最低なこじ付け。 それに激怒し、一度王である父を本気で殺そうとしたこともあった。 だが、それは未遂に終わった。
言葉の最後の方で、彼の力が抜ける。 安堵と、更なる気まずい空気。
……どうすればいいのさ? 神は俺に何を求めてるんだ!
「私は、最初から貴方様についてきておりましたが? ……そちらの方は? クローセル様のご趣味——」
「違う! 断じて違う!」
思わず必死で講義するクローセルに彼女は微笑み、
「冗談です、私も最初から見ておりました。 それより、この方はどうなさいますか?」
そうだな……。 昼間処刑場で暴れて、父を殺そうとしたって言うし、悪い奴じゃないだろう。
改めて言えば、俺は父が嫌いだ。 あの偉そうな態度と、自分が全てという考え。 反吐が出る。 法律とかいう紙切れが、そんなに偉いのかと食って掛かった事も何度かあった。 その時は確か、魔術師に取り押さえられたっけ。
それを超える力を持った奴が、何でここで炎から出てきて倒れてんだ? 何だか、奇人変人のすることは理解に苦しむ。 まあ、かくいう俺もその一人なんだが……。
「そうだな、俺の部屋で匿うぞ。 リーチェにも話をして、女物の服を調達してくれ。 裸じゃ俺が持たん」
- Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.47 )
- 日時: 2011/08/26 13:36
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)
「死すがいい、力無き者よ」
眼前の男が、掌に灯した業火を、自分に対して打ち放つ!
その男の姿は、見覚えのある彼。 そして、私の恩人。
ベッドから、勢いよく彼女は起き上がった。
……嫌な夢を見た。
まさか、ヴァンに殺される夢なんて……。
「目が覚めたかい?」
男の声。 思わず、何も無い腰から剣を抜いたつもりで、剣を構える。
もちろん、その手に剣など無く剣の握りを再現しているだけに過ぎなかったわけだが……。
「おいおい、そう警戒するなって。 するなって言うのも無理があるけどな」
黒髪の男は、蒼白い瞳でこちらを見据え、微笑んだ。 見た感じ、敵意は無い。
殺気も感じられない。 敵ではないが、味方という保証もない。
それより、
「何で私はこんなところで寝ている……? 資料庫へ入り込み、鍛冶職人のリストを探していたのだが……」
その言葉を聞き、彼は呆れ半ば、
「昼間処刑場で暴れて、今度は家事職のリスト探しか……忙しいんだな。 あ、俺はクローセル。 こっちはレムで、そこに並んでいる執事とメイド、右から順番にゼラ、クロウ、レナード、ギン、クレア、ハンナ、えーと……」
一番左の、着物姿の女のところで彼は手を止めた。
明らかに私服なのは、彼女だけではなかった。 ゼラは腰に回転銃を装備していれば、クロウは鉤爪を腰から下げている。 他にも、背に巨大な剣を背負っていたりとまさに十人十色。 それも、奇妙な方向に。
外見で名前を決めているのか、彼女の名前をどう呼ぶべきか考えているように伺える。
「ソラでいい」
「じゃ、ソラ。 ここは城の中だが、こいつらは俺の味方だし、秘密も口外しない。 安心しろ、俺は父が嫌いだ。 アレの望むような展開にしてやるものか」
彼は笑顔のまま、私にパンを手渡し、
「食えよ。 一日中魘されてたが、どうかしたのか? ヴァンがどうとかって言ってたようだが……」
微笑んだ。
……聞かれてたか。
これまでの経緯を全て話すと長くなる。 表面だけで勘弁してもらうか。
そんなこんな、パンを齧りながら彼女は説明を始めた。
ヴァンの事、サタンの事、フェネクスとの契約の事。 全て、可能性というだけで必然ではないという事も。
話しすぎたか……?
「成程な、ある程度は理解した。 その異常な魔力と、日の中から出てきたのも何となく納得だ。 で、今後どうする? 俺の部屋に匿うにも限度がある。 一応、服は事情を聞いた妹から……リーチェに借りれたが……」
その言葉の途中。 部屋の扉が勢いよく開かれ、アリソンより年下であろう少女があらぶる獅子の如き勢いで、クローセルを彼女の目の前から押しのけた。
「まあ、やっぱりお似合いですのね!」
アリソンおきているドレスを見て、彼女は目を輝かせる。 が、アリソンは自分より年下であろうこの少女と、自分の胸を見比べていた。
私の胸、……改めて小さい。 そんな事を考え、その時ようやく彼女は白いドレスを着せられている事に気がついた。 彼女はドレスの胸のスペースを余らせていることに、何だかがっかりしたような表情を浮かべる。
だが、そんな事に気を取られる事も無かった。 この女が誰か、ということに最も興味があったからだ。
「リーチェ、お前俺の耐久力考えた事あるか?」
吹っ飛ばされたクローセルが、リーチェと呼ぶ少女は、外見以上に中身は幼かった。
「何の事ですの? 初めまして、私、ベアトリーチェと申します。 貴方のお名前は? お友達になってくださります?」
転校生が来た小学校の積極的な女子生徒。 そんな感じの第一印象。
見た目14、5歳くらいなのだが……。
「……。 クローセル、相手をしなくては駄目なのか?」
「リーチェも王家の血筋で、友達が居ないんだ。 仲良くしてやってくれないか」
クローセルが苦笑いしながら、アリソンに返す。