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Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.52 )
日時: 2011/08/29 16:28
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: B1rykyOu)

                    Capitulo Ⅴ 『機械仕掛けの騎士の塔』



 クローセルの部屋は、城の最深部。 つまり、ど真ん中だった。
 どうやって私を運んだのか。 どうして見つからなかったのか。 疑問に思う点が多々ある。
 それを聞くと、クローセルは

 「企業秘密」

 とだけ、返してくれる。
 ぜひとも、その方法を教えていただきたい所存である。
 王家の人間でも召使でもないアリソンは仕方なく窓から外へと出ると、その並外れた運動能力で窓枠につかまり、屋根へと上った。
 それに続いて、クローセルも屋根へ。 どういうわけか、彼の身体能力も異常なまでに高い。
 魔術で強化している……?

 「屋根の上を器具無しで飛ぶとは、恐れ入ったよ」

 「そういう君も、まさか王族が屋根を飛び回るなんて……聞いたこと無いよ」

 そんなこんな。
 闇に紛れ、月明かりを頼りに城壁を飛び越え、市街地へと進出する。 そして、まだ明るい店の屋根の上を飛び回り、眼前の塔へと足を急がせた。
 クローセルの部屋から出て約5分。 二人は、塔の入り口まで到達していた。
 今頃ながら、瞬間移動で飛べばよかったと思ったが、クローセル曰く『結界が敵の進入を防ぐ』ということで、むしろ気付かなくてよかったかもしれない。
 魔力念波であの強力な結界を通過していれば、間違いなく死ぬか、意識が飛んでいただろう。
 念波は、丸腰で居るより無防備だ。 その気になれば妨害弱小魔術の一つで、殺される。
 塔の扉は開け放たれ、夜の冷え切った空気を吸い込んでいく。 その内容量は、限りが無いとも言いたげに、留まる事を知らなかった。

 「この塔の、地下だっけ?」

 「ああ、地下の黒い棺に刺さってる。 が、簡単にそこまで行かしてくれそうに無いな」

 二人の目の前。 それも、真正面にそれは堂々と佇んでいた。
 最初、石柱か何かと勘違いした。  石の鎧を、金属のような光沢のある黒いスライムのようなものがつなげ合わせたような。
 身長は、ゆうに3メートル。 明らかに行く手を阻まんとするそれは、見上げるまでの巨大な人型の何か。
 ゆっくりと、微弱ではあるが動きを見せているあたり、この“何か”は自らかどうすることが可能らしい。
 ここまで来れば、これが一体何の目的で、何故ここにあるのかなど、言わずとも分かる。
 この塔の地下への道を阻む、ガードマン。 それが恐らく、この巨大な機械の存在意義である。

 「全くだね、中々強そうな……バケモノじゃない?」

 アリソンは、剣を握る。
 欠けた刃を、青白い光が補うように、刀身を包み込んだ。 
 摂氏、五千度。 既にそれだけの熱量が、刃に宿る。 それを更に、彼女の機敏な動きが、何倍にも増幅した。
 一閃。 彼女の姿が消えたかと思えば、次に現れたのはこの“何か”の背後。 それと同時、その“何か”は四肢を失い、前のめりに倒れた。

 「けど、見掛け倒しだったらしいね……君は、本当に何者?」

 クローセルが、アリソンに問う。
 が、

 「企業秘密」

 とだけ、彼女は彼に返した。
 巨体に隠れていた会談が、二人の目の前に現れた。 地価に空気を……吸い込んでいる?

 「そんな事より、先に進もうか」