ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.59 )
- 日時: 2011/09/05 13:23
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: lkF9UhzL)
私は、伝説の剣を持っているわけではない。
神の加護を得ているわけではない。
そして、少年誌の主人公のような都合の良い力を持っているわけでもない。
この巨大なバケモノを、一体私はどうやって狩らなくてはならないのか。
「……私がどうあがいたら、君に勝てるって言うのさ?」
思わずそんな言葉が、彼女の口を吐いて出る。
「クローセル……君は死ぬ可能性がある、離れて——」
彼女が後ろを振り返ると、そこにクローセルの姿はなかった。
それを見て、安堵すると同時。 彼に一体何があったのか? という不安感に襲われた。
それを見てか、狼は口を開と、
「君のほうが圧倒的に力が上だ。 むしろ、俺のほうが勝ち方を教えてもらいたい。 それと、君の後ろについてきた男は、何者かに呼ばれた。 瞬間移動で、この場にはもう居ない。 安心して……こっちに集中しろ!」
前足の一振りが、大地を切り裂き彼女を襲う。
避けようと足に力を入れた瞬間だった。 もう片方の前足が、地面を強く蹴り、大地を揺るがす!
地震なんて、生ぬるいレベルではない。 立つのがやっとなど、生易しいものでもない。
立ってなど居られない!
揺れに伴い大事がパックリと割れる。 一般に、地割れという奴だ。 落ちたが最後、二度と地上に出ることは叶わないだろう。
恐らく、ここは魔術によって作られた空間だ。 故に、どう暴れようとも問題ないだろう。
つまり、相手は手加減してくれるわけがない。
なんとか、狼の前足の蹴り(パンチ?)を避けるも、着地した地面の揺れは異常だった。
体勢を立て直すのに、大きな隙が生じる。 その隙を突き、威力の高く、大振りであたりにくい一撃を、狼は繰り出してくる。
一歩が、大きすぎる破壊力……?
いや、相手は巨大な狼。 そして、駆動は狼とほぼ同等。
もっと言えば、狼を巨大化しただけで、特にこれといって特化している部分は見受けられない。
つまり、100倍スケールの狼を相手にしているのと同義。
剣によるダメージの大きさに違いはあれど、普通の狼に大地を踏みしめ、揺るがす力など無い。
離れてしまえば、揺れからは開放される!
彼女は、狼に背を向けた。 走るしかない。 高飛びすれば、一瞬で殺される。
その判断が、間違っていた。 狼に、背を向けるという判断が。
瞬きするほどの一瞬。 そんな刹那の瞬間、彼女は自分の背から、胸にかけて走る激痛を感じ取った。
そして、その激痛は瞬く間に全身へと広がり、機動力を奪う。
何が起きたのか。 その現状は、彼女の思考を飛び越して、既に出ていた。
爪で、背を貫かれた……!
「どうした? 殺すつもりで殺れって言ったのは、君だぞ?」
Capitulo Ⅴ 『機械仕掛けの騎士の塔』END
Capitulo Ⅵ『落下する刃はその瞳に時を移し出す』
- Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.60 )
- 日時: 2011/09/10 11:20
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: lkF9UhzL)
Capitulo Ⅵ『落下する刃はその瞳に時を移し出す』
「誰だ、テメエ」
アリソンが狼と対峙している頃、クローセルは突如周囲の景色が変わるのを認識し、視界のボケが取れると同時に眼前の相手に刃を向けた。
呼ばれた場所は、恐らく城の中。 そして、呼び出し主はクローセルの背後で震えているリーチェだろう。
夜にこんなところにいる黒装束……賊が入り込んだか、面倒だな。
とっさの時は、俺を呼べとリーチェには常日頃から聞かせておいたのが功を奏したのだろう。 右腕の切り傷を除けば、幸い大きな怪我は無い。
「ま、取り敢えず死ね」
一瞬。
クローセルは目の前の敵に一瞥をくれてやり、勝敗は決したと錯覚した。
腰のナイフで、相手の額を貫いたのだ。 死なないわけが無い。
そんな、先入観の生み出した一瞬を、『敵』は見逃さなかった。
ナイフが額を貫いたはずの黒装束は、そのナイフを引き抜くとクローセルの心臓に突き立てたのだ。
そして、
「取りに行く手間が省けて助かった、感謝するよ……クローセル」
身の毛もよだつ様な、冷え切った声が彼を襲った。
「何を……、何が狙いだ?」
「何、君たちの持つ指輪さ。 君たちの持つ魔式騎士、ベルゼブブとセエレが目的さ。 それさえ明け渡してもらえれば、オレはこの場から今すぐにでも引き上げて構わない」
甘い誘惑。 そして、それが裏切られるかもしれないという恐怖。
その二つの感情が、己の腹の内で渦を巻いているのが手に取るようによく分かる。
相手は第二撃を用意している。
それに対し、クローセルの瞳孔は音を立てて居るのではないかと思えるほどの勢いで絞られ、その黒装束のナイフの動きを、微細な体のブレを、息により動く喉の動きを正確に把握すると同時。
相手がその手に握っていたナイフの刃を引っ掴み、奪い取って見せた。
まさか、刃を握るとは予想だにしなかったのだろう。 相手の一瞬の隙を突き、クローセルはその手に持ったナイフをもう一度振り降ろす!
が、一瞬の出来事だった。 いや、時をすっ飛ばしたような現象が、目の前で展開された。
目の前の相手は、避けようがなかった。 バランスを崩し、立て直す頃には既にナイフの切っ先が当たっていた。
なのに、何故? 何故クローセルの真横に立ち、腰に指していたナイフを、その喉元に突き付けているのか。
唖然とするほか無い現象が、目の前で起きたのだ。
「貴様ら魔術師には、到底出来ない芸当だろう? もう、魔術の時代は終わり、新たな……異能者の時代が始まる。 その手始めに、騎士をオレは手に入れる。 力という名の絶対的な権力をな」
「ざけんな……!」
「貴様にはもう用はない」
ナイフが、弧を描いてクローセルの首筋を通過した。
ナイフの刃はクローセルの首を撫でるように、彼の首を切り裂く。 鮮血が噴出し、彼の顔から血の気が失せる様子がよく分かる。
「が、貴様はまだ利用価値のある人間だ」
黒装束は、部屋の中を見回すと適当な砂時計を手に取った。
それをまじまじと見つめ、逆さまに置く。
「しばらくは生きていてもらおう」
黒装束はその言葉の直後、何事も無かったかのようにその場の景色に解けるようにして消えた。
- Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.61 )
- 日時: 2011/09/12 20:02
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: lkF9UhzL)
胸から流れる血が、止まらない。
特殊な毒でもあるのだろうか? いつもなら、瞬時に回復してしまうところだが、突き刺されて数秒間。
傷口から噴出す鮮血の勢いは、弱まる事を知らなかった。
「どうした? 夜叉を完成させるに当たり、高次生物……特に、強力な魔力をその見に宿した生物を、切らねばならないのも、忘れたか?」
魔力を大量に宿した……生物を切ることで夜叉が完成する。
つまり、魔中などと言った魔法生物に一太刀浴びせなければ、この刀はただの刀。
膨大な魔力を通じ、初めて力を発揮する代物と言うわけか。
ただ、問題も大きい。 その辺の雑魚を斬った所で、刀は反応しないだろう。 それこそ、この大陸大神か、居るとしたら……?
彼女は夜叉を強く握り締め、ニッと笑う。 不敵な笑みに、全長100メートルを超える大神は、恐れをなした。
彼女の事が、危険に見えて仕方ないのだ。 胸を巨大な爪で貫かれてなお、不死身と言えど激痛の中笑う鋼と言うべき精神力。
人間では……無い。
「そう、そうなんだ。 道理で、迫力が無いわけだよ……ねッ!」
言葉が終わると同時。 彼女は、狼から見て完全に、予想外の行動に出た。
右手に刀を握り、自らの左腕にその刃を振り下ろす!
一瞬。 音も無く、彼女の振り下ろした刃は、その通過点にあった左腕を、瞬く間に切り離した。
腕は空を舞い、狼の足元に落ちた。
「そうだよ、膨大な魔力が……この刀には必要だったら! うっ……グ……。 私を斬れば良い、私の魔力も、君に負けない多大な量。 私で不足じゃないかって、少しドキドキしたけどね」
吐血しながら、自分を持ち上げていた爪を刀が切り裂く。
……よく斬れる、良い刀。
「まさか……自分を!」
「そうだよ、そのまさか。 爪を斬っても、魔力はなさそうだったかたらね。 取り敢えず、左腕を支払って即戦力を手に入れましたってところかな」
彼女の手に握った刀が、空気を切り裂き唸りを上げる。
それと同時。 狼の捕縛から逃れた彼女の身体に、異変が起こった。
体中が熱を発し、魔力を失い銀白色になった髪の合間から、青白い炎が噴出す。
異変はそれだけでは留まらず、とうとうその炎は彼女を包み込んだ。
……死んでからが、真骨頂。 人間として死んだ彼女は、もはや人間ではない。
「そういうことか。 継承に……俺を使ったのか。 中々、粋なことをする……!」
狼の巨大な爪が、音を立てて再生する!
前よりも硬く、鋭く尖ったそれはもはや、刃と言うに差し支えなかった。
それが彼女目掛けて振り下ろされるも、彼女を包み込んだ火球に触れるか否か。 寸前のところで灰と化す!
炎が消えると同時。 彼女の背には、真紅の翼。
長い真紅の髪と、金色の瞳が、好戦的に目の前を塞ぐ狼を見据えていた。