ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.64 )
日時: 2011/09/19 13:26
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: lkF9UhzL)

              Capitulo Ⅶ『不死鳥は骸の島で一人鳴く』

 靴の中に、冷え切った水がしみこんでくる。 それを嫌がり、私の足は陸地へと上がった。 何だろう、寒いな。
 凹凸の多い、足場の悪い島のような場所。 自分の足元に、目を向けた。 すると、そこにあったのは人骨。
 私の足は、無残にもそれを踏み崩し、目の前の私に迫る。

 「フェネクスの正体が……私? 何の冗談だ、フェネクス!」

 私の言葉に、彼女は冷笑する。 そして、ゆっくりと口を開いた。

 「フェネクスは、フェニックスではないんだ。 悪魔の階級であり、誰もがフェネクスになることができる。 そして、フェネクスとしての債務に追われるんだ。 フェニックスは、牡の鳥だ。 ただ、フェネクスには性別が無い。 神と同様の時を刻み、堕天後もなお、時を刻み続けた。 時とともに、妖力がフェネクスに宿った。 フェネクスの力は、知られる事は無かったが強大だ」

 彼女は足元の骸を一つ拾い上げると、掌から青白い炎を吹き出し、それを焼いて見せた。
 いや、焼いたのではない。 それでは御幣が生じる。
 炎によって、骸を凍らせた。

 「無限の妖力に、サタンをも超える神と同等量の莫大な魔力。 いや、己の手足を生み出さなかったところを見れば、それ以上ということも分かるだろう。 ただ、神とフェネクスには違いがある。 本来、フェネクスは籠の鳥……神の書斎の時を刻む鳥であり、神と同じくして時を過ごしている。 だが、神は不死鳥を飼っていた。 飼い主と、ペットの力の差は歴然。 フェネクスはサタンに加担し、飼い主として神に手放され、地に堕ちた」

 彼女はそこで深呼吸をすると、こちらへと一歩。 また一歩と歩み寄る。
 その手に握った刀を捨て、丸腰と言うに相応しい状態で。 こちらへと歩みを進める。
 そして……もう、目の前に迫ると、私の持つ夜叉の切っ先を己の胸に宛がえ、

 「それでは、後は任せたぞ。 私よ……いや、フェネクス」

 それをゆっくりと、突き刺した。 彼女は吐血することなく、その刃を自らに受け入れ、目を見開くと同時。
 土塊となり崩れ落ちた。
 どういうわけか、言葉が出ない。 いや、喋れない。
 冷え切った空気を吸い込めば、凍えるような寒さに襲われ……体中を激痛が駆け巡る。
 それが……彼女が崩れると同時。 嘘だったかのように消え去り、無数の映像が、私の頭の中を横切った。 走馬灯にも似たそれは、私の知らない景色、人間、動物、草木……。
 無意識に、見ていたのかもしれない。 だが、覚えの無い映像が、1秒弱の間に、通過した。
 そして……島の中心にある闇に飲まれた塔に、彼女の視線が向けられた。
 見えないはずだった。 だが、そこにあったことを知っている。 そして、真紅の美しい巨大なものだと言う事も。 あのクローセルの居た時代に見たあれと酷似ていると言う事も。
 知らないはずの、外観を……見ていた。

 「……不死鳥の経験か」

 膨大な魔力に、経験。 それを受け取る事が不死鳥の継承だとすれば……。 ついさっき頭をよぎった映像の中に、彼の姿が確かに有った。
 そう、私の目の前で笑顔を向ける。 ヴァン・ノクターンの姿が。
 

Re: 大好きだった君へ無様に生きた私より ( No.65 )
日時: 2011/09/21 11:47
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: lkF9UhzL)

 彼女はその長い金髪を揺らし、塔の扉を勢いよくこじ開けた。
 見た目以上に、その扉に重量は無い。 いや、実際は彼女の力量感覚が狂っているのだ。
 彼女の腕力は、既に常人の比ではない。 魔力には、生命体を進化させる性質が存在する。
 その総量に応じ、特定の速度で生き物の限界まで進化を続ける。 彼女の持つ数億分の一の魔力で、人間は人からバケモノへと進化できるのだ。
 その膨大な魔力を手にした元人間。 それは、異化に恐ろしい姿に変貌するのか。 そしてその終焉の姿を手にしたとき、彼女は人間と呼べる代物なのか。
 誰に分かるだろうか?
 暗い扉の向こうの闇へ、足を踏み入れた。