ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 第一章 平凡な日常にサヨウナラ ( No.33 )
- 日時: 2011/07/30 22:22
- 名前: 道化師 ◆tZ.06F0pSY (ID: OXTNPTt9)
『な————…!?』
僕はあっけなく腕を掴まれて、横に引っ張り込まれた。
そして手で口を押さえつけられ、身動きできなくなってしまった。
殺される。
あの女の子みたいに。
≪ 第二話後編 選択肢 ≫
僕はその腕から逃れようと暴れた。
まだ死にたくない。
こんなところで…殺されてたまるか——!!
「暴れるな、静かにしろ…」
だけど。
不意に聞こえた、落ち着いた低い声。
僕は驚いて動きを止めた。
なぜなら、その声は聞いた事のある声だったから。
「風間…会長…?」
そう、その声は…この学校の、生徒会長の声だった。
「今はいい、それより静かにしろ…男が通るぞ」
カツ、
カツ、
カツン
カツ、
カツ…
カツ……
…
「…行ったか…」
「あ、あの…生徒会長が何でこんな所に…?」
3年2組、生徒会長 風間 礼司。
彼はチラッとこちらを見て、すぐ視線を外して僕から手を離した。
「俺が知った事か…おそらく『お前等』と同じだ。
メールを見た後、たまたまお前が例の男に追われていたから助けてやっただけだ…」
「…」
僕と同じ。
ということは、会長も気が付けばここにいたのだろうか?
「———…会長、その方は誰なんでしょうか…?」
するとその時、部屋の奥から声。
女の子の声がした。
「あ…」
そこには、4人の男女がいた。
僕に声をかけてきたのは、茶色の腰まであるロングの女の子。色白で…瞳は透き通るような綺麗な緑。
その彼女の後ろで僕を怪訝に睨みつけるのは、茶色い髪の背の高い、カッコいい感じの女の子。
さらにその後方、窓の側で腕を組みながらこちらを見ている、寡黙そうな男の子。
そしてその男の事は対称的に、明るい笑みを浮かべた、右目の下にほくろのある女の子。
「…ここに連れてこられたのはお前だけじゃない。俺や…あいつ等も同じ目に遭っている」
「———…」
風間はあっけにとられる僕に、対して興味無さそうにそう言った。
すると、僕に話しかけてきた女の子が近づいて来て、丁寧にお辞儀をする。
「貴方も脱出ゲームの参加者なんですね…初めまして、森本美都です」
「あ…どうも、不二磨 悠氏です」
「——え?不二磨 悠氏って…ウチと同じクラスの?」
と、今度は僕等の会話を聞いていた元気そうな女の子が僕の側に寄って来た。
底抜けに明るい笑顔に、少しお気楽な口調。
…って、その口調とハイテンションさはまさか…
「よっ!!留美やっ!!」
「は、葉峰…!?」
そう、元気そうな女の子の正体…それは、僕と同じクラスの転校生。
今年大阪から越して来た彼女は、前向きで気さくだ。
「葉峰さんと知り合いなんですか?」
「知り合いというか、同じクラスの…」
「そうそう、悠氏ええ子やから名前覚えてんねん!」
『ええ子』って…
僕はどう言っていいか分らず、とりあえず苦笑を浮かべた。
「———あの、二人もこっちに来たらどうですか?折角なので自己紹介した方が…」
すると森本と名乗った彼女は、残りの二人も呼んだ。
彼女が笑いかけると、怪訝に顔をしかめていた女の子は嫌々こちらへやって来た。
男の子の方は無言のままその場に残っているが、間もなく森本に手を引っ張られこちらへやって来た。
「…ど、どうも不二磨悠氏です…」
「………陽島奏」
陽島と名乗った彼女は、僕と視線すら合わせようとしなかった。
機嫌が悪いというか、何とも言えない殺気を帯びている様な…
「とっ、とりあえずよろしく…」
なので僕は、取りあえず握手だけでもしようと彼女に手を差し出した。
だが、彼女は僕の手のひらを一瞥して、一言。
「触るな、穢れる」
ピシッ
その声のトーンの低さに、怖さで背筋が凍りそうだった。
あっけにとられる僕を気遣ってか、森本が「あの人、男の子が嫌いみたいなんです…」と耳打ちをした。
そ、それでも少し心に刺さったな…
「………」
そして寡黙そうな男の子。
彼はどこかそっぽを向いて、口を閉ざしたままだ。
だけど、そんな彼は僕等の視線に気が付き、一言だけ口を開いた。
「京乃…智哉」
それだけ言うと、再びふいと視線をずらした。
そしてそれからは何も言わず、上の空になってしまった。
「…」
とりあえず、風間を含めて5人の人物に接触できた。
少なくとも参加者は、僕を含めて7人…
7人…?
「あっ…!」
「?
不二磨君どうしたの…?」
しまった———————真を一人にしたままだ!
「あっ…僕の幼馴染の新橋 真が学校の体育館にいるんだ!早く合流しないと…!」
「はぁ!?なんや真もおるんか…そら急がなあかんな!」
僕は再び教室を出ようと立ち上がった。
そして教室から出ようとした、その時だった。
「待て、一年」
…風間だった。
「お前、さっき紅服に追われていたばかりだろう…態々女一人の為に死にに行くつもりか?」
「なっ…?」
しかも風間が言った言葉は、思いもよらない言葉だった———
「…どういう、意味ですか?」
「分らないのか?今動いたら紅服の男に見つかるリスクが高くなる…
たかが女一人と合流する為に、そんなリスクを負うのか?」
「だけど…さっき電話で離したとき、あいつ震えてたんだ…!心細いに決まってる!」
「だったら」
———…今度口を開いたのは、陽島だった。
僕等は彼女の方を見る。
すると彼女はあからさまに面倒くさそうに溜息をついて、吐き捨てるように言う。
「電話できるんなら、その真って子の方からこちらに来てもらう様に言えばいいだろ…」
「っ——!そんな事が…できる訳無いだろ!?」
「いや、そいつの言うとおりだ…」
そして風間も——彼女の意見に納得と言わんばかりに、言った。
「お前一人が合流したとろで、何も状況は変わらない。
女をここに呼んで、皆で固まって行動した方がより安全だ…」
「さぁ、お前はどっちを選ぶんだ?
限りなく死に近い可能性と、限りなく生に近い可能性と」