ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 脱出ゲーム  ( No.45 )
日時: 2011/08/05 15:20
名前: 道化師 ◆tZ.06F0pSY (ID: OXTNPTt9)

僕は突きつけられたものを、決して「選択肢」などと考えなかった。


それは、僕の答えはもう決まっていたから——————





≪ 第三話 仲間≫





「…それで、貴方は僕に何をさせたいんですか…?」

僕は、拳を強く握り締めて言った。
今、こうして立ち止っている時間ですら惜しいというのに…何で風間はそんな事を言うのだろうか。
僕が睨むように彼を見ると、風間は眼鏡を押さえながら僕を真っ直ぐと見つめて言う。


「——別に何も。俺にはお前がどうなろうと知った事ではないしな…」


そして彼はそれだけ言うと、僕から背を向けてしまった。
周りの人たちも僕を見た後、風間へと目線をずらし——押し黙った。
僕は少しだけ間をおいて、そして体育館へと走っていった。



* * *



できるだけ足音を忍ばせて、だけどもできるだけ早く。
僕は長く暗い廊下を駆け抜ける。
だがその背後に、ふと気配がした。

「悠氏!悠氏!待ってや!」

その声は、先程僕が聞いたばかりの声。
振り返らずとも誰だか分る特徴的な声に、僕は応答した。


「葉峰…?馬鹿っ、何で来たんだ」
「そんなん、同じクラスの仲間放っとける訳無いやろ?
 悠氏も真もウチの大事なクラスメイトやん!」


いつの間にか隣に並んでいた彼女は、当たり前のようにそう言ってニカリと笑って見せた。
その笑みを見ると———自然と僕も笑顔になる。
…本当に前向きなんだなぁ。
彼女に元気づけられ、僕も心の中で気合を入れて走った。

そしてついに、
体育館の扉の前へと辿り着いた———



「………」

体育館の扉の前、紅服の男はいない。
人の気配はおろか、他に物音一つしない。
唯一聞こえるのは水道の水が時折、ピチャンと滴る音のみだった。

「なんか…入りたくないなぁ……」

葉峰の気持ちも分る。
夜の学校はただでさえ怖いのに…何か扉からすごく重圧感を感じる。
だけど、この先に真はいるんだ。はやく、合流しないと————


僕と葉峰は顔を見合わせて、頷く。
そしてゆっくり、体育館の扉を開いた。



—————…

「なんや…当たり前やけど、思ったより普通やな」

体育館に入った彼女は、きょろきょろ周りを見渡してホッとした様子で言った。
だが、僕は違った。

「真っ…!」

僕は倉庫の扉の方へ走り寄り、扉の前で立ち止まった。
中にいる彼女を刺激しない様に、僕は真の名前を呼びながらゆっくりと扉を開いた。
そして倉庫の中に入り、電気のスイッチを真っ先につける。
するとそれと同時に、倉庫の中から小さな悲鳴が聞こえた。

「…真?」
「悠氏っ!」
「—————…誰?」

そこには、恐怖で涙を流す幼馴染、そしてもう一人女の子がいた。
真の側にくっついて、真を慰めていた様子だ…

「悠氏っ!怖かったよ…ッ」
「わっ!?」

僕がもう一人の彼女の方を見ていると、真が勢いよく抱きついてきた。
その様子を見て、葉峰はニッと笑う。
そしてニコニコ笑みを浮かべながら、真の方へ寄って来た。

「よっ、真!元気そうやな!」
「あれ…?留美…ちゃん?留美ちゃんも来てくれたんだ!」
「まぁな———おかげさんで、悠氏と熱々な所見せつけられてもうたわー」
「エッ!?」

すると真は、驚いた様にそう声を上げて離れた。

「ちっ、違う違う!そう言うのじゃなくて…!」
「またまたぁ〜照れんでええよ、真。

 …それよりやけど、さ」


と、そこで葉峰はもう一人の彼女の方を、何故か睨むようにして見た。
すると睨まれた方の彼女は柔らかく微笑んで、口を開いた。



「私の名前は十六夜 令。よろしくね」



柔らかく笑う彼女の笑みは、本当に可愛いかった。
思わず僕はドキリとするが、何故か真に睨まれてしまった。

「あっと…僕は不二磨 悠氏です」
「…葉峰留美や」

「そう…真ちゃんの友達?私はさっきここに来たばかりだったの」

葉峰は十六夜と名乗った彼女を睨んだままであったが、彼女は笑みを崩さない。
そして真は十六夜に歩み寄って、深くお辞儀をした。

「本当にありがとうございました!本当に心細かったんです…」
「ううん、困った時はお互い様…でしょ?」


「…ホンマにそう思っとるんか?」


だが、二人の会話を聞いて…葉峰は余計に険しい顔で彼女を睨んだ。

「…葉峰?」
「ホンマに?困った時はお互い様とか思ってるん…?」

「……」

葉峰を見て、彼女は首をかしげた。
しかし、それでもなお彼女は笑みを崩さない。


葉峰は一体何を言ってるんだ—————————?
体育館倉庫は重苦しい沈黙に包まれ、僕と真は互いの顔を見合わせた。
張り詰める空気。
睨みあったままの二人。

その沈黙が耐えきれなくなり、僕は何か言おうと考える。
だが言葉が見つからず、口を開いては閉じてを繰り返していた、その時だ。





ガタッ


その物音は、誰もいないはずの倉庫の奥から聞こえた。