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Re: 脱出ゲーム  ( No.67 )
日時: 2011/08/11 09:42
名前: 道化師 ◆tZ.06F0pSY (ID: OXTNPTt9)

風間は笑った、いや…嘲笑った。






「風間———やっぱりあんたはいけ好かねぇ奴だよ」


だがその時、不意に榛原が口を開いた。





≪ 7話 罠 ≫





「…風間、俺が————気付かないと思ってんのか?」


榛原さんは風間会長を見据えて、ただ淡々とそう述べた。
私は一瞬何が起こったか分らなかった。

ただでさえ気味の悪いメールが送られてきたばっかりなのに…


「あの、どうしたんですか!?」


私は少し不安になる。
たぶん今の私は冷静じゃないのだろう、私は普段とは違う問いただす様な口調でそう尋ねたのだ。
すると榛原さんはニッと私に向かって———笑った。

———ドキッ

その時大きく私の心臓が跳ねた気がした。
『な、ななななななっ…』
私は顔を真っ赤にして口をパクパクしてたけど、そのうち陽島さんと目が合ってようやく我に戻った。
陽島さんは「解せない」という風に溜息をついていた。



「———どうせあんたの事だ、気がついてるんだろ?」
「何の事だか…どう言う意味だ?」
「とぼけんなって」


風間会長は興味無さそうな表情で榛原さんを睨んだ。
だけど、榛原さんも怯む事無く彼を睨み返していた。

「やっぱ…あんたと俺は違う。あんたは俺が思ってるよりタチが悪いな」
「…ふん、だったら何だ?それに俺が何に気がついてるって言うんだ」



「…メールの文体だよ」



そこで初めて、風間会長の目が少し見開いた気がした。


「———榛原、風間が何か隠してるっていうのか?」
「おそらくな」


陽島さんが榛原さんに尋ねると、榛原さんは自信ありげに肯定。
そして榛原さんは自分の携帯を取り出して、言った。


「確かに一件目と今回のメールの口調は変わってはいるが…
 句点で必ず行を変えるスタイルは変ってない。

 お前はその事に気付いたんだろ?




 つまりこのメールは、黒幕が2人以上いるように装って送られてきたメールだって」




「何…!?」
「えっ…?」

陽島さんと私は、その言葉に思わず声を漏らした。
そして私は再び、慌ててメールを見返してみる。

本当だ…確かに同じ、同じ文体。
口調は違うけど、今そう言われて見直してみるとその通りだった。


『—————、あれ?』
だけど私は、追加ルールのメールを見た時———ふと不自然さを感じた。



“外の時間で2時間が過ぎた頃だろう、これより追加ルールを言い渡す。”


…、
何か…変じゃない?




「くく…っはははははは!」

だけどその時。
風間会長が声を上げて笑ったものだから、私はそちらに気を取られてしまった。


「なんだ…少しはできるじゃないか、榛原」


風間会長は笑ったかと思えばすぐに———真剣な顔つきに戻っていた。
そして榛原さんを睨むように真っすぐ見据える。

だが榛原さんは涼しそうな顔で、



「そりゃ光栄だな。俺、案外分析得意でね」



そう皮肉交じりに言ってみせていた。

…、
けど、その言葉を聞き風間会長はなぜか満足げだった。
そして人差し指をたてて、こう言った。




「だが甘いな、このメッセージで外部犯である可能性も消える」



「…何?」

榛原さんが首を傾げる中、その言葉に私は一瞬ハッとした。


「追加ルールの書き出しを見てみろ、“『外の時間』で2時間が過ぎた”と書いてあるだろう?
 外部犯ならこんな書き方はしない…」


「…やっぱり、そうですよね」


私は風間会長の言葉を言葉を聞いて、確信した。
会長が言いたい事…それはおそらく、こう言う事。



「今時間が進んでいないという事を仮定としないとして…
 まず外部にいる人がわざわざ『外の時間』なんて言い方しませんよね。
 書くなら、外の時間ってわざわざ書かずに『二時間が過ぎた』だけで十分だと思いますし。

 …まぁ私の考えすぎかもしれないですけど」

「いや、貴様の言うとおりだ。
 黒幕の人数を錯覚させようとしたところを見ると、
 おそらく黒幕は犯人が複数いると俺達に錯覚させる事によって、
 外部から複数で監視、またこのゲームが執り行われていると思いこませたかったんだろう」


すると、風間会長は私の話を聞いて肯定した。
だけどその時、


「つか、考えすぎだろ…中にいるあたし達に合わせて書いたメッセージなのかもしれないだろ?
 それに犯人がそんなヘマするとは思えないね、わざわざ自分の正体がばれる様な事は———」

「いや、おそらくこれは『わざと』だ」


と、今度は陽島さんが面倒くさそうにそういった。
だが風間会長は待っていた言葉だと言わんばかりにすぐ反論を述べた。


「これは———犯人がスリルを味わいたいんだよ。
 自分の正体を突き止められるのが先か、参加者が殺されて全滅、また脱出するのが先か…


 言ってしまえば、犯人も何らかの刺激が欲しい訳だろう」


「…何でそう言いきれる?根拠は?」



風間会長の言葉に、腕組みをして考える榛原さんが問った。
私も、同じ疑問を抱いたので、私は頷いてみせた。


すると会長は嘲笑でもない皮肉めいた笑みでもない…ただ何かを楽しむ様な笑みを浮かべて、こう言った。





「俺がもしこのゲームを取り仕切って行うなら、同じ事をするだろうからな」







…狂気混じりのその笑みは、私の背筋を凍てつかせた。