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- Re: Cheap(チープ) 8月24日 第三話更新! コメ求む! ( No.15 )
- 日時: 2011/08/30 20:44
- 名前: 風猫(元;風 ◆jU80AwU6/. (ID: COM.pgX6)
Cheap(チープ) 〜第三話「迫り来る死」〜
『あぁ、今日も空は澄んでいます。 良好! 俺の心も大航海! あっ? 何だアレ? カブトムシ? 自棄にでけぇ……』
あぁ、暑い暑い夏が来た。
最近、いや違うな。 もう、最近じゃないか? あいつが東京に疎開……戦争時じゃねぇんだから疎開とかねぇわ。
親父さんの都合で引っ越してからかな? 急に都市化が進んでヒートアイランド化したのは。
過去を思い出せば今やもう無い池や川……林の中で虫を追い回したあの過去の残影。
カブト虫やクワガタ虫捕まえて大きさ比べたり勝負させたり……ど田舎だったのに……
それでも、まだ……救いがあるとすればこの澄んだ空だ。 空気が汚れていないって証拠じゃないか?
俺たちの町の時間は進んじまったけど、俺たちの心の中の時計は、全然動いていないってのが良く分るんだ。
なぁ、春ちゃん……刹那? 俺さ、お前らが結婚したらお似合いだと思うぜ?
心から祝福できると思うんだ。
そんな事を思いながらまだ、煙に犯されぬ綺麗な空を眺める。
すると、俺の視界に信じられない物が飛び込んできた。
色は赤茶色、足の数は六本……節足動物。 雄雄しい角。
間違えなく男の子の憧れの昆虫の王者、カブト虫だ。 だが、距離を考えると自棄にでかい。
俺は、暫し呆然とする。 何故だ。 空を見上げるものなど誰もいないのか?
誰もそれを気にしないのか? 可笑しいだろう?
「おい! レオ! お前の台詞だぞ!」
そんなパニクる俺に激が飛ばされる。 当然だ。 俺は、今、部活中だ。 通称「こえ部」。
俺の所属しているそれは、声だけで演劇をするって言えば良いのか?
そんな部活でさ。 この声優志望の俺にとってはうってつけなわけ。
勿論、俺みたいに声優に憧れて此処を受けた奴も沢山いてさ。 案外、熱気に溢れているだ。
こんな部活、こんな片田舎にそうそう、有るはずもねぇだろう?
後、二週間で夏休みの大会が開始されるから皆、緊迫状態にあったりするし余計に今は凄いな?
そんな状況下、俺は空を見上げてボーっとしてるんだから凄いね?
「すみません! それにしても部長! 外見てくださいよ! スゲェデッケェカブト虫……アレ?」
「居ないじゃないか? そもそもカブト虫とか、お前は餓鬼か?」
まだ、俺は、興奮が覚め止んでなくて愚かにも先程、見たカブト虫の話を口にしてしまう。
部長は一応、外を見てひとしきり確認すると怪訝そうな顔をして正論を述べた。
俺が、振り向くとカブト虫の姿は欠片も無く。 俺は、見間違えかと落胆する。
そして、俺は、自分のあてがわれた如何にもエトセトラチックな台詞を口にする。
「あっ、お早う御座います!」
闊達な舌の動きで円やかに……あぁ、悲しい。 五十頁に及ぶ脚本の中に俺の台詞は是だけだ。
良く、声優の鈴村さんに声が似ているだの言われるが演技は伴っていないという証明だ。
カブト虫か。 そうだな、夢をつかむ実力も無いのにそんな物に現を抜かせても居られないかもな。
俺は、そう思って記憶を忘却の彼方へと必死で追いやった。
そして、十一時半。部活が終了した。
七月も下旬、高校は夏期休暇に入っていた。 あぁ、酷暑と言うに相応しい炎天下の地獄。
アスファルトがジリジリと音を立てる感覚。
俺は焼き死にそう。 あぁ、出来るなら女の子の踵下ろしでも股間に受けて死にたい。
そんな事を思いながら何時もの三人組で歩く。
あぁ、家が近所ってのも有るんだけどな? やっぱ、是が落ち着くよな?
俺は、何時も左端。
春ちゃんは、最高の副官であり俺、詰り春ちゃんの嫁である刹那を右腕と呼んでたから、それが関係するんだろう。
「なぁ、春ちゃん?」
「何だ?」
俺は、空を見上げながら過去の記憶を手繰り寄せる。
小学四年生の……春水と刹那と俺達三人で暮らした最後の夏。
今まで見たこと無い位でっけぇカブト虫を見つけてさ? それを、戒って名付けたのよ?
俺はね。 部活中に窓から見たアレが……戒に思えてさ。 凄くまじめに育てたな。
勿論、カブト虫なんて一夏の間で命を落とす儚い命なんだが……何か、ロマンチックだろ?
ロマンが有ると何か飢えが少し和らぐって言うかさ。
実は、俺は、気づいてる。 普通に接しているようで春ちゃんが、俺を目の敵にして蹴り落とそうとしているのが。
理由も大体分っている。 二人の熱愛振りを見れば俺の存在は邪魔だろう?
でもよ……こいつ等二人だけじゃ壊れてしまうんじゃないかと俺は、思うんだよ……
だから、何とかこの関係を……改善したいんだ。
「俺さ、スゲェのみたんだ。 すっげぇでっけカブト虫でさ……」
「俺も見た。 あれは、凄かった。 小学四年生のとき見た戒を思い出した! お前も見たのか?
どいつもこいつも自分と同じ目線しか見ようとはしないのかと嘆いていた所だ!」
呆ける事も無く春ちゃんは、俺の話に乗ってきた。
それも、これ以上無いほど純粋な表情。 高校生活を始めて始めて見る。
正確には、刹那以外の人間に始めてみせる表情だ。
そんな、春ちゃんの顔を見て刹那は、ムスッとして言う。
「むすぅ! 何で、紅木咲君はそんなに群青原君を砕けた呼び方するのかなぁ? ムカつくよ?」
彼女のその表情が冗談じゃねぇのを俺は直ぐに察知した。
全身の毛と言う毛が総毛立つ。 背中を嫌な汗が滲む。 ごくりと喉を鳴らす。
「行くぞ。 あのカブト虫と思しき存在は、裏山の方へと向かって飛んでいった!」
「やれやれだぜ」
そんな彼女の言葉など無視してまるで子供のように体を弾ませて春ちゃんは言う。
早く、あのカブト虫の正体を見ようと。 演技では有りえない自然な動き。
全く、コイツは昆虫の事となると性格が変わるからな!
思いの他、上手く行ったことを喜び自らを賛美しながら俺は、駆け足になる。
『あぁ……戻れる。 こいつは、やっぱり純粋だ。 きっと、俺達はまた、交わり合い仲良くなれる。
幾つもの苦難があるだろう。 でも、それすらも全て乗り越えられる。 そうだ! 可能性に満ちているじゃないか!』
俺達は、裏山と呼ばれる今や、数少ない沢渡の自然の園へと向う。 蝉の鳴き声がそこかしこから響く。
適度に有る木々の葉っぱが、日光を遮り吹き抜ける風が気持ち良い。 数少ない涼める場所だ。
「所で群青原君! そのカブト虫ってどん位大きいのぉ?」
「うーん、あれは、遠目だったから分らないがもしかしたら十メートル有ったかもな!
やばいぜ! 俺たちの世界にもオームが存在するかも知れないって事だ!」
裏庭に着くと先程まで走っていたせいで言葉を発せず仕方なく疑問を口に出来なかったであろう刹那が、青ちゃんに声を掛ける。
余り息切れしている様子も無く流石、一年にしてバスケ部のスタメンってだけはあると安心する。
あぁ、適度に汗が滲んだ太ももとかマジで情欲をそそる。
そんな、やらしい目を俺が向けていることに気付き青ちゃんが、目を眇めて指摘してきたので俺は、彼女から眼を離した。
青ちゃんの言葉に十メートルかぁ、もしかしたらそれ位有るかもなと思案する俺。
そんな、見た物でなくては絶対に、信じられないような夢物語を春ちゃんの言葉だとか関係なく彼女は信じる。
そりゃぁ、そうだ。 彼女もまた、こいつと同じで昆虫大好きっ娘だったりするからなぁ……
いやぁ、昔、良くした談義を思い出す。
————もし、昆虫が、人間と同等の大きさなら————……
今、考えれば何て現実離れしたチープな考え。
でも、虫って凄いんだぜ実は? 自分の何倍もある物を担いで歩く働き蟻。
自分の体の大きさの十倍以上の高さ、長さを跳躍するバッタ。 奴らがもし人間同等のサイズだったら。
凶悪な生物兵器になるだろうなって今の俺なら思うけど……昔は夢に輝いていたから。
巨大なカブト虫の背中に乗って世界を一周するとか言ってたっけ……
「ガハッ……何だ? 是は————……!?」
何だ? 是は?
突然、脳天を砕かれたような衝撃……背にしていた林の置くから何か赤黒い長い物。
是は、足? 節足動物……カブト虫の足? 何?
俺を……貫いた?
体中が悲鳴を上げる。 呼吸が出来ない。 口内を鉄臭い血の臭いが支配する。
死ぬ? 俺は、死ぬのか? 腹を貫かれて……意識が朦朧としてきた。
あぁ、訳が分らない。 でも、是だけは確かだ。
死ぬ……俺は死ぬ! 何で……理由なんて無い。 ただ、俺の未来なんて世界にとって小さなもので。
何の脈絡も無く消えるもので……あぁ、まだ、こいつ等と仲良く遊ぶことも……声優になることも……
夢なんて何一つ叶えてないのに…………
「……レオ!?」
血塗れの俺を見付けて二人が絶叫する。
あぁ、良かった。 絶叫してくれる程度には、俺を大事に思ってくれていた。
「逃げ……ろっ……」
そう、言い残して俺の視界は途絶えた。
頼む……生き延びてくれ。 それが俺の願いだ。
あぁ、心の中でアイツが生きていて俺たちに会いにきてくれたって……馬鹿な夢だぜ?
十年近くもカブト虫が生きてられる筈が……そもそもいくらデカイからってアイツは精々、昆虫の枠内を外れない程度の大きさだったじゃないか……
————————————コイツは、戒なんかじゃ無かった!
>>END
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