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Re: Cheap 第五話更新 Part1 9/10 コメ求む! ( No.31 )
日時: 2011/09/22 23:10
名前: 風猫(元:風  ◆jU80AwU6/. (ID: z8eW1f9u)

Cheap(チープ) 〜第五話「阿鼻叫喚」Part2

「春水君。 刹那ちゃん……助けに来た」

 カブトムシ喋った。 間違いなく今、あたし達の名前を口に出して助けるって言った。
  せっ説明を求む! 何を言っているかあたし自信も分らない! とにかく有りえないが、現実に……れれれれれっ?
  意味が……はひゃっ……はっ、わっけが!? 何でしゃべる。 カブトムシは声帯とかないからしゃべるとかできるはずがないのに!
  そもそも、声帯があったところで這いつくばった四速歩行じゃ構造の都合上、言葉をはっするのは、無理!
  無理! でも、現に……訳が分らない。 そもそも何で彼は、あたし等の名を知っているの?
  ふと、過去の残影があたしの脳内を巡る。 それは、あの初夏の思い出。 まだ、幼かったあたし達。
  春水君が、引っ越す前の……あたし達が過ごした小学生時代最後の夏。

             ————「そうだぁ、カブトムシさんに名前付けようよぅ! あたしは、ルチアって名前が良いなぁ」

  ルチアって名前にしたいって言った理由は覚えていない。 多分、その頃好きだった小説のキャラクタだった気がする。
  今だったら多分、アリアとか口走る気がする。 
  でも、そんな女っぽい名前却下って言われて廃案になったのは良い思い出。
  それで結局さ……「戒」、戒って名前になった! 多分、ある忍者物の漫画の主人公の名前。
  そう言えばPS2でもそんな名前のイケメン忍者が主人公なの有ったような。 
  あうあうあうあうあう……なんでこんな事を考えているんだあたし!?
  それで、あたし達は、彼に自己紹介した。 これも言い出したのはあたし。 


                   「あたしの名前は刹那っての! ほらほら、皆も戒に自己紹介!」————

  今にして思えばばかばかしい。 虫に人の言葉なんて通じないのに……とか、今となっては思い出したら恥ずかしくなる記憶。
  でも、でもさ……でもでもでもでも……でも、やっぱりさ。 あたし達の名前を知っているカブトムシとか彼しか……

「戒——————ッ?」

  あたしは、無意識にその名を口にした。
  ハッとなりあたしは、唇に手を当てる。 
  彼は、そんなほうけたあたしや春水を護るように身をていし頑強な体を盾にし続ける。
  人間の体など紙切れのように噛み千切るあの怪物蟻たち。 
  万力のような強力な顎の攻撃を物ともせず振り回し人の居ないと思われる場所に! あるいは迫り来る後続の蟻に投げつける。
  時には、自らの角で蟻を宙へと放り投げたり鋭い鉄すら軽く貫通させそうな足で踏みしだく。
  まさに蹂躙だ。 頼もしくも恐ろしい。 彼等が、巨大じゃなかったのは、彼らだけの世界になってしまうゆえ?

「あぁ、覚えていたくれた俺のこと。 助けに来たよ! 何でカブトムシなのに今まで生きているのかとか、この巨大な昆虫達は何なんだとか、色々な疑問があるだろうけど今は、聞かないでくれ! 生き残る事を優先するんだ!」
 
  無口に戦いつけるカブトムシの背中を見詰め、もしかしたら違ったのかなと不安になる。
  でも、だったら何で……あたし達を護ろうという組織が居てその組織は巨大昆虫で巨大昆虫に抵抗しているとか?
  厨二も良い所だ! そんな答えの出ない問答をあたしは続ける。 となりには、呆然とした春水。
  ひとしきり暴れ周り蟻どもを殲滅するとカブトムシは、正対した。 どうやら、先ほどのあたしの問い忘れていなかったらしい。
  どうやら、本当に戒らしい……正直、自分で言っておいて驚きだ。 聞きたい事が、山ほどある。
  でも、今は、確かにそれを聞いているほどの余裕はなさそうで、彼に従う方が良さそう。
  言い終えるより速く戒は、羽を広げた。 何をと怪訝に思ったが、どうやら自身の甲殻であたし達を護ると言うことらしい。
  どうやって、中に入ればいいのか……そもそもスペースは有るのか疑問に思ったが、どうやら、ご丁寧に昇降用の取っ手がある。
  人の手が加えられているのが丸分りだ。 酷い。 昆虫だって痛覚はある。 痛いだろうに……
  それと同時に理解する。 彼は、今までの唯、巨大な輩と違い人の手で直接改造された存在。
  そして、この巨大昆虫の件は恐らくこの巨大化した戒と連動している。
  生物テロでもやろうとしている奴がいるのだろうか? それとも実益ある実験の過程での失敗?
  今は、分らないけど考えない方が良さそうだ。
  ところで紅木咲レオを殺したカブトムシでは無いよね? 
  どうなのかな……
  あたし達が、戒の背中まで到達すると羽の部分が折りたたまれ薄暗く狭い空間へと変貌する。
  外の地獄を無防備に走るよりは余程良いけどね。 正直、思ったより臭いもないし……ってか、無臭だし。
  羽に寄りかかると柔らかいわけじゃないけど意外と心地良い。 それに、甲殻の隙間から陽光が漏れるから真っ暗闇でも無いしね。

「ねぇ、群青原君……どう思う? 戒だよ……有りえなくない!?」
「あぁ、有り得ない! だが、現実と思わざるを得ない。
俺は、めまいがすると同時に何年ぶりの再会を祝う気分だ。 レオが居ないのが……残念だ」

  あたしの言葉に、春水は、疲労の溜った、でも、嬉々とした声で答えた。 最後だけ少し寂しそうに……
  あぁ、紅木咲レオが、居たらどう言っているだろう。 切ない。
  勇気を出して聞いてみよう。 そう、決心する。 カブトムシの音感知器官は……毛です。
  うん、背中にも見事に生えてるわね。 いや、良い男とか思ったわけじゃ決して無いぞ! 無い……からな!
  気色悪い!

「ねぇ、戒?」
「ん?」

  反応した。 よし、聞こう。 春水は、沈黙してあたしが何を言うのか伺っている。 何よ? 別に悪い事言う気じゃ無いよ?

「紅木咲レオが、いないこと何で気にしないの?」

  あたしの言葉に対して沈黙。
  春水は、あたしの質問に「俺も聞こうと思っていた」と、一言。

「……そうだ、レオ君! レオ君は、どうしたんだ!?」
「とぼけるなよ!? お前の左前脚に血がこびり付いていた! あれは……あれは、あの赤い血は紅木咲レオの血だろう!」

  心底、疑問符を浮かべたようなどもった声。 低く響く威厳のある声の性か余計になせけない。
  あぁ、彼じゃない。 当然だよ。 彼が戒なら……紅木咲レオを殺す理由なんてあるはずがないもの!
  でも、それに対して間髪いれずに春水が、怒声を上げる。 今まで、紅木咲レオに関して何も語ろうとしなかった彼。
  心の底では猛々しいほどに怒っていたのね? あたしもその血痕は目撃したのだけど……あたしは、そう思いたくなかったのよ。
  だって、そう思ってしまったら少し戒を……殺したくなってしまう。 真相を待つ。

「…………違う。 この血は……いや、そうだ。 そうだ……これは、これは、レオ君の血!?
あぁ、俺は、あの禁忌の力に当てられ意識を失って……!」

  まるで記憶が混濁しているかのような不明瞭な感覚。 でも、彼は、次第に思い出したというような雰囲気で懺悔しだす。
  そ……んな? 無いよ。 えっ、そもそも禁忌の力とか……分らない。 何も……分らない。

「もう、良いよ……戒に罪は……無いと思う。 だから、その……ちょっと、暗いな? 眠たくなっちゃう」

  もう、これ以上辛い思いを今はしたく無い。 唯、今はそう思った。 
  眠い。 疲れた。 眠ることが出来るならそれでも良いのだけれど……この町を離れる事になるのなら……
  最後にこの町の姿を焼き付けたい。 昔とは、変ってしまった町だけどあたしの町なんだ。
  ボロボロのグチャグチャに倒壊して崩落して人の死体や巨大な昆虫たちが跋扈しているけど愛した場所なんだ……

「……甲殻の部分、実は、取っ手がある。 そこを引くと外の景色をみることができる」

  戒は、心底辛そうな憔悴した声で、自分の体に施された機能を教える。
  あぁ、本当に……体を弄り回されたのだな。 そう、思いながら取っ手を探し当てそれを開く。
  光が眩しい。 「んっ」と、小さくうめき声が漏れる。 下を見下ろすとやっぱり、残酷な地獄絵図が展開していた。
  彼は、その強固な鎧に物を言わせ相手を意にも介さずに通り抜ける。
  人間が居れば、その人間を護るために力を振るうけど助けられた人々は、助けて貰ったと認識する事はなくただただ、恐怖に茫然自失として倒れこむだけ。 当然だろう。 はたから見たら気紛れの連鎖に過ぎない。
  誰にも感謝はされずとも彼は、人がいれば人に肩入れする。 最も、その先は構ってくれないけど。
  
  戒は、あたし達を乗せて無言で走行を続ける。 あたし達も二人より沿いながらも会話が見付からない状況が続く。
  外を見るのも飽きたというか……疲れたので十分ぐらいしてからは外の様子も見なくなった。
  悲鳴や死の羽音が、何度も聞こえるが巨大な要塞の中に居るあたし達は気楽なものだ。
  大概は、この昆虫王の外壁により衝撃すら感じる事はないのだから。
 
「蟻! 巨大な蟻が何匹もッ!?
 こんな……蟻は蟻らしく平民が貴族にすりつぶされる様にしていれば良いのですわッ!」

  そんな時間が暫く経って。
  突然、聞きなれた声が聞こえて来た。 
  それは、かつてのクラスメイトだった黒薙さんの声。 病院送りになった彼女は、今だ入院中。
  そして、結果、取り残された。 巨大昆虫の大量出現に対しての非難と言うのかな? 逃走かしらのアナウンスは、既に何度も繰り返されているし……取り残されたという事で有っているだろう。 黒薙さんは、自力で何とか歩く程度の体力は戻っていたから残された。
  でも、何とかアナウンスを聞いて現実を受け入れ歩いて逃げ出した頃にはこの様と言う訳か。
  他人事ながらに憐れだな。 あぁ、良く見るとやっぱり美人だ。
  彼女の目の前には、数対の蟻。 戒と蟻達の距離は決して近くはない。 あぁ、あれは、助からないな。 黒薙さんの頬には、春水に殴られた傷跡が生々しく残されていた。 もう直ぐ、もっと痛ましい大きな傷を負って事切れる。

「ねぇ、あの子覚えてる?」
「あぁ、黒薙夢路ね? 覚えてる……俺達の邪魔した奴第一号だ。 でも、こんな死に方は憐れだな」

  フルネームで完璧に覚えている辺り彼らしいなぁ……
  見た所、黒薙さんは、何人かの老人や子供を引き連れている。 どうやら、老人たちを先導していたらしい。
  見掛け通りリーダー気質で意外とお節介なのかしら。 まぁ、死んでしまう人間なので考察も無意味かなぁ……

「お姉ちゃん! 僕、死んじゃうの!?」
「そんな弱気なことを簡単に言うのは止しなさい! 私が……私が、護るって言ったでしょう疾風!」

  無理だって……黒薙ちゃんの声を聞いてあたしは、憮然とした声でそう、口にしてしまった。
  結局その後、黒薙ちゃん達は、全員殺されてしまった。 
  最後に盾になるようにして一番走ることの出来る状態にある少年、疾風を護った姿は、賞賛に値した。
  その勇気ある行動のお陰で疾風君と言う少年だけは護られたのだから。

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