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- Re: Cheap 第六話更新 9/29 コメ求む! ( No.42 )
- 日時: 2011/09/29 22:55
- 名前: 風猫(元:風 ◆jU80AwU6/. (ID: z8eW1f9u)
Cheap(チープ) 〜第六話「失った命の意味」〜
た。
した。
ろした。
ころした。
俺が、ころした……
殺……した!?
俺が、れ……れれ、俺……が、ががが、ころした。 ろした。 殺した殺したころした……ころ、ころころころ殺した!
俺が、戒に命じて人の命を奪った。 奪った。 奪った。 奪った。 奪ったウバッタ奪ったうばったウバッタ奪っタ!
奪った。 ウばった命を……奪った! 俺が……コロシタ。
罪……俺は、罪を背負った? いや、おい……でもよ。 でもでもでも……
だって、考えろよ? どうせ、あいつ等助けたって疾風って餓鬼みてぇに拒絶して逃げ出すに違いねぇぜ?
そもそも、あんな数、戒の中に搭載できるはずもない。
あぁ、そうさ。 良い盾を手に入れた。 そもそも、護るべき人は……俺には一人だけだ。
刹那……刹那刹那刹那刹那刹那刹那刹那刹那刹那! 俺の魔法の言葉の持ち主は俺の近くにいる!
あぁ、疲れたな。 いや、疲れてる。 何年分かドッとさ。
「疲れた。 寝るから……ついたら教えろ」
「分った」
俺は、アイツの背中に向かって話し掛ける。 本当に疲れた。 吐き出したら分った。
俺が、気を張っていたこと。 恐怖に絶望に……あの現実感の無い阿鼻叫喚の地獄絵図に……思考が追い付いていなかったこと。
疲れた。 休む暇があるなら休ませてくれ。 願いは叶った。 余り寝心地は良く無さそうだが……
安全な場所とやらに到着したら教えてやると戒は……言った。
安心して眠れる。 会の歩くたびに起こる振動も今は慣れた。 護るべき人はこの堅牢な鎧の中だ。
良いじゃないか? 休んでも……あぁ、永遠のように休みたいよ俺は……
目を閉じる。
少しずつ虚ろの狭間へと堕ちていく。
適度な暗さが心地よくすぐ眠れそうだ……
あぁ、そう言えば戒かぁ……
俺達が夏休みの朝、蜜を縫ったクヌギの木だったかな? そこで捕まえたんだ。 オオクワガタと雌のカブトムシもいたっけ?
こいつは、覚えているだろうか?
覚えてなくても覚えてても良いや。 こいつは、一応は命の恩人だ。
俺達の大事な存在に変りはない。 まぁ、俺としては、利用価値のある道具とか思ってる面も有るが……
こんな困窮とした状況だぜ。 それも仕方ないだろ?
ちなみに、レオの奴が一番最初に手に取ったんだっけか。 あの時のアイツ、餓鬼みたいに目を丸くしてさ。
餓鬼か……小学四年生だもんな餓鬼だよな。
名前付けたり挨拶したり……人間以外の生物に言葉を理解する機能なんてねぇのに。
親しくなりたかったんだろうな。 今、こうやって言葉が通じるってのはなんだかスゲェ嬉しい気がするんだ。
いや、気がするじゃなくて実際、すげぇ嬉しい。
心地良い響きが、眠りへのいざないを助長する。 おれは、いつの間にか深い眠りの深淵へと至り……
「群青原君! もうすぐつくよ!」
ん?
もう、朝か……あぁ、いや……ついただけか。 戒の声ってよ。 妙に低いよなぁ。 小山力也とか中田譲二とかみたいな?
俺より餓鬼のくせに……あぁ、分ってる。 虫の成長速度と俺等の成長速度を一緒にするなって。
そもそも、コイツは未だに生きているってことのほうが不思議だしな。
月が綺麗だな。 外の様子を見るに山中のどこかか。
どうやら、山中に空洞を空けて造られた地下施設みたいなもののようだ。
ん? あれは……あのマークは、どこかで。
見覚えのあるマーク。 円の中に十字架、陳腐などこにでもありそうなマークだが……色が紫って言うと少ない気がする。
だめだ。 思い出せない。 まぁ、良いや。 唯、マークだけは記憶しておくか。
そんなことを考えているとシャッターが開かれる音。 監視のカメラがどこかについていて戒を視認したってところか。
戒は、シャッターが開くと中へと入っていった。
「うわぁ、見たことない機械が一杯だよ春水。 何かの実験施設みたいだね?」
「あぁ……って言うか昆虫の標本がそこかしこに有るんだが……」
内部は、まるで戒が歩くことを想定されているかのように整然としていて広い通路が多かい。
周りを見回すと何かとフラスコやら実験機材が多くここが何かの研究施設であることは遠めにも分る。
そして、各所にある節足動物の標本や模型から、実験している内容もある程度は理解できた気がする。
その瞬間、俺の脳裏にある疑念が浮ぶ。
この研究施設の実験の何らかの失敗が、俺たちの町のあの惨状に関わっていたりするのか?
だとしたら俺たちは渦中に身を投じられたようなもの? いや、待て。 待て待て待て待て!
なぜ、俺達をそんな特別扱いする必要が有る!?
俺等は、所詮はただの子供だ。 何か特別な力を持っているわけでも知識があるわけでもない!
ありえないだろ!? ありえないありえないありえない! 馬鹿な……そんな馬鹿なことが……
「なっなぁ、ここは、一体何の研究を?」
「昆虫の巨大化はここの実験の結果だ……隠す意味もないからな。 正直に言うがな」
あぁ……あぁ、やっぱり俺は選択を失敗した。 最悪だ。 こんな。
俺達は、たまたま戒を名乗るカブトムシに捕まって状況判断力の鈍った頭で勝手にコイツを仲間と判断して……
れれ? れれれれれれ……じゃぁ、何でコイツ、レオのことや俺のこととか知ったんだ。
分らない。 何か、組織の陰謀だ。 そうだ。 そうに違い……分らない。 何が何だか……
そんな訳の分らないと逡巡する俺をどう言う目で彼女は見ているのだろう。
心配そうにしているのだろうか。 自身もこの違和感に悩まされているのだろうか?
分らない。 分らない。 分らない。 分らない。 分らない! これからどうする?
あぁ、戒の装甲が開かれた音が、思索の糸を切る。 ここで降りろってことだ。
考えても答えも出ない。
ん? あれは、あそこに置いてあるのは銃? 大口径……の?
待て、あの目の前にいるのは……俺の親父?
「あれ? 春水のお父さんじゃないですか!? えっと、ここで働いていらしたのですか!?」
「あぁ、虹林さんの所のお嬢ちゃんだね? お久し振りだよ。 そう言えば紅木咲君がいないがどうしたんだい?」
やっぱり、親父なのか?
長身痩躯に表情が抜け落ちたようなあの顔立ち……俺と母を苦しませた元凶。
こんな所で何を!?
「親父……」
「ん、春水か。 随分でかくなったなぁ。 所で紅木咲君は……」
同じことを何度も何度も……知りたいなら教えてやるさ。
お前の作った化け物が……あいつの命を奪ったんだってよ!
そうさ、お前の罪を懺悔しろ! そう、思って俺は……あいつに洗い浚い真実を伝えた。
なのにアイツ……
「そうか……悪かったな。 だが、私は、お前等の愛慕の情を気付いていたから……彼が消えて少し安堵している」
「な…………に!?」
震えた。
少しは、足元を崩せると思っていたのに。 野郎、全く無感動な声音で言いやがる。
そうか。 俺と刹那の関係……親父は見抜いてたのか。
だからって、死んだことを喜べるか? 俺は、あぁ、俺は……生涯が消えて喜んだ口だが……なぁ?
おい、そんなのは、俺の虫の良い幻想だったってのか?
悪魔め。 何で、こんな大量虐殺が起こるようなことをした!? こんな結果になるような実験、検証段階で想定できるはずだ!
「お前は、昔から巨大な昆虫が世界を闊歩することに憧れていたよな。 俺は、お前のあの真っ直ぐな目が好きだった。
昔からな。 だが、親として研究のせで何もできなかった。 だから、せめてお前の夢が叶う様に実験し続けた。
論文は、全て失笑の的だったが……お前が俺を……嫌わないでくれると信じていた。
お前の求む世界を造るのが俺の使命だと思っていた」
「ふざけるな……あの時、お前が夏休み帰ってきて戒を奪っていったのは……
戒を長寿にしコミュニケーション機能を備えさせる実験のためだったんだな!
馬鹿かよ……いつまでも成長しないわけじゃないんだぞ? 成長して道徳を学んでモラルを身に着けて……
親ならそう言うことに思いを馳せないのか?」
ふざけてる。
こんなのふざけてるだろ?
ろくに家に帰ってきもしないで家族を苦しませて……心配ばかり掛けて研究で罪償いだと!?
ふざけるな。 ふざけるなフザけるなふざけるナふざケるなフざケルなふザケるナ! ふざけるな!
認めたくない。
非現実に憧れるとかそれは、そりゃぁ、したさ。
だがよ。 その渦中に何でアンタがいるんだ。
俺の家族が……信頼も信用も理想も何もかも瓦解させてくれやがって!
お前、一体なんなんだ!
家族面して何も分らないくせに! いつまでも昔の戯言にしがみ付いて!
馬鹿かよ!
「悪い。 格好良いって言われて浮ついてたんだ。 我が息子よ。 久し振りに……」
久し振りに出会った家族の抱擁でもするかのような仕草。
俺がそれを許すと思うか。 あんたのせいで母親は、あんなにやつれて……
やつれ、お母さん、何をやってるんだ? いや、今の状況に集中しろ。
ふざけるな。 お前の下に生まれた子供だと言う事を俺は糾弾する!
何で……ここに銃があるか? それは、天の思し召しだ。 理解した……
「俺は、お前を許さない!」
「何を言う春水? お前は人を殺しては……いけっ!」
俺は、気付くと銃握っていた。
意外なほどに重い。 重量感が凄い。 あんなちっぽけな物で人の命を容易く奪う……非難の的だが。
案外、重みがあるんだな。 そう、少しだけ安心した。
そして、目の前の畜生が、至極当たり前の常識を口にする。 反吐を出させてくれるぜ。
お前は、そんな良識的なことを言って良い立場じゃないんだよ。
死ね。 脳漿をぶちまけて……死ね!
乾いた音が響く。 壁が厚いのだろう。 反響音が凄まじい。 耳に残る。
頭部に穴をあけた親父の死体が崩れ落ちる。
何故だか知らないが、親父と深いはずの刹那も戒も止めようとも何も言おうともしない。
「ははっ……殺した。 俺が! コロ……した! ころした殺したコロシタ殺したころしタ! 親父を……罪が、痛いよ」
崩れ落ちる。
どうやら、思った以上に重い命だったらしい。
直接手にかけた。 人命を奪った。 俺が……罪人? 罪人になった……幾ら悪行の首謀者でも人は人だ。
罪悪感。 空から巨大な鉄槌が下されたかのような重圧。 あぁ、俺は……普通じゃない。
崩れ落ちる俺。 俺を支える女。
刹那……なんで、こんな俺を支えてくれる?
「俺は……狂っている?」
俺は、涙声で言葉を発した。
あぁ、適度な汗と香水の混ざり合う臭いが欲情をそそる。
今や俺は、犯罪者。 親殺しの大罪人。 あぁ、そうさ。 もう、恐れる事などない。
ならば、いっそこの愛する女をこの冷たそうな無機質の床に叩きつけて抱いてやろう……
いや、だめだ。 俺が俺じゃなくなる。 その境界線が壊れるのは嫌だ。
許されない……いや、俺は、もうすでにとっくにとっくの昔に崩壊している?
いやだ……壊れていない。 俺は、群青原春水だ!
脳内で怨嗟の響きが反響し続ける。
そんな中、聖母のようなやさしげな声……刹那の声。
「大丈夫だよ。 春水は、殺すべき人を殺しただけ。 それを重圧に思う必要はないよ。
大丈夫……あたし達は、貴方とあたしと戒がいれば……大丈夫だから」
「…………刹那……俺の刹那! 放さないッッッッ!」
俺は、唯強く彼女を抱き締めた。
一瞬にして俺の脳内からは、親父の姿は消えていた……俺にとっての親父の命は、そんなものだった。
そして、町の人々の命もおそらくはそんなものだ。
刹那……刹那刹那刹那刹那刹那刹那刹那刹那刹那刹那刹那! あぁ、何て心地良い俺の魔法の言葉。
「刹那……」
>>END
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