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Re: Cheap 第六話更新 9/29 コメ求む! ( No.45 )
日時: 2011/10/24 18:47
名前: 風猫(元:風  ◆jU80AwU6/. (ID: rR8PsEnv)

Cheap(チープ) 〜第七話「戦うしか無い……」〜


「ねぇ、パパ」
「なんだい春水?」

  細身の頼りない父の肩に担がれている小さなころの俺。
  何の疑いも無くただ、家族として信頼と愛情を感じる存在として話しかける姿。
  過去の断片。
  昔は、純粋に父親を信じて背中を追っていたな。
  何で……何で!

  
                     “こうなっちまったんだ?”

  
  自問自答しても答えは出ない。
  頭を抱えても悲鳴を上げても……刹那に抱えられてから少し経って俺はじょじょに正気を戻して俺のやったことを理解して。
  目の前には地だまりがあって俺の身内が倒れてて……銃弾一個が重く感じたとか勘違いしてた引き金を引いたときを思い出して。
  嫌悪して過去の俺を憎悪して……罪悪感と言い知れぬ虚無感とに支配されて俺の体は、熱くて冷たくて痛くて悲しくて……
  体中をサソリが這いずり回って俺の体の全てをつらぬいて千時間くらいかけて殺してくれ! 
  絶対に死ぬほどの痛みを感じるのに死ねない恐怖を感じながら絶対に解毒できない毒に犯される恐怖を感じながら。
  苦悶と絶叫と反省の縁で死なせてくれ!
  懺悔。 どうしようもない懺悔が、俺の中を駆け巡る。 意味は無い。 厳然とある結果が赦さない。
  嫌だ……嫌だ嫌だいやだいやだ嫌だイヤダ厭だ! 許して……

  取りとめもなく許しを請う俺の耳に異音……カツーンと言う硬質な足音。 ハイヒールとかで歩くときに出るような音。

「誰だ!?」
「あら……いきなり誰だ? とは、ご挨拶じゃないのかしら春水君?」

  聞き覚えのある声。
  それなりに馴染みのある声だ。 中学に入ってからは父とも疎遠になってその人とも自然、付き合わなくなったがな。
  勝気な顔立ちで浅黒い肌。 左目の下にある泣きボクロがチャームポイントの白根明日夢と言う女。
  父の研究に常に付き従ってきた女性だ。 今の俺が十五だで彼女はたしか二十九。
  結構覚えているぞ? 彼女は、十九でアメリカで博士号をとってそれ以来、うちの親父と仕事を友にしている。
  親父の研究に心酔していた気がする。
  その親父の死骸が転がってんだがどうしよう? っていうか確実に銃声聞いて来たよな?  

「あーぁ、やっぱ死んだんですかぁ? さて、息子さんに撃たれたのか自分で撃ったのか? この傷の付き方に焼け具合からするに……
春水君が撃ったのかなぁ。 まぁ、君はもともと、気が短かったしねぇ?」

  俺が、父の死をどう、ごまかそうかと逡巡していると見透かしたように怜悧な目を向け彼女は俺に言葉を投げかける。
  過去を懐かしむかのような物言い。 まるでこの展開の全てを予測していたような冷静さ。
  妙な寒気が背筋を襲う。

「一体、何なんだ……アンタ、一体、何者だ?」
「あたし? 白根明日夢よ? 忘れてしまったの? 悲しいわぁ……でも、一つ私言いたいの?
博士は、反省していたのよ? だから、貴方に土下座して懺悔の言葉を残して死ぬつもりだったのに?
貴方ったら途中で自分で撃ち殺してしまうなんて……うふっ、最高!」

  分っている。
  お前が、白根明日夢だと言うことは分っている! だが、なんなんだ?
  なんなんだ……この妙な感覚は……? 俺の知る彼女じゃない。 彼女は真面目で直向きで……割と冗談も言えて。
  こんな馬鹿な。 俺の知っていた彼女はペルソナ!? もう、何がなんだか……何もかも理解できない。

「春水……」
「ははっ、俺は……」

  俺は声にならない慟哭を放ちガクリと膝を落とした。
  刹那の言葉が届かない。 俺の心の氷壁を甘く溶かしてくれた暖かい優しい日溜りのような声が……届かない。
  世界が揺れる。 瓦解する。 崩壊する。 滅亡する感覚が、俺の脳内を洪水のように奔流する。

「ん? 良いわぁ。 そう言う何かを裏切られたって感じの表情。
あはは、揚羽博士は本当に良い人だったわ。 春水君が、喜んでくれるって言えば何にでも手を染めようとするの?
なんでもよ……これって端的に言えば私が全ての手綱を握ってる的なさ?」
「何言ってるんですか? それってまるであの巨大昆虫達は明日夢さんが……」

  嘲笑の含んだ声。
  明日夢さんは、目を細め愉悦に歪んだ表情でクルクルと手を大きく広げクルクルと周りなが言葉を続ける。
  なんだ? こいつの言っていることは……まるで、他者を容易く甘言で誑かし切り捨てるそんな怪物の姿。
  俺を出汁にして親父を操り戻れない所までこさせた張本人と言うこと。
  俺の懸念を代弁するように刹那が明日夢さんに問い掛ける。 その後に、彼女が続ける言葉が俺達を奈落へ突き落とす。
 
「そうよぉ? どう考えても私の言葉から推論してそうでしょう?
色々と疑問もあるでしょうけど私の答えれる範囲で教えて上げましょうか?
何で戒が生きていて君達とコミュニケーションを取れるのかとか。 
あの巨大な昆虫は今後、どこまで増えるのかとか……さ?」

  彼女は、一瞬のよどみなく言い放ち左右非対称の狂人のような表情を造り続ける。
  張本人たる彼女は、今回の一軒の全てを知っているということか。 細かいシュミレーションもしてきたと言うのが伺える。
  やばい、やばいやばいやばいやばいやばいヤバイやばいヤバイヤバイ こいつは、本当にヤバイ。 親父より明らかに酷い。
  猫を被って演技して全てを欺いて世界を地獄へ落とそうとする闇の化身みたいな……
  俺は、無意識に拳銃を構えた。 
  こいつは、生かす価値が無い。 俺は瞬間、理解する。 俺の中の命の価値観がエスカレートで下っていっていること。
  この女とそれ程違わない底辺に至っていること。 ならばこそ俺は、同質の悪を消し贖罪とせねば。
  何を厨二染みた……でも、これは俺に関わりに有る事なら……

「悲痛な顔ね。 私も処理するのかしら。 肉親を殺したあんたなら大して辛くもないのでは?
でもやめておいた方が良いわよ? もし私を殺せても春水君も刹那ちゃんも両方死んじゃうから……」

  銃口を向けられなお、明日夢さんは澄ました顔。
  理由は簡単だった。 ここは、敵地と言ってよかったのだ。 彼女の手信号で彼女の部下達が銃を構えて現れた。
  おいおい、日本じゃ手に入りそうも無いような強力な重火器のオンパレードじゃねぇか!?
  こいつ等一体なんなんだ……口をついて出たその言葉に明日夢さんは、自慢げに説明する。
  どうやら、彼らは、彼女が渡米して居た時からの知り合いらしい。
  彼女のイカレタ考えを憧憬し絶賛しついていく末に、敵を封殺するために力を鍛えていくうちに軍隊染みたものになったらしい。
  名を「サット」と言うそうだ。 
  つまり、この女は、この地獄を作り出すために人生を捧げてきたということか。
  俺は、強く唇を噛締め彼女を一瞥し銃をおろす。

「それが正しい判断。 じゃぁ、色々とお姉さん語っちゃおうかなぁ?
歴史に残る悪行を誰も知らないじゃ悲しいもんねぇ?」

  途中で遮られた言葉を思い出しながら彼女は、言葉を続ける。
  彼女の言葉を聞くしか選択肢はないらしい。 
  戒を使って倒そうとも思ったがどうやら、戒は、彼女らを襲うことはできないように何らかの措置をされているらしい。
  俺達の渋い顔を嘗め回すように交互に見ながら明日夢さんは、話し続ける。
  戒は、世界で唯一大脳新皮質を持った本能を抑制できる昆虫であり脳には、シリコンが注入されているらしい。
  それは、俺や刹那や明日夢さんにも入っているらしい。 
  いつ、どうやって脳内にシリコンを入れられたかは分らない。
  だが、戒から発せられる声がぼやけて感じるのは脳内に直接伝わるかららしい。
  
  次に、巨大昆虫。 これは、彼等のDNAに直接働きかける特殊ウィルスを考案したことに基づく。
  排気ガスに流してそれを排出するというプロセスだ。 
  この研究所に入る時に見たあのマークは、この研究所が作った技術を使っているという証明のようだ。
  あの煙突にそのウィルスが染みこまされていて煙突内がある物質と結合すると空に浮き空気中に散布される。
  それは、どこにでも普通に存在する物質と非常に似ていて安全確認でも引っ掛からないらしい。
  よくよく、考えられてやがる。
  最初に、犠牲になったのは、沢渡町。 理由は、その煙突を最初に大量に購入したのがそこだから。
  そして、他の購入地も程無くしてそのウィルスが基準値まで充満し巨大昆虫化が始まるとのことだ。
  全国、千箇所を中心に日本全土をまきこむ。 日本列島が阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。
  それが、彼女の見立てだ。
  
  ちなみに米軍などは、この未曾有のバイオハザードを解決しようとはしないだろうとの見解だ。
  何故と聞けば、彼等を相手にしては犠牲が多すぎるということが第一。
  次に、そのウィルスのある範囲内でしか巨大昆虫達は生きることができないから。
  飛行機や船で避難することも今からでは難しいだろうと言う。 
  理由は、非難しても世界からは、怪物を生むウィルスに塗れていると認知され凶弾されるのがオチだから。
  何という八方塞がり。 絶望的。

「何の救いも無いじゃないか?」
「確かに少し……救いが無いかもね? でも、私さ……救いのある物語って大嫌いなのよ?
最後には、皆、大往生しちゃうそんな話が好みなの。 でもさぁ、生延びたんだから少しでも長生きしたいよね?
君は、父の罪を清算するために戦うという理由をもらえたのだから少しは気楽にいこうよ?」

  なんだ?
  散々、親父を利用しておいて何をほざく!?
  殺してやる! 殺してやりたい! でも、今、やりあったら全滅するのはこっちだ。
  イカレタこの女の物語に俺は付き合うしかないのか!?
  これが世界か……
  俺は、俺の脳内はもう、訳が分らなくなっている。 
  目の前の女の言葉全てを嘘だと否定して命などもう、要らないと東部を打ち抜いて脳髄をぶちまけて死にたい衝動。

「春水君……だめ! 生きよう。 
明日夢さんの言っていることに間違えが有ってあたしたちが楽しく生きられる未来があることを信じよう!」

  思うや速く俺は、こめかみの辺りに銃口を押し当てていた。
  でも、どうしても世界への未練が山ほどあって……刹那との間に生まれる家族とか考えると撃ち抜けなくて……
  少し冷たい刹那の指が俺の腕に添えられると力が抜けてしまって……


「アアアアアああああアアアアアアアアああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああアアああアアああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああアアアアああアアアアアアアアああッッッッッッッッ————————」

  無力で情けなくて全てがどうでも良いのに何も放せない。
  理不尽で、脳も心も感情も世界も神も刹那も何もかも理不尽で俺は……………………

  こわれそう
  「壊れそう」
こわれそう壊れそうコワれそうコワレそう壊れソウコワレソウ壊れそうこわれそう————
「大丈夫だよ春水君。 日本と言う君達の世界は壊れてしまうのだから君達も壊れてしまえば良いの」

  あぁ、うざい。 明日夢うざい……まじでうっざい!
  でも、あんたのお陰だ。 なにがなんでもこの世界を生延びてやる。
  明日夢とも世界とも化物共とも戦ってやるさ。
  戦うしか無いのなら!

「良いんだよ。 希望なんて無いような小さな物ですがっていけるから」

  

>>END

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