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Re: Cheap 第九話更新 11/27 コメ求む!【500突破】 ( No.53 )
日時: 2011/12/07 20:48
名前: 風猫(元:風  ◆Z1iQc90X/A (ID: rR8PsEnv)
参照: 短い作品だけどさ……初めての完結なんだぜ(涙

Cheap(チープ) 〜最終話「チープ」〜




   寂寞の思いが駆け巡る。
  きっと、刹那は助からない。明日夢が、最後に何か腹立たしいことを口にしていたがどうでも良いや。
  俺にとって刹那は世界の全てで……宇宙なんかちっぽけに感じるほど大きな存在で。
  なんで、俺は彼女をそれ程に思ってしまったのだろう?
    なぁ、全然、分らないんだ。会った瞬間から恋焦がれて付き合うほどに深みを知るごとに愛おしくて。


  俺。俺さ。冷たい眼の感じの悪い餓鬼って言われ続けてきて人を愛せるなんて思ってなかったんだ。
  まじだぜ? 小学生に入る前の餓鬼の思想か? 愛とか語らねぇだろう?
  それなのに俺は、愛を知って自分が人を愛せない人間だってあのときから絶望していた。
  誰を見てもなんとも感じない。誰と話しても何も感じない。婆ちゃんが死んだときも…………
  そんな狂った俺が、君と言う存在に出会って変ったんだ。
  今は、左腕がなくて体中が傷だらけで苦痛に歪んでいる君。助けたい。
  助けなければいけない。でも、俺には何もできなくて……
  無力でか弱くて。
  あの無限地獄から君は、俺を救ってくれたのに。 
  誰もが愛想を尽くして話しかけようとさえしなかった俺に、優しく微笑んで手を差し伸べて。
  俺の悲嘆の声を全て聞いてくれて……



                 「君は、きっと人を愛せるよ?」


  って、優しい声で言ってくれた! 
  それからいつもいつも君は、笑顔さえ見せない俺に救いの手を差し伸べてくれたな。
  俺が、孤独で震えているときは声を掛けてくれて。 俺が孤立して他人に虐められている時は、身を挺して護ってれて。
  人の強さと愛の強さを俺に体と言葉の両方で伝えてく。 お前が、いつの間にか世界の全てで……
  お前が、地球より大きい全ての母に見えたんだ。
  そんなお前を護るために俺は強くなることを俺自身に誓った。
  なのに……なのに! なんで、俺は、昆虫退治なんかに現を抜かしてお前を見ていなかったんだ!?

「ねぇ、春水君? あたしさ……貴方に一目惚れだった。 あの冷たさがあたしそっくりで……」
「喋るな! 体に負担が掛かる! 絶対助けるから……今は、喋らないで生きることだけを……刹那?」

  刹那が俺に似ていた? そんなはずない。 彼女はいつだって優しくて誰とも話せて! 社交性に溢れていたじゃないか!?
  なんでそんなこと言うんだよ? 最後の別れみたいじゃないか? 離別の瞬間じゃないんだぞ!?
  俺達はこれからも手を取り合って……あれ? 目から何か熱いのが湧き出している。涙? 涙かよ!?
  俺は……泣いちゃいけないのに!
  俺は、彼女を……護れない。 命を取り留めることができない! 
  分ってる。 それでも助けたい!
  だから、俺のエゴに従え!
  全ての思考回路をまわせ! 何か手が有るだろう!? 彼女を救う……手が。

「もう、充分、もう充分。君もあたしも充分頑張ったよ。 
君のお陰であたしは、空虚じゃなくなった。君もあたしのお陰で……もう、その事実があれば充分だよ」
「なにが充分なんだ? 俺は、充分じゃない! お前と子供を作ってこのいかれた世界を闘い……」

  何が、充分だ?
  俺達、何歳だよ? たった一つの目的を達成した位で何でそんあに悟れるんだっての!? 足掻こうぜ……
  震える足を動かしてここまで来ただろう!?
  立てよ! 凛とした佇まいでニヒルにスラングでも飛ばしてみろよ!
  俺達は……まだまだ、行かないと。友情パワーだ……レオ、俺は、今お前の言葉を……
  馬鹿かと罵ったお前の言葉を刃に……
  
  そう、意気込んだ瞬間だった。
  柔らかい何かが俺の胸板に接触して……それが、刹那の胸だって直ぐに理解する。
  刹那? 体温が、少しずつ下っているのが分る。あぁ……




              ア゛ガアァァァアアああぁぁぁアァアアアァァァアアあああああぁぁぁぁぁぁぁあアアッッ!


  悟った。最初から分っていたこと。
  何をどう考えても刹那を救えない事実。ここにある医療設備では不可能。
  医療機関のある場所まで行くには数時間。自然物で何とかする医療知識なんてない。
  あぁ……あぁ、俺は、無力だ。

「ゴメンね。 あたしが明日夢を殺せなかったから」
「悪ぐない! ぜづなはあぁっ! 何にも悪ぐな………い゛」

  俺は、謝罪する刹那に唯、子供のように喚くことしかできない。
  ただ、彼女の紡ぐ言葉を聞いてあげることしかできない。

「あたしね。サットの人達を皆殺しにしたの。はじめて人を殺した。死体は見慣れてしまっていたからなんとも感じないんだろうな。
そう、思っていたのに嫌いな奴等だったのに凄い罪悪感感じちゃって本当は、明日夢さんに殺されても良いと思ってしまった。
でも、春水君に会う前に死ぬのは嫌だった」

  刹那……お前に、そんな業を————

「謝罪しとくべき事と言えば紅木咲君が殺されたとき。あの時も本当は、彼が死んで喜んでいたあたしがいた。
あたしはさ。君が思っているような良い子じゃないよ? 分ったかな?」
「紅木咲レオが死んだとき俺は何を思っていたかな? 本当は、死んでくれて有難う恋路の障害! とか、思っていたぜ?」

  俺達は、トコトン紅木咲を邪魔者扱いしていたらしい。レオはもともとは、刹那の従兄弟でさ。
  二人だけで遊んでいるのを見て寂しい奴等だと……二人だけじゃ乗り越えられない壁があるだろうと付き添ってくれたんだ。
  そんな良い奴の鏡みたいな奴を俺達は、敵視しかしていなかっただな。
  やっぱり、そう考えると俺達は同類だ。でも、遠く過去だったらあいつが死んでも本当に罪悪感も感じなかったろうな?
 それだけは、少し人間的になれたってことで俺自身を褒めたい。

「そうかぁ。あたし達は咎に塗れているんだね。でもさ。あの世があるなら彼には、謝るべきかな? 
彼が居なかったらあたし達あんな無茶できなかったよね?」
「そうだな……」

  俺の慟哭に刹那は、小さく微笑を浮かべて呟く。途中、ゲホゲホと血を吐き出しながら咳き込む。
  あの世か。非科学的極まるけど人間の英知を結集しても永遠に解決しない問題なんだろうな。
  紅木咲に謝るか。無理だろうな。あいつは、きっと天国で俺達は……いや、俺だけか。地獄は俺だけで良い。
  刹那は、今までの悪行を謝る価値が有る。刹那は、数人で……俺は、数百体の命を奪った。その差は大きいさ。

「ねぇ、春水君? 戒。実は、貴方がやったんでしょ?」
「あぁ……憎いか?」

  喋りたいこと、知るべきこと、全てをしようと必死に刹那は喋り続ける。 消え入りそうな小さな声で。
  戒か。俺自身嫌な思い出でさ。あいつは、あいつを殺しちまったことに罪悪感を覚えていて。
  巨大なカブトムシと激闘を繰り広げ自分の体で全力で相手を止めて言ったんだ。

                   ————自分ごと撃て————


  きっと、敵わないから絶対の隙を作りあいつは、自分の体全体を使い奴の動きを封じ俺の弾丸に貫かれて死んだ。
  奴を倒すには、戒同等の戦闘力を持っていた奴から逃げることなど鈍足の人間ではできないことを考えれば……
  あぁ、する他なかった。戒は、どこか満足気だったな。
  涙が、止らないよ。俺、俺も本当につかれたよ刹那。

「春水君。居る? 目が見えなくなってきたよ」
「刹那……刹那! 俺はここだ。離れたりしない!」

  抱き締める。強く強く。もう、命の時間が少ないことは分ってるから……少しでも温もりを感じていたいから!
  刹那は、もう、目が見えないと宣言した。それは、理解しがたいほどのことで……俺は、唯、抱き締めるしかできなくて。

「力強い。春水君の腕。前よりずっと、逞しくなったね。ねぇ、春水君。このまま、ずっと居たいな」
「ずっと居る! ずっと、居るから……」

  止め処なく流れる血。
  体中が血に塗れていく。刹那の呼吸が荒くなっていくのが分る。
  脈動が安定しない。 
  刹那の言葉に従うしかできない。
  あぁ、俺の世界の希望の全てが崩壊していく。

「春水君。生まれ変っても……きっと、また、会おうね」

  口元で囁かれる甘い声。瞬間、銃声が響く。何も考えていなかった俺は、いつの間にか彼女に銃を奪われていたらしい。
  彼女は、俺の悲しむ顔を見たくなかったのか痛みに絶えかねたのか或いは、両方か。苦しみのない即死を選んだ。

「なんで……なん…………っでだよ!? 俺は……俺はアァァアああアアああアァああぁぁあぁアァァァァァあぁぁぁぁ——————」

  怨嗟の咆哮がいまや誰も居ない親父の研究所に響き渡る。反響し易い壁のせいでその情けない声は思った以上に残り続けた。
  刹那は死んだ。俺の希望。死んだんだ。もう、ここに用はない。俺の命に興味は無いよ。
  俺は、額に銃口を突きつける。

「刹那、今すぐ会いに行くよ……地獄に引きずり込んであげるから。永遠に遊ぼう」

  パーン。乾いた銃声が体中を駆け巡る。俺のチープな物語は幕を閉じた。
  人生なんてこんなものだ。いや、俺の人生は上等さ。化物相手に戦い続けた。何もかもが下らないこの世界よ。







「もう、うんざりだよ」





                                        〜Cheap 完結〜




「お前、変な奴だな。俺に話し掛ける奴なんて唯の馬鹿だろ?」
「君を理解しようとしない人のほうが馬鹿だよ?」


「お前、本当に変な奴だな? 名前、なんて言うんだ?」
「刹那だよ! 虹林刹那って言うの! 最近、引っ越してきたの! 群青原春水君、宜しくね!」


   いつだって心の中に有るのは、人から見れば詰らなくて小さな淡い淡い記憶——————


             人は小さな何かに支えられているということだろうか?