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- Re: Cheap(チープ) 第一話更新 コメ求む! ( No.7 )
- 日時: 2011/12/11 20:40
- 名前: 風猫(元:風 ◆jU80AwU6/. (ID: rR8PsEnv)
Cheap(チープ) 〜第二話「偽りの平和」〜
「群青原君って格好良ですわよね! 私、明日告白しようかしら!」
入学式から三日が過ぎていた。
あたしと、群青原春水君と紅木咲レオは奇しくも同じクラスだった……ふふっ、奇でもないか?
だって、この高校、三クラスしか無いし?
それにしても、あぁ、この女ウザい。 あたしの男を何、根とろうとしてんのよ?
って言うか、あんたなんて告白したら逆に睨み返されて泣き見るんじゃない?
彼が聞いている所で話していたらどんな冷やかな目で見られるのかな?
あんたさ……群青原君が、見ているのはあたしだけなんだよ? あんたなんて目じゃないんだよ雑魚!
今時、ツインテールとか餓鬼かっての……そんな、電波を全力で恋バナに耽るクラスメイト、黒凪夢路にあたしは飛ばし続ける。
それに、気付いてか気付かずか彼女は、立ち上がった。 それは、何かに怯えるような恐怖心から来る動き。
彼女は、立ち上がるとあたしの方へと歩き出す。
「虹林さんでしたっけ? うふふ、貴女と彼がどんな関係だか知らないけど絶対、私、彼を頂きますわ。 宜しく」
「ふーん、無理だと思うな?」
何だ。
態々、強がってそんな事を言いに来たのかこの馬鹿?
無意味なことが好きだね。 あたしと彼の関係、分ってるなら態々、宣告なんてしないで外堀から行けば良いのに。
最も、それも無意味だと思うけどさ。
彼女は、思わず失笑しそうなのを必死で我慢するあたしに気付かずそれを宣告すると颯爽と席へと戻っていく。
滑稽……滑稽滑稽滑稽滑稽滑稽! 滑稽ィィィィ! 馬鹿すぎる、この女。
あたしは、全力で黒薙夢路へと心の声を送る。
届く訳は無いが、届いても別に問題ない気がする。
だって、群青原君は、本当に素敵だ。 あたしの為なら何でもするのだから……
勿論、そんな所を差し引いても彼の事は途轍もなく好きなのだけれど?
そんな一幕がささやかに終った次の瞬間、教室の扉が開かれた。 無造作に。
其処には、あたしの愛しの人。 群青原春水君が。
「あっ、群青原君!」
あたしは、開口一番に声を掛ける。 あたし達二人の関係は、既に周りにも知れ渡っている。
群青原君は、美形だしあたしも男から見れば魅力的なようで嫉妬の的だ。
だが、そのチクチク刺さる同性からの敵意がさ。 あたしにとっても群青原君にとっても最高の栄養剤なんだよね?
嫉妬の力を浴びるってことは優位に立っているって事でしょ? 雲の上から愚民を踏み潰すような感覚に誰が、嫌気を感じる!?
私は、大好きだ。
「あの女狐!」だの、「何であんなに群青原君に馴れ馴れしいの!?」等等、皆さん絶句の模様。
溜らない。 そんな事を思いながら群青原君が何と声掛けてくるのかあたしは、頭の中でシミュレートする。
一番望む言葉を彼なら掛けてくれると理解できているから。
「…………黒薙さんが、随分とお前をねめつけているがどうかしたか?」
ツイとあたしの左後ろの席に目をやり彼は、目敏く反応する。
瞬間、彼女は目を背けた様だが、彼の勘の鋭さから逃れることなど出来るはずも無く。
あたしは、群青原君にだけ分る秘密のサインをしながら「何にも無いよ」と言った。
ちらりと後ろを見ると黒薙さんが、ホッと一息しているのを感じ取れた。
馬鹿……本当馬鹿。 あんたの高校生活、お終い。
帰りのHRが終了する。
あたしは、黒薙さんの未来を考えると恍惚に溺れられずには居られなかった。
「黒薙さん」
「え?」
突然、告白したいと望んだ相手に声を掛けられて彼女は驚いているようだ。
それは、その不自然な行為に対する警戒心を鈍らせる。 恋する乙女は純情で……表面しか見えない。
事実、そうなのだ……群青原君は、邪気の欠片もない素敵な笑みで黒薙さんに声を掛けてきたのだから。
「実は、俺さ……黒薙さんの事が好きだったんだ。 綺麗な黒髪とパッチリとした可愛い瞳。
入学したときから愛してた。 実は、さ。 もう、虹林になんて飽きてた所でね?
いや、あいつ性格悪くて俺のこと放そうとしないし最悪。 君は、お淑やかそうで真面目そうで気が合いそうだ」
捲し立てる。
思っても居ないことを滔滔と……彼女の中に有る恋恋とした情が、膨張していく感覚が分る。
あーぁ、そんなに顔を紅くしちゃって可愛らしいわ黒薙さんったら……
今までで一番可愛い顔してる。 携帯でカシャッとな! 遺影!
並べ立てられる言葉は、ある種常套句で疑う余地万歳なのだが、彼女は、彼を疑うと言う事を出来ない状況下に有って。
「そんな、私……こんなに殿方に絶賛されたのは始めてですわ!」
「さぁ、行こう。 色々、君の事を教えてくれ」
屈託の無い優しい笑みで彼は、手を掲げる。 手を握ってくれと言う合図。
彼女は、何の警戒も無く彼の手を握った。
別に、その程度の事はどうでも良い。 彼の手はあたしの手垢でべとべとだ。
一度や二度、他のメスがマーキングした程度でそれが揺るぐ筈も無いのだ。
どうせ、彼女は、直ぐにこの学校からさよならだ。
「ねぇ、此処は何処?」
「素敵なデートスポットさ。 俺の刹那に手を出しやがって雌豚が!」
程好く学校から離れた閑散とした神社の裏。
後ろは、小高い山が有って日光が遮られていて暗い。
流石に違和感を感じた彼女は、顔面を蒼白とさせて何をする気なのと問う。
その顔は、まだ何処か彼を信じたいという所があって何だか、エッチなことでもされるのだろうかと言う期待が混ざっている様だ。
愛した男が相手なのだから裸も見せれるって? まぁ、アンタは、確かに事実、美人だしスタイルも悪くないけど……
相手が悪すぎると思うんだ。
「がはっ……ごぼっ!? えっ……なっ、何ですの是? 春水……ゲブゥ! アガッ……ヒュッ……ヒュー」
「俺の名を気安く呼ぶな下等生物が!」
先ずは、彼女の柔らかいミゾオチに一撃。 鍛え上げられた拳から繰り出される強烈な打撃。
彼女は、遅れてくる痛みに顔を歪ませ昼に食べた物を残さず吐瀉する。 そして、地面に倒れこむ。
悶絶し転がりながら彼女は、何故このようなことをするのか問う。 嘆願だ。 教えて欲しいと。 今までのは嘘だったのかと。
ザマァ無い。 黒薙さんが、彼の名を口にした瞬間、群青原君は、激昂し更に、彼女の腹に蹴りを入れた。
体がふわっと浮き上がり一メートル位吹き飛ぶ。 彼女の口からは胃液と血が流れ出た。
そんな無様な彼女の髪を引っ張り群青原君は言う。
「お前、退学した方が良いぞ?」
彼女は、恐怖に慄いた表情をして全力で頷いた。 そして、彼女は、三日後に退学することとなった。
「なぁ、春ちゃん?」
「何だ?」
三日後の放課後。
紅木咲レオが、群青原君に話しかけているのを目撃する。
恐らくは、付き合いの長い彼の事だ。 感づいたのだろう。
「黒薙さんが、退学した理由ってお前だったりする?」
「何を言ってんだよ? 俺は、そんな悪人じゃないって……」
彼の質問に対して群青原君は、何も無かったかのように答えた。
あぁ、心底このレオって奴鬱陶しい。 多分、群青原君も同じ気持ち。
そういえば、アイツ、黒薙さん……あたしの群青原君を名前で呼ぶなんて……ムカついたなぁ。
まぁ、もう……黒薙ちゃん! の、顔なんて見ることも無いんだろうけど?
「やりすぎには気をつけろよな? フォローしきれなくなるから……俺達、親友で居たいからさ」
>>END
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