ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: bleed wizard ( No.24 )
- 日時: 2011/11/02 20:21
- 名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: 5D6s74K6)
- 参照: 修正致しました
パブのある路地裏に一人の物影が壁によっ掛かるようにして立っていた。俯いていた顔が天を仰ぐ。その表情は灰色のフードで隠れていて読み取れなかったが、唇が緩く弧を描いていた。
「……来たね」
影がゆっくりと壁から背を放す。その拍子にフードからはみ出た長めの金髪がバサリと揺れた。そしてその声に導かれるようにして二つの影が突如現れた。
「おっ、シェイカ来てたんだ。ちゃんと連れて来ましたよっと」
「遅いわよ、馬鹿スタット」
スタットが喋り終わって間もなくシェイカは苛立った声で静かに不満をもらす。スタットは苦笑いを浮かべていたが若干口の端が引き攣っていた。そんな様子に気付いているのか、いないのか分からないがシェイカは全く動じない。
スタットは一つ軽くため息をつくと肩に担いでいたウォルを貴重な骨董品を扱うかの如く静かに丁寧に丁重に地面に仰向けに寝せる。
浅く息をしているウォルを二人はまじまじと見つめる。シェイカの空色の眼光は鋭くウォルを射止める。 ウォルの瞼がピクリと動き、瞳がゆっくりと二人の顔を映す。
「ウォル、大丈夫か? 痛い所とかないか?」
スタットは心配そうに寄り一層顔を近づける。寝起きだからなのか警戒心を一切出さずにウォルは頷くと上半身を起こし、シェイカとスタットを交互に見つめる。そして輝きを失った瞳から一滴の血が頬を伝った。その光景にシェイカは軽く瞳を見開くと、にやりと不気味な笑みをたたえた。
「やっぱり貴方“ハーソン家”の生き残りだね。」
シェイカは切れ長な瞳をウォルに向ける。そしてすらっとした長い人差し指でウォルの頬の血を一滴残らず絡め取る。自分の顔の前まで指を持って行くと少し開いた形の良い唇へと運ぶ。そしてもう片方の手でウォルの顎をくいっと上げる。
ウォルは何が起こったのか分からないらしく呆然としていた。ただ無意識なのか、頬が赤く染まっていた。
シェイカはペろりと唇の端から端までを舐めると、深くため息をつく。ウォルは痺れの抜けない右手を自分の右目へと持って行く。
「……何がどうなってんだよ。お前らは誰なんだ? 奴らの仲間か!?」
ウォルはシェイカの手を振り払うと立ち上がり、よろめきながらも二人に対して強い殺意をぶつける。
シェイカはその様子をぽかんと見つめていたが、しばらくすると腹を抱えながら笑い出す。
「貴方ねぇ……あたしは分からなくても許せるけど、こいつには気づいてあげなよ」
シェイカは必至にどこか呆れたようにそれだけ言うとスタットを指差しまた笑い出す。
ウォルはシェイカの指の先に目をやる。そこには罰が悪そうに顔を歪めて立っているスタットがいた。
「俺はこんな奴に会った事なんか……あ、れ?」
ウォルは先程も感じた何とも言えない気分になる。
何かが喉に突っ掛かって口から出せない。
「シェイカ、言ったらいけないんじゃないのかよ?」
スタットはシェイカに問う。
必至に糸口を引っ張り出そうとしているウォルと目があう。
艶のある漆黒の髪。異性、そして同性をも引き付けるような金色の瞳。
その瞬間ウォルの中でパチンと記憶の断片が飛び散った。それはスタットと結び付く。元が一つであったかのように。
「お前、まさか……な。“ネル”なのか?」
動揺を上手く隠しきれないたどたどしい声だった。
スタットがため息をつくのと同時にシェイカは指をパチンと鳴らす。
「ビンゴ。正解です」
シェイカは満足そうに微笑む。ウォルは頭がごちゃごちゃになり、スタットを見て呆けていた。
そしてシェイカはその様子を見ると表情というものを消していた。
忘れてはいけない事を彼は記憶から抹消しようとしていた。それでもそれを過去にしてはならない。彼にはまだやらなければならない事と、知らなければならない事があるのだから。そしてその後どうするのかは、まだ誰も、彼さえも分からない。