ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 鏡の国の君を捜して ( No.107 )
日時: 2011/12/19 16:31
名前: クリスタル (ID: RIMOjgnX)




「ふんふんふん♪ 遠くの山から火が出てるー♪ どれどれ見物しにいこうかなー♪ ランランララーランランラー」

 アリスが危険な歌を歌いながらガーデニングを楽しんでいた。

 楽しいならいいけど……

「……アリス、山火事が起こってても近づいちゃ駄目だよ」

「あっはははーチェシャってば、心配性ー。私、堕天使ルシフェルの生まれ変わりだから死なないの」

 中二病になり始めているアリス。これは、止められなくてもいいか。

 今日もいつもと変わらない平和な日常。

 こう、いつものほほんとしていて一日が終わってしまうと、「老い」を感じる。僕、18歳の猫なんだけどね。ちなみにシロウサギが22歳だったと思う。

 僕ら、鏡の住人はながいきだから、18歳なんて若いもんだ。それなのに「老い」……。

「ねぇチェシャー。ジャパンって、汚いわよねー」

「そ、そう? まあ、米が美味しい以外は何のとりえも無いよね。フランスの方がすごいよ」

 アリスが、水のたっぷり入ったジョウロを僕の頭上で傾ける。耳に水が入るのがイヤだから猫は水が嫌いなのに。

 当然、僕は濡れる。

「ぎゃあああ!! 酷い! 今のは酷い!!」

 久しぶりに取り乱した。

「だって私、地理なんて苦手だもの。そんな話わからない」

「だからって水掛けるなよ! ばーかばーかばーか!」

 一通りストレスを発散しきってから気が付いた。

 こんなに言ったらアリスが泣き出す……。

 僕らの間に沈黙は続く。

「ぴ、どい。水、掛けられたくらいで、そんなに、おこんなくても、」

「地理の話をしただけで水掛けたアリスはなんなのさ……」

 ヤバイ、涙目になってる。これはまずい…。

「アリス、落ち着いて。僕が「うわああああああああああああああああああ!!」

 うわあああ……。



 「ねえ、キル。あんた、どうしてアリスが人殺しだった事は教えなかったの?」

 レイシーとヤマネを先に行かせて、キルと2人っきりで会話中のあたし。

「アリスは父親を殺したんでしょ? それも教えればよかったのに」

「その件は——言い忘れたんだ。今から教えに行くか?」

「………………………………………いやぁ………………………………………」

 さっすがクレイジー。

「それにしても、ヤマネってすごい。ねぇ、ノエル?」

 ヤマネは、どんな人間とでも入れ替わる事ができるという力を持つ。ただし、屍には出来ないらしい。私と正反対の力。

 そして、いまは———ノエルがヤマネと入れ変わり状態。

 ただのねずみの姿となったノエルを肩に乗せて歩くあたし。

 ちなみにさっきのオッサンの姿は、通りすがりのおじさんをタコ殴りして、勝手に入れ替わったらしい。

 その後、使用済みのおじさんは、森に捨ててきたらしい。

 ここで、ひとつの疑問が浮かんでくる。ねずみの状態でどうやっておじさんをタコ殴りしたのだろうか。

 ヤマネは、ねずみの姿の状態だと何も出来ないが、人間と入れ替われば、最強かもしれない。

 一週間前、ケンカを挑んだのだけど、三分で片付けられた。

 そんな、悲しい夏の日の思い出。

「ノエル? ねずみの気分はどう?」

「こうなるとわかっていたから、ヤマネさんと会うのはイヤだったんですよ!」

 私の肩の上でわめくねずみ。嗚呼、これがねずみじゃなくてキツネリスだったのなら、「風の谷のナウシカ」気分だったのだろう。