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Re: 鏡の国の君を捜して ( No.160 )
日時: 2012/01/30 22:16
名前: クリスタル (ID: 3Em.n4Yo)

 『ハートの王、毒盛事件』。聞いた事も、見たことも無い単語だ。レイシー語辞典にも乗ってない。と、いうわけで新しく登録。

 『ハートの王、毒盛事件』。それはいったい何のことなのだろうか。「毒盛」と、聞くからには、危険度高めなんだろうけど。

「し、し、し……」

 どうしよう、知らないなんていうのは、屈辱的だ。知ったかぶりしても、おそらく失敗するんだろうなー。

「し、しら、てる」

「……はぁ?」

「しら、しら、な、ら…」

 本音と正直な心が、入り混じると、こうなるようだ。よぅく覚えておこう。

 もう諦めた方がいいな。

「知りません」

 キルがドヤ顔をしたので、殺意が沸いたけど、必死に押さえた。

 しかも、クロードさんとエリーゼさんまでもがドヤ顔を。流行っているのか? それとも、殺して欲しいのか?

「私、ノエルに説明して欲しい」

 本音を吐いたら、また、ドヤ顔をされた。きっと殺して欲しいに違いない。

 クロードさんの店から盗んできた短剣を、握り締めた。

 いつでも殺せるように、と。

 ノエルが、何事もなかったかのように話し始める。全てを流したよ、この子。

「えっとですね、女王の今のブームが、パイを作る事らしくて…」

 ノエルが言いにくそうに続きを言う。

「ちょっと、調味料が危険なものでして、ムカデとか、ガとか、サソリにタランチュラに、コブラ?」

「ちょ? 調味料?」

 毒持った生物ばかりだ。大体、調味料なのか? それ。

「それを女王が、王様に食べさせて、王様は、ただいま入院中。それが、『ハートの王、毒盛事件』」

 哀れな王様だけど、よく死ななかったなぁ。免疫力が凄い。ちょっと関心した。

「そ、それで、女王は、今?」

 牢獄にいることを願いつつ、一応聞いてみた。

「僕は、それ以上は知らないよ」

「女王は、今も城で元気に、パイを作っているそうだ。で、ジャックがそこで使用人として働いているから……」

 ジャックさんが殺される! 毒を盛られて死ぬ! 毒殺される!

 でも、それが運命というヤツなんだ。元から定められている巡り合わせ。

「ジャックとは、ガキのころからの親友だったんだけどなー。哀れだ。オレより儲かってるから、罰が当たったんだ」

「途中から、妬みが入ってきたわね、クロードさん」

 クロードさんが私の発言をスルーした。スルーして、明日の方向を眺めている。

「そんな男は嫌われやすい……」

 エリーゼさんがボソッと言ったが、クロードさんには聞こえたらしく、なにやらかなり落ち込んでいた。

「さて、そんなことはどうでもいい。そろそろ行くぞ」

 いざ、ハートの城へ。

「そういえば、キルさん。ハートの城までは、どれくらいで付くの?」

「…徒歩、4時間。一角獣、1時間」

「い、いっかくじゅー?」

 海にいる、イッカクと言う生物を想像した。まさか、海を渡るのだろうか。

「レイシー、知らないの? ユニコーンの事よ? うさうさ」

「あ、なんだ。そっち」

 陸上でよかった。服が濡れたら、気持ち悪い。

 そういえば、まだ「うさうさ」使っていたのか、エリーゼさん。ウサギの時にしか言えない台詞。

「徒歩、30分くらいで一角獣牧場に付くから、そこで、一角獣をレンタルするが、レンタル料は各自で払えよ」

 ……お金。

「私、手ぶらでフランスから来たから、お金持ってない」

「オレ、貧乏だから無理」

「僕は、弟子なので、お金は、持ってません」

「あたし、ウサギだし、さっきのショッピングで使い果たした。てか、走ればいいや」

 3人の視線が、キルに集った。

「それなら、歩いていけ。俺も今月はピンチで……」

「師匠、嘘つかないでください! 2人の人が困っているんですよ!」

 何で2人? エリーゼさんはウサギだけど、残りのカウントがおかしい。

「僕は、歩いていきます。どうか、残りの2人分の代金を!」

「お前の弟子、いい子だな…」

 どうして、こんなにいい子なんだろう。駄目な上司がいると、部下が成長するらしいけど。

「どうか、師匠……!」

 今の台詞「ああ、どうか神よ!」見たいで、ちょっと面白かったと思ったのは、私だけだろうか?

「…お前、本当にいいやつだな。判った、3人分も払ってやろう」

 本当にいい子だ。軽くドン引きするほど。(謎の用語・「軽くドン引き」)

「行こう! ハートの城へ!」

 どこの誰でも言いそうなせりふを最後に、クロードの店を出発した。

Ⅴ 【Un magasin de l'arme cassé   〜イカレた武器屋〜】  完