ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 鏡の国の君を捜して ( No.61 )
日時: 2011/10/22 12:07
名前: クリスタル (ID: RIMOjgnX)

「えと、シロウサギさんがそんなことするとは思わないですけど…」

「はっきり言ってよ! あんた、エリーゼさんのこと信用できないの!? エリーゼさんはそんな人じゃないんでしょ!?」

 確かに何を考えているのか良く分からない人だけど、沸点が低いけど、感情の変化が大きいけど、チェシャに殺されそうになった私を身体を張って助けてくれた。

 ———そこまでしてここへ私を連れてきたかった。エリーゼさんは私の失った記憶の何かを知っているんだ。そして、アリスと私の関係も。

「すみません。ここではっきりいえないなんて、シロウサギさんに失礼、ですよね……。シロウサギさんはああ見えて正義感の強い——」

 いきなりノエルが私を後方へと、突き飛ばした。飛ばされたのとほぼ同時にかなり重量のあるものの倒れる音が響く。

「……痛い……」

 さっきまで自分が突っ立っていた所にはコケの生えた直径1メートル超えの大木が倒れていた。腐って倒れた様子は無く、人工的に切られた痕がある。

「チェシャ…だね? そんなにかまって欲しいなら僕がかまってあげるよ」

 急にノエルの雰囲気が変わった。目つきも険しくなった。…そんな表情が作れるなら、普段からそうしていればいいのに。それにしても、突き飛ばす以外に避けさせる方法はあったんじゃないか…。自分のほうへ引っ張るとか、抱き寄せるとか☆

 倒れた大木の根元付近に最期に見たときと同じかっこうのチェシャが居た。目つきの悪い顔に、細い小刀に…て、あれ? このコケの生えた直径1メートル超えの大木をあの刀で切ったのか、あの猫。

「僕は、イカレ帽子屋の弟子に用は無いよ。だって、僕は———レイシーを殺しに着たんだから。腹黒ウサギも今は邪魔できない」

 見事に帽子屋の小屋の扉がふさがってる。あれ、私を殺すために倒したんじゃなくて、出口をふさぐ為にやったのか……。どちらにしても、見事な命中率。

「さあ、今度こそ———7年前殺しそびれたお前を消してやる」



 大木の倒れる音が外で響いた。扉を開こうとしたが、びくともしない。どうやら扉の前に大木が倒れたらしい。後で扉ごと粉砕すればいい。

「オイ、ウサギ。レイシーとアリスの事、何かわかったのか? 7年前からずっと『あっち』にいたようだが」

「そーそー。7年前、アリスがおかしくなって、『記憶を失った』とか、『アリスに似た別人になった』なんて噂がでたでしょ。それであたし、『あっち』でそれについて調べてたの……」

 そうだ。昔、アリスはおかしくなった。自分の父親を殺し、『どうして私は幸せになれないの!?』と、叫び続けて、いつしか、あいつは独りになった。そこにチェシャが現れて………。

「それで、何かわかったのか?」

「……ZZz……」

「オイ、ウサギ!」

 途中で寝るなんて、いい度胸だ。ウサギが飲み干したワインのボトルで本気で殴った。——はずだった。

「……ZZz……」

 ワインのボトルは粉砕した。ウサギは起きなかった。

 ああ、無駄な労力使った。暇だ。……仕事はしたくない。でも、外にも出れない。とりあえずこいつは邪魔だから、ノエルの布団の上に避けておこう。

 美しくたたまれたノエルの布団にウサギを蹴り飛ばし、どけておく。これからどうするか。扉ごと大木を粉砕して、外に……。帽子からチェーンソーを取り出し、扉を破壊。ツギは見事に扉をふさぐ大木の粉砕…。全く刃が立たなかった。

 仕方なく、その場に座った。特にやることが無いので、その場で寝た。

 Ⅱ 【Un chapelier ridicule     〜イカレた帽子屋〜 】   完