ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 鏡の国の君を捜して ( No.79 )
- 日時: 2011/11/26 12:11
- 名前: クリスタル (ID: RIMOjgnX)
僕はまた殺せなかった。会うたびに思い出がよみがえってくる。
「……アリス……」
やっぱり殺せない。殺したくない。彼女の叫び声なんて聞きたくない。彼女の血なんて浴びたくない。こんな事、終わりにしたい。
それが本心なのに、゛終わり゛が見えないんだ。
レイシーを殺すこと。それが本当の゛終わり゛なのか?
それとも、アリスを殺すこと。それが゛終わり゛なのか?
本当に誰かを殺すことで終わらせる事ができるのか?
僕には何一つわからない。何一つわからないまま、また同じような過ちを犯すのか……?
ふと、気が付いたら既に目的地についていた。何度見ても、綺麗な庭だ。もしかしたらあの、ハートの王国の庭より整っているかもしれない。
この家の主が庭弄りが大好きだから。
整った庭の整った家の白い扉を空けようと、取っ手を引っ張った。鍵は掛かってないのに開かない。
10分の格闘の末、気が付いた。この扉スライド式じゃないか。昨日まではドアノブをまわして引けば入れたのに、何てことだ。
「チェシャ、お帰り」
「…ただいま、アリス。まだ寝てなかったの?」
「なに、スライド式の扉に替えてるんだよ、馬鹿!」とか言いたかったけど、ぐっとこらえる。これを言ったら、アリスが泣きそうだ。
「違う。私、早起きなの」
早起きすぎるだろ。午前3時って。こんな時間から何をする気なんだ、この子。
「こんな時間から何を始める気だ、この子。って、思ってるでしょ? ちょっと庭に邪魔者が入ったから、消すの」超能力? もしくは、ぼくの顔に出たかな。
「そんな微笑みながら消すなんていわないでよ…。で、何が入ったの?」
アリスが窓から庭を眺めながらさっきと代わらぬ微笑で言った。
「ハンプティダンプティじゃない? 集団で騒いでるんだから、きっとあいつらね。私の大切な鈴蘭をへし折ってくれたから、あいつらの首もへし折ってあげようかと思ってるわ」
ハンプティダンプティって首あったっけ? いや、卵のお化けなんだから、首は無い。
「…アリス、ハンプティダンプティに首は無いよ」
「あら、それなら手足をぼっきぼきにすればいいわ。じゃあ、つかまえてくるわ」
手足をぼっきぼきなんて……オソローシヤ。言ってみたかっただけです。スイマセン。
3分後、ハンプティダンプティの、この世のものとは思えないような叫び声が庭から響いてきたのは、言うまでも無い。
窓から見えるハンプティダンプティの手足をへし折るアリスの笑顔は、とても無邪気で可愛かった。
「ハァ……」
どうしよう。これから僕はどうするべきなんだろう。友達が居たら気軽に相談できたのだろうけど、ちゃんとした友達はアリスくらいしか居ないしなー。
僕は始めて「友達は選ぶべきだな」と思った。だって、僕のアリス以外の友達って……ハートの王国の使用人のマーチヘアー、鏡の国の番人のヤマネ、一角獣牧場のおじさんのガブリエルさん。
マーチヘアーは狂ってるし、ヤマネは見ていると食べたくなるからダメだし、ガブリエルさんは……まあ、ほら、ね?
やっぱり、これからのことは自分で考えよう。自分の道は自分で決めるものだからね。
きっと、ぼくの求める、゛終わり゛も見えてくるはず。
有りもしない希望を抱きつつ、僕は猫の姿に戻り、机の下で寝た。