ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 死神は君臨する ( No.120 )
- 日時: 2011/09/29 21:21
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: Pmy7uzC3)
- 参照: (^3^)←誰を連想しますか?
—第六章 暗闇の朝— 第六章をまとめ読みしたい方の為に
北城エリカが目を覚ました頃には、もう朝になっていた。二階は、食事の準備で慌ただしい一階と違って静かで、穏やかな空気が漂っていた。もう一度布団に潜りたいのを堪えて寝室から出ると、絵画やドライフラワーで飾られた廊下と螺旋階段が見え、そちらへ無意識に歩き出した。
トン、トン、トン、トン
ぐるぐると階段を下り始めるとすぐにリビングが現れ、テーブルに食器を置こうとしていたさわ子と目が合う。エリカが「お早うございますなのです〜」と挨拶すると、さわ子も微笑んで「おはよう」と返した。そのままそっとテーブルに目を移すと、美味しそうなスープやハート柄の皿に乗ったトーストが目に入る。
「エリカちゃんはここに座ってね」
さわ子が近くの椅子を引いて促すと、エリカはその椅子に深く腰掛けた。外では相変わらず小鳥がさえずり、木々が風に揺れていた。
「エリカ。起きてたの?」
台所から出てきたレイカが言った。よく見ると、後ろに手を回してエプロンの紐を取ろうともがいている。
「お姉様、ちょっと待ってて下さいなのです」
エリカはそう言ってレイカの背後に歩み寄り、紐の結び目を素早く解いた。
「ありがと」
レイカは微笑んでエプロンを脱ぎ、畳んでからミニテーブルに置いた。
「二人とも、早く食べましょう。お腹が空いたわ」
さわ子が笑顔で言うとレイカとエリカも席につき、同時に言った。
「いただきまーす」
同じ頃、古森家では。
「沙羅ー、早く朝ご飯食べなさーい」
「だ・か・ら!ちょっと待って、て言ったじゃない」
沙羅が二階の自室で着替えをしていた。デニムのパンツとスニーカーソックスはもう履き終わっていて後はあのシャツを着るだけなのだが、これがどうも見当たらない。外に出したままかもしれないな、と沙羅は考えた。それから、数歩歩いて地味な扉の取っ手を握って回した。
カチャリ
小さな音と共に扉が開き、扉に打ち付けてあった看板が揺れた。沙羅の部屋、とだけ黒いペンで書かれている。それより、シャツだ。沙羅は小走りで父と母の部屋へ行き、そこからベランダに出た。朝の空気は清々しく、空から柔らかい陽光が降り注いでいた。遠くから微かに蝉の鳴き声が聞こえてくる。
ニコちゃんマークのシャツはすぐに見つかった。沙羅は洗濯バサミを取ってからシャツを部屋に取り込み、それを着ながら階段を下りて行った。
その様子を、隣の家のベランダから観察する影があった。高橋みるくだ。実はみるくの家の隣には古森一家の住む家が建っていて、二人の関係は同級生である前に『お隣さん』なのだ。
「んもう…沙羅ったら。恵美と美砂に呼びだされたからって、そんなに急がなくても良いんだよ?恵美と美砂に沙羅を呼び出す様に言ったのは、この私なんだから」
柵に寄りかかったまま、みるくが呆れたように独りごちた。みるくには、沙羅が休日なのに急いで出かけようとしている理由が分かっていた。恵美と美砂に呼びだされたからだ。最も、二人に指示したのはみるくなのだが。
「それにしても。美砂はあれ以来、人格が変わっちゃったみたいね。殺人事件とか起こさないと良いんだけどなぁ」
口調はいつもと変わらないが、声だけは美砂の身を本気で心配しているような響きがあった。しかし、脳は別の事を考えていたらしい。
「…そろそろ行かなきゃ」
そう呟くと、側に引っ掛けてあった薄手のパーカーを羽織って、ベランダから通りに飛び降りた。そして怪我することなく着地すると、商店街方面へ走って行った。
みるくが商店街に向かって走っている時、商店街の近くの小さな紅葉公園に居る恵美と美砂は暇を持て余していた。無理もない、五十分間ずっとここに居たのだから。
「古森ちゃん…何やってるのかな」
恵美がこの言葉を呟いたのは六回目だ。しかし美砂のほうはのんびりとしていて、木製の古いベンチに座ったまま、駄菓子屋で買ってきたばかりのカルメ焼きやねり飴に齧りついていた。焦げた砂糖の様な良い匂いがするカルメ焼きは美味しそうだけれど、恵美は甘いものが少し苦手だった。甘党の美砂がとても美味しそうに食べているから、きっともの凄く甘いのだろう。
「プリンチョコレート、いる?」
美砂がビニール袋の中から、小さなプリン形をしたチョコレートを取り出して恵美に見せた。
「うん。ありがとう」
恵美は明るく言ってチョコレートを受け取った。生まれて初めて食べたプリンチョコレートは、想像以上に美味しかった。こうして恵美がプリンチョコレートを食べ、美砂がカルメ焼きを平らげているうちに、みるくが公園の入り口に滑り込んできた。
「みるく、遅いよ!」
恵美が文句を言ったが、表情は怒っているようには見えなかった。美砂は相変わらずニコニコしたままで、次に食べるお菓子は何にしようかと先程の大きなビニール袋を漁っていた。
「やあー☆ごめん、ごめん。沙羅が少し寝坊したみたいでさー、今大急ぎでこっちに向かって…」
みるくが言い掛けたその時、沙羅が公園の入口から飛び込んできた。
「遅れてごめんっ!て、あれ?」
大声で謝罪の言葉を口にした沙羅は、恵美の隣に居たみるくを見て顔をしかめた。学校一の問題児が居ることに疑問を感じたのだろう。すぐさま恵美に詰め寄った。
「どうして高橋さんが居るの?もしかして、私を呼びだしたのは…」
「そう。みるるが、私達に沙羅ちゃんを呼び出す様に言ったの」
恵美の代わりに美砂が答え、沙羅は重い溜息をついた。
「そうなの…まあ、そういうことなんじゃないかなって思ってはいたのよ」
ゆっくりと囁くように言いきると、沙羅は速足で出口に行こうとした。それをみるくが止めた。
「待って!」
「問題児さんの話なんか、聞きたくない」
「そんな差別するような事言わないで、沙羅ちゃん!」
美砂がすがるように叫ぶと、ようやく沙羅は足を止めた。
「…用件は何?」
沙羅が呟くと、みるくは語りだした。
「今から話すのはレイカの事よ——」