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Re: 死神は君臨する ( No.177 )
日時: 2011/11/30 20:55
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
参照: http://www.facemark.jp/facemark.htm

—第九章 少女七人と少年四人で— 第九章をまとめ読みしたい方の為に

 清々しい、日曜日の朝。紅葉公園から各自、家に帰って行った少女達の顔に、感情や表情は映っていなかった。真っ先に公園を出た沙羅は目を真っ赤にしていたし、普段明るい恵美と美砂までもが押し黙っている。
「なあ、正樹。北城や高橋が言ってた事って、本当なのかな」
秋山家の双子の弟、勇樹が兄の正樹に言った。正樹は少し考え、言った。
「さあな。でも…北城が人殺しなのは、明らかだな」
「…だな」
「警察に言った方がいいかもしれない」
「もう少し、様子を見ようぜ」
「…ああ」
正樹が呟いたきり、二人は黙ってしまった。
しばらく歩を進めると、レイカの住む通りの辺りに差し掛かる。
「俺が見ていたのは、上辺だけの北城だったのかな」
ふと、勇樹が独りごちる。
「…そうかもな」
正樹が辛そうに言うと、勇樹もその頭を垂れた。
「どうして、殺人なんかするんだろう」
俯いたまま歩き続けた二人は気付かなかったが、その会話の少し後、帰る途中のレイカやエリカとすれ違っていた。

 前方を歩く正樹と勇樹に気付いたレイカは、これまで淡々と動かし続けていた足を止めた。耳を澄ますと「どうして、殺人なんかするんだろう」と言う勇樹の声が聞こえてくる。レイカはその声を聞くなり、すべての事情を悟った。——ほんの一部分だけだが、聞かれていた。あの会話を。
 レイカの心臓の鼓動が早まる。ドクドクという音が小刻みに響き、それに合わせて頭がキリキリ痛んだ。しかし、声だけは冷静さを保っていた。
「…それはね、いつか教えてあげる——」

後ろを歩いていたエリカが、不思議そうにレイカを見つめる。
「何かあったなのですか?」
「エリカ、正樹と勇樹にあの話を聞かれていたわ。一部分だけだけどね」
レイカが低い声を出すと、エリカは可愛らしい顔を強張らせた。
「どうすれば良いのでしょうか——」
「今、みるくに言った時と同じように、全てを話すわ」
レイカはそう言うなり、トボトボと先を歩く二人の少年に向かって駆け出した。
「お姉ちゃんッ!?」
姉の突然の行動にビックリしながらも、エリカは走り出した。すると、すぐにレイカに追いついた。
「ちょっと待って!」
レイカが腕を横に大きく広げ、正樹と勇樹の前に立ち塞がった。
「うわっ、北城…」
正樹が驚いて、後ろに半歩ほど下がる。勇樹はレイカとエリカを順に見比べていた。
「あれ…北城が二人?」
「私はレイカお姉ちゃんの双子の妹、エリカなのです。お二人に大事なお話があるのです!」
エリカは強い口調で言うと、自信なさげにレイカを見つめた。レイカはエリカからの視線を感じて、ゆっくりと二人に話し始めた。
「二人は、私達の話を、どこまで聞いたの?」

 美砂は二階の自分の部屋に入るなり、おそらく取り込んだばかりであろうふかふかの布団に倒れこんだ。
「私だって、信じてるよ——」
開口一番、不満の声を漏らす。ついさっきまで公園で気まずい話をしていたので、気分も鉛のように重くなっていたのだ。——勿論、身体の方もそうだった。
「でも、北城アカデミーに挑むなんて…無理に等しいよぅ」
悲しげな声で呟き、刺繍が施された布団に顔を埋める。
「私には、到底ムリ——」

美砂の脳内では、あの会話の続きが幾度も繰り返されていた。

「でも、それはほんのちょっとの時間稼ぎにしかならない。このまま放っておけば、桐ケ谷は死体の海になる」
レイカの一言が、重い静けさを破った。この声を聞いた少女達が皆、頭の中にちらりと浮かんだえぐい想像に吐きそうになる。
「だから——北城アカデミーに、乗り込むわ!」
一際大きな声で、レイカは宣言した。全員が一瞬、言葉を失った。レイカは続けた。
「ここに居る全員で乗り込めば、北城アカデミーにも勝てるはずよ!」

 美砂はぎゅっと目を瞑り、頭の中で繰り返される映像を断ち切った。不安で、不安で、仕様がなかった。しかし、美砂の根っからのポジティブさに勝つことは出来なかった。
「よしッ!とことん叩きのめしてやる!」
自分に渇を入れるように美砂は言い、にかっと笑って見せた。もう、怖くはなかった。

 いつしか太陽は地上を明るく照らし、やがてその名残を残しながら、桐ケ谷の空を暗闇に染めていった。
「私の娘が、大事な四天王を殺したというのは本当か?」
北城アカデミーの奥の、またその奥深くの部屋。北城龍之介と一人の男が、何やら話し込んでいた。
「ええ。そのようです」
男はそう答えると、長身の天辺の、髪が綺麗に剃られた頭を下げた。
「そうか——まあ、いい。受けて立とう。玄次」
龍之介が低い、低音の声を発すると、玄次と呼ばれた男はびくりと身体を震わせた。
「なんでしょう?」
「明日の夜、死神作戦を実行する。お前が指揮を取れ」
「…!はい」
玄次は震える声で返事をすると、逃げるように部屋を出て行った。
「…」部屋に一人取り残された龍之介は、無言でポケットから写真を取り出した。古びた、十代くらいの男の子五人と女の二人が笑っている写真だ。
「愛理、麗衣…」
龍之介は悲しげに呟くと、口をぎゅっと引き結んだ。両者にとって負けられない戦いが明日、幕を開ける——