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Re: 死神は君臨する【完結まで猛ダッシュ!!】 ( No.260 )
日時: 2011/12/09 21:46
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)

—第十二章 眠り続けた眠り姫— 第十二章をまとめ読み!

 これほど嬉しかった事は無い。気付けば沙羅は、レイカに抱きついていた。ついで、涙まで流していた。
「レイカぁ……!! 待ってたよぉ……!!」
今までの自分が口にすることの無かった言葉。それが、こんなにもスルスルと出てくるなんて、沙羅は驚きに目を瞬かせた。
「……よしよし、沙羅」
レイカが母親みたいな口調で沙羅をなだめる。
「ムフっ。沙羅が泣いてるニャァー」
みるくが沙羅をからかうと、沙羅はキッとみるくを睨みつけ、冷たく言い放った。
「うっさいわね。あんただって、本当は——」
「あれ、何だ……あれ。」
沙羅の言葉は、正樹の一言によって綺麗に掻き消された。正樹が指差しているのは、メルヘンな装飾がされたエレベーターの入り口付近。よく見るとそこには、一人の女の子が眠っていた。
 妖精や小人や花や木などの装飾が施されたこの空間では見つけにくい、これまた幼い感じの天蓋付きベッドで、気持ち良さそうに寝息を立てている。年齢は八歳くらいだろうか。白い肌に茶色の髪が絡んでいて、睫毛は長く、いかにも美少女の部類に入りそうな顔立ちをしている。
「みゅ……あれぇ?」
その女の子は目をぱちりと開けると、目を擦りながら起き上った。そして、視界の中に沙羅達を映すと、「きゃッ」と一声あげて後ずさった。
「あの……あなたは?」
恐る恐るエリカが聞くと、その女の子はおもむろに口を開いた。
「——藍原愛理、十歳」
それから、エリカに向かって質問を投げかけた。
「あなた達は?」
「私は北城エリカ。こっちが私のお姉ちゃんのレイカで、その隣にいるのは秋山正樹。それから、後ろに居るのは沙羅と恵美と美砂とみるくよ」
エリカは一通り話し終えると、改めて女の子——藍原愛理の顔を見つめた。だから、その顔が驚愕に満ち溢れていたことは、一瞬で分かった。
「もしかして……北城龍之介の娘……なの?」
藍原愛理は信じられない、という風に呟くと、エリカの言葉を待った。
「え、ええ。そうよ。私とレイカお姉ちゃんは北城龍之介の娘よ」
エリカが戸惑ったように答えると、藍原愛理は安堵の溜息をついた。
「良かった。じゃあ、そこに落ちてる鍵を持って来てくれないかしら?」
「鍵?……ああ、これね」
エリカは自分の足元に落ちていた鍵を取ると、「これがどうしたの?」と藍原愛理に聞いた。
「良いから、持ってきて」
藍原愛理はそっけなく答えると、こちらに向かって右手を伸ばした。
「じゃあ……はい」
エリカは藍原愛理に鍵を渡し、様子を見守った。よく見ると、藍原愛理の左腕は、天蓋付きベッドの柱と鎖でつながれていた。どうりで、鍵を欲しがった訳だ。愛理がいくら手を伸ばしても、鍵は届かない位置にあったのだから。
カチャリ……
乾いた音と共に、鎖は外れた。
「ありがとう、エリカ」
愛理は礼を言うと、嬉しそうにベッドから飛び降りた。それから、堅い床の感触を確かめるように、何回か足踏みをした。
「久しぶりです……この感触」
「どれぐらい、鎖に繋がれていたのですか?」
エリカが聞くと、愛理は顔を強張らせた。
「——ずっと。自分でもよく分からないくらい」
「ずっと?そうなんだ。誰にやられたのですか?」
「あなたの父親よ。私の双子のお姉さま——麗衣お姉さまは、北城龍之介の事を信頼していたのに」
「……え?どういうこと?」
エリカは困惑の色を隠せずにいた。
「私と麗衣お姉さまは、あなたの父親と同じ年齢なの。つまり、同級生ってこと。……これもまあ、三十年前までの事だけど」
「三十年前って——北城アカデミーが建てられた年じゃない!!」
愛理以外の全員が、疑問に首を傾げた。

 謎の細菌X——それは、未知の細菌である。この菌が人体に入ったことで起こりうる症状は確定されていない。しかし、摩訶不思議な反応が起こることだけは、解明されていた——。そう、年齢が遡ることも在り得るのだ。そしてそれは、一人の女性に当てはまっていた。
「それが愛理さん……って訳?」
沙羅が、不安げな表情で愛理に問う。愛理は首を縦に振り、「そうよ」と答えた。
「私は、実験台。北城龍之介によって、この細菌の、人体への影響を調べるために、実験台にされたのよ」
そう、あれは夏の日の事だった——
そう言って、藍原愛理は今までの経緯を語り始めた。

 そう、あれは夏の日の事だった。まだ年齢が遡っていない、私がごくごく普通の三〇歳の時だったわ。龍之介に呼び出されたのは。あ、勿論、麗衣も一緒だったわ。私達は、道路近くの杉林にやって来たの。ほら、あの綺麗な花畑があるところよ。そう、そこにいってね……。あの色とりどりの花畑には似合わない、灰色の箱を見つけたの。あの箱は、謎の細菌Xの、増殖にとても良い条件を含んだものらしくて——。あの箱の中にあった注射器を、龍之介が、私と麗衣の腕にブスリと刺したの。すると意識が朦朧としてきて、気が付いたらここに居たの。……え、注射器は何本あったかって?うーん、多分、十本くらいあったんじゃないかな。あれ、さわ子ちゃん……だっけ? どうしたの。顔色が悪いわよ。——ええッ! あなたも、あの花畑で、誰かに襲われたのね……。

 さわ子の「私も、あの場所で誰かに襲われた」という言葉で、藍原愛理は背中からひっくり返りそうになった。
「あなたも、あの花畑で、誰かに襲われたのね……」
「ええ」
相変わらず青ざめた顔で、さわ子が答える。しかし、愛理の方は至って冷静で、「ちょっと考えさせて」と言ったきり、黙り込んでしまった。
 ——数分後。
清々しい顔で、愛理が口を開く。
「さわ子ちゃん、あなた、細菌は投与されてないみたいよ」
「え……襲われたのに?」
「あなたを襲ったのは、きっと、玄次君よ。実はね、玄次君はああ見えて、とっても慈悲深いのよ」
「そうなんですか……」
「多分、あの時まだまだ幼かったあなたを見て、思い直したのね。X菌は投与しないって。だからあの日、玄次君はとても晴れやかな顔をしていたのね——」
「え、でも、だったらなんで今、私達を打ちのめそうとしているんですか?」
「玄次君は、あの日、北城龍之介から、酷い罰を受けたに違いないわ。アカデミーの邪魔をするような人間を、容赦なく殺せと……」
藍原愛理はそこまで言うと、溜息をついた。それから、エレベーターの入り口付近を人差し指で示した。
「あのエレベーターはね、実は、一度に二人しか乗れないの。でもね、このエレベーターは、北城龍之介が入り浸っている秘密の部屋に続いているのよ。さあ——誰が乗るの?」

>>259が入りませんでした。すみません。