ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 死神は君臨する【完結まで猛ダッシュ!!】 ( No.272 )
- 日時: 2011/12/23 20:29
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
—エピローグ 終わらない夏—
七月下旬。数え切れない程の蝉が鳴いていた。ぐわんぐわんと、鳴き声は波の様に押し寄せて。ったく、耳障りだなぁ……。
暗くて深い森の奥、切り株が一つと雑草しかない空間で、動かない死体の様に寝転がっていた僕は起き上った。今はまだ日中だから、暑くてたまらない。着ているワンピースが、だらだらと噴き出してくる汗のせいで、皮膚にへばり付いている。はっきり言って、気持ち悪い。
「奈菜様ぁ! 奈菜様ぁ! お仕事ですぅ!」
好い加減聞き慣れた甲高い声が、僕の耳元のすぐ近くで響く。びっくりして、僕は思わず声の主を睨む。それから、精一杯怖い顔を作り、
「……なんだ」
出来るだけ低い声で、たった三文字の短い言葉を口にする。先程の声の主——菜奈が、僕の耳元に更に唇を近付け、慌てた様に囁く。
「桐ケ谷市緑区、北城アカデミーで時空の歪みが発生しましたぁ! 今すぐに、また、関係者の記憶をリセットしないとぉ……」
「分かった。北城レイカ含む十数人の人間の記憶を、リセットするよ。七月十四日以前の記憶に戻せば、良いんでしょう?」
僕は、熟れた苺の様に甘い甘い声を出す。僕には、生まれた時から特別な能力があった。ある特定の人間が起こす行動によって、時空の歪みが起きた時。本人も含むその関係者の記憶を、ある程度遡らせるのだ。
「それにしても……。北城レイカの周りでは、時空の歪みが起きやすいんだなぁ」
「そのようですぅ。今回でもう九十九回目ですもの〜、好い加減飽きてきましたわ」
僕の何気ない独り言に、忠実な菜奈はいちいち答えてくれる。僕はくすっと笑う。菜奈が不思議そうに僕の顔を覗き込む。「どうかしました〜?」
僕は笑う。不思議そうにしていた菜奈も、笑う。僕たちの笑い声が、森に木霊する。
「ううん、別になんでもないよ。……さあ、そろそろ帰ろうか」
「はぁい」
僕たちは笑いながら、森の小道を辿る。時空の歪みを起こした張本人——北城レイカの、悲しみに歪む顔を想像しながら。
……え、何故物語の結末を教えてくれないの、——だって?
それはね——。
誰にも分からないから、だよ。
多分、世界は、ここでループしたままなのかもしれないね。
だから、このループが終わるまで、謎は解けないかもしれない。
……ふふふっ、これ全部、奈菜と菜奈の憶測なんだけどね——。
死神は君臨する・完