ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 死神は君臨する ( No.38 )
日時: 2011/09/02 21:19
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: Pmy7uzC3)
参照: http://ja.uncyclopedia.info/wiki/

—第二章 鉈握る少女—

 空が燃えていた。生暖かい風が吹いて、森の木々を揺らしていった。どこかで鴉が鳴いて、どこかに飛び立っていった。公園には誰もいなくて、砂場に置かれたままのスコップがついさっきまで子供たちが遊んでいたことを知らせていた。
 そんな夕暮れ時に、道路沿いの道を歩いていく影があった。桐ケ谷小学校の制服に身を包み、丸眼鏡をきっちりかけて、黒髪のショートヘアを揺らしている。——古森沙羅だ。ランドセルは背負っておらず、片手に持ったオカルト雑誌を時折、大事そうに見つめていた。
「今月号はどんな内容かしら?心霊写真特集はどうでもいいけど、本当にあった怖い話のコーナーは楽しみだわ」
そう呟いて、ふふっと小さく笑う。ふいに、背後からチャリンチャリンという軽い音が聞こえて、沙羅は反射的に脇によけた。横を、少女が乗った自転車が通り過ぎて行く。それを見て沙羅は、微かに目を細めた。未だ小学三年生だった頃の出来事を思い出したのだ。そう、あの日もこんな夕暮れだった——

 自転車に乗った少女が三人、道路沿いの道を走っていた。三人とも縦に並んで走っていて、一番後ろに沙羅がいた。沙羅の前にはレイカがいて、レイカの前にはさわ子がいた。
「沙羅ちゃーん!早くおいでよぅ」
さわ子が一瞬、振り返って叫んだ。さわ子はレイカとはまた違った美貌を持つ少女で、大人びた雰囲気を醸し出していた。身体能力も良くて、この急な坂道をあっという間に登ってしまった。沙羅から見れば、さわ子は今豆粒ぐらいの大きさに見える。
「はいはい。分かりました…っよ!」
絞り出すように言って、さっきより強めにペダルを漕ぐ。汗が額から流れ頬に伝わり、顎から滴り落ちていった。
——あの頃が一番楽しかった。さわ子が行方不明になるまでは。