ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 死神は君臨する ( No.52 )
日時: 2011/09/02 21:29
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: Pmy7uzC3)
参照: http://ja.uncyclopedia.info/wiki/

—第二章 鉈握る少女— 第二章をまとめ読みしたい方の為に

 空が燃えていた。生暖かい風が吹いて、森の木々を揺らしていった。どこかで鴉が鳴いて、どこかに飛び立っていった。公園には誰もいなくて、砂場に置かれたままのスコップがついさっきまで子供たちが遊んでいたことを知らせていた。
 そんな夕暮れ時に、道路沿いの道を歩いていく影があった。桐ケ谷小学校の制服に身を包み、丸眼鏡をきっちりかけて、黒髪のショートヘアを揺らしている。——古森沙羅だ。ランドセルは背負っておらず、片手に持ったオカルト雑誌を時折、大事そうに見つめていた。
「今月号はどんな内容かしら?心霊写真特集はどうでもいいけど、本当にあった怖い話のコーナーは楽しみだわ」
そう呟いて、ふふっと小さく笑う。ふいに、背後からチャリンチャリンという軽い音が聞こえて、沙羅は反射的に脇によけた。横を、少女が乗った自転車が通り過ぎて行く。それを見て沙羅は、微かに目を細めた。未だ小学三年生だった頃の出来事を思い出したのだ。そう、あの日もこんな夕暮れだった——

 自転車に乗った少女が三人、道路沿いの道を走っていた。三人とも縦に並んで走っていて、一番後ろに沙羅がいた。沙羅の前にはレイカがいて、レイカの前にはさわ子がいた。
「沙羅ちゃーん!早くおいでよぅ」
さわ子が一瞬、振り返って叫んだ。さわ子はレイカとはまた違った美貌を持つ少女で、大人びた雰囲気を醸し出していた。身体能力も良くて、この急な坂道をあっという間に登ってしまった。沙羅から見れば、さわ子は今豆粒ぐらいの大きさに見える。
「はいはい。分かりました…っよ!」
絞り出すように言って、さっきより強めにペダルを漕ぐ。汗が額から流れ頬に伝わり、顎から滴り落ちていった。
——あの頃が一番楽しかった。さわ子が行方不明になるまでは。
「すいませーん」

今まで思い出の海を漂っていた沙羅は、ハッと我に返った。声の主は片手にボストンバッグと紙切れを持った少年で、沙羅をじっと見上げていた。
「どうしましたか?」
沙羅が尋ねると、少年は握っていた紙切れを差し出した。クシャクシャの紙には住所と簡単な地図、そして『桐ケ谷商店街が目印だよん♪』という文字が書かれていた。
「桐ケ谷商店街がどこなのかよく分からないのですが、商店街はどこにあるんですか?」
「あぁ、桐ケ谷商店街ならこの坂を下って…あっ!言葉じゃ分かりにくいから、実際に案内しましょうか?」
沙羅が言うと少年は笑顔になって、
「えっ、本当ですか?ありがとうございます!」
と小さく頷いた。
「君の名前はなんて言うんですか?」
歩き始めながら沙羅が言った。沙羅に限らず、こういう時に誰もが無意識に言ってしまう言葉だ。
「えっ…?あっ、僕の名前は『きょう太』とだけ覚えておいてくれれば良いです」
少年は遠慮がちに言って、困った様に微笑んだ。沙羅は少し首を傾げたが「そっか…きょう太君かぁ」と呟いただけだった。
 それからはしばらく「好きな食べ物は何か」とか「夏休みは何をするのか」というような質問をしたり、オカルト雑誌について語ったりした。
そのうちに坂を下り終わり、住宅街の道を抜けて、いつの間にか商店街のすぐ近くまで来ていた。
「あ、ここまでで大丈夫です。ありがとうございました」
自称きょう太の少年は深々とお辞儀をして、商店街に向かって歩き始めた。その背中を沙羅は淋しそうに見つめていたが、自身もまた自宅を目指して歩き出した。

 街の片隅の一軒家の扉が開いて、中からゴスロリ服に身を包んだ少女が出てきた。よく見ると右手に鉈を握っているが、ふわふわに膨らんだスカートに隠されてあまり見えない。
「ふふふ…みんな、あのバカげた伝説を信じちゃってるのね…」
誰にともなく呟いて、クスクスと笑い始めた。