ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 空蝉は啼かない ( No.32 )
日時: 2011/08/22 21:49
名前: 紫雨((元:右左 ◆mXR.nLqpUY (ID: 8hgpVngW)
参照: http://ameblo.jp/kaenclone






彼らの持つ剣が交差するたびに、俺の部屋が荒れる。
既に勉強机なんて原形を留めていないし、ベッドの所々から綿がコンニチハしている。
対峙する二人からは殺気がとめどなく溢れてくるし。
ブラックなんて、俺が組んだ胡坐の上に座り、さも自分の物であるかのように抱きしめ寝ている。

「よくやるよな……こんな一少年なんかの為に」

ブラックの頭の上に顎を乗せて、ため息を吐く。
彼らは至極嬉しそうに戦闘しているが、ここに在住しているものとして破壊はやめてほしい(が、既に半壊している)。
もう少しで壁の色がガラリと変わりそうなので、此処で静止の声をいれようと思う。

「ちょっとや」「鬼灯クン、やめな」

女性の声に遮られた。
だが、その声に覚えがあるのか二人とも戦闘をやめる。
寝ていたブラックでさえ起き上がった。 それでも半分寝ているが。
いつの間にかいた女性は黒のタンクトップにショートパンツという出で立ち。
憎らしく笑みを浮かべていて、それをみた鬼灯さんは気に食わなそうに顔を顰めた。
暫くしてその横で優しく螺旋状に風が舞い、その渦中からおっとりした眼鏡の男性が現れた。

「おや。 閻魔様もいらしてたんですね」
「おお、レーダちゃんも来てたんかい」

二人はとても仲がいいようだ。 というか、今聞き流せない単語が聞こえたような。

「え、閻魔様? こんなラフな格好なのに? しかも女性っスか!」
「真夏のお爺さんのようでしょう。 もっと言ってやってください、“見えない”と」
「ひどくね!? 鬼灯クンてばそんなに閻魔様虐めて楽しい!?」
「まあ……それなりに」

短剣を鞘に納めて、懐に入れる。
地獄側はなんか兄妹みたいなノリである。
ふと、天界側を見るとレーダと呼ばれたお偉い様らしき人にお説教を受けている。

「全く、むやみに戦闘をするなといつも言っているでしょう。 ブラックも、パートナーなら止めなさい!」
「だあって天界はお堅いやつばっかだろー? 俺だって体動かしたいワケ」
「ゴールド触りたくないし言っても聞かないでしょ」

嗚呼、天原の駒にはあんなにもグダグダな奴が多いのだろうか。

「てか、レーダ……さん? って一体何者?」

言いにくそうに「さん」を付ける。
レーダさんは優しそうに笑って、答える。

「天界の長ですよ。 一番の権力者とでも言いましょうか」

大したことではなさそうに彼は言うが、それはかなりの大事だと思う。

「おさ、て……。 閻魔様と、同じような?」
「はい」

にこやかに微笑む。 なるほど、女受けがいい人だな。
じゃなくて。

「そんなに仲がいいなら、どうして戦争……? 止めればいいんじゃあ……」
「それはなりません」
「へ?」

自分でも、素っ頓狂な声を上げたと思う。
本当に彼らの世界はややこしい事ばかりだ。

「権力者である私でも、閻魔様でも、それは出来ません」
「あたしらもこう、縛られるものがあるわけ。 常人には理解できないほど強大なものに」

急にやさしそうな雰囲気やおどけた雰囲気を仕舞い、冷ややかな瞳で俺を射抜く。
鬼灯さんとゴールドとブラックは、敵同士であるにも関わらず壁を剥いで遊んでいる。
だけど、今の俺の脳内にそんな情報は入ってこない。


「キミはあたしらの何を知ってて、そんな位置にいるの?」