ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 空蝉は啼かない ( No.4 )
日時: 2011/08/10 21:34
名前: 紫雨((元:右左 ◆mXR.nLqpUY (ID: 8hgpVngW)
参照: http://ameblo.jp/kaenclone




第一話『現実を見ろ、前へ進め』



放課後。
俺の家で幼馴染の女の子と遊ぶ。
そういう計画だったはずなんだ、俺の脳内では。

「どうしてこんな事になっているのかな。 俺は説明を求む」

笠原実桜は微笑を浮かべ俺を見ている。
但し、彼女はその笑顔のまま石のように固まっているが。
鼓動すら打てていないようで、俺は独り言を言っていることになる。

「おーいー、なにお前シカト決め込むなって冗談激しいよ戻れってなあなあ」

動揺しすぎて訳が分からなくなる。
どうすればいいと思う。 俺は二次元世界に食い込んだ覚えはないぞ。

「……」

後方50センチに気配を察知しました。
きっとそれは酷く危うい気配であり、常人の俺が振り向いた瞬間倒れるくらいに背筋が凍ったわけですが。

今日は本当に、学校にとって災難な日だろうな。
先程友達からの一本の電話で知ったが、国語の教師が屋上に行ったまま行方不明だとかで、
お前も気をつけろよ、とご忠告を頂いたが。

——すでに死にそうなんですけど?

とりあえず、意を決して振り向こう。
ギリギリセーフかもしれない。 セーフであってくれ。

「あああ神様俺に力をくれい!」
「はい?」

……はい? はこっちの台詞なんですけど。
案の定、そこにいたのは色んな意味で恐ろしい「もの」でした。
角が生えていて吊り上った眼、尖った耳。 
色白の肌にそれに映える黒の浴衣、下駄を履いた男の子。
なにかで見た事のある風貌。

「……なんか地獄の……絵に描いてあったような…………?」
「鬼灯、ですが。 何でしょう、正体がばれたからには石臼で貴方をミンチにしないと駄目でしょうか」
「いーよ別にそんな地獄に沿わなくて!」

いやでもなんか違うよ。 凄いお茶目だよ。

「え、てゆーか実桜は? 実桜なんで固まってる?」

色々出過ぎて混乱するわ。
「鬼灯」って閻魔様のお付きとかそんな感じの人ですよね?
それ以前に実桜は? 俺の存在は?

「嗚呼離れた方がいいですよ。 彼女は立派な亡者ですので」
「はああああああ!? ジョーダンきついし、生きてんじゃん!」
「では、」

鬼灯さんは実桜の眼前まで行き、ツインテールにされた髪の先端を少し触る。
いとも簡単にそれは折れ、鬼灯さんの手の中に落ちた。

「これでも生きていると言えますでしょうか」

目が笑ってない。
それはきっと、一本の矢で心臓を打たれた感覚に近い。
俺は膝をついて実桜を見る。 先程と変わらず微笑を浮かべている。
……俺と一緒に家に来た彼女が亡者とか。

「空蝉は啼きませんよ。 彼女はもう、死んでいるのですから」

彼の言葉が刃物として俺に突き刺さる。
俺の存在を否定された気がして、生理的な涙さえ浮かぶ。




「現実を見ろ、愚か者」