ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 空蝉は啼かない ( No.9 )
日時: 2011/08/11 10:13
名前: 紫雨((元:右左 ◆mXR.nLqpUY (ID: 8hgpVngW)
参照: http://ameblo.jp/kaenclone





地獄だか天国だか、訳が分からない。
目の前の人が自分はコスプレイヤーですとでも言ってくれれば万事解決なのに。

「……まあ貴方が篠崎朔乃さんであれば何も困る事はないでしょう」

いや、あるんじゃね?
精神崩壊まで行かずに済んだ。 さて、自分の前で独り言をブツブツ言っている彼の事なんですが。

「問題はどうやって地獄まで連れて行くかですね。 何かとびきり重い犯罪をし」「何を言ってるのかな!」

俺の人生に多大に迷惑の掛かる事だけはしないでほしい。 切実に。
とびきり重い犯罪ってアレだろ。 殺人罪とか、未遂でもあるいはって感じか?
でも、俺にそんな事が出来る訳ない。
クラスメイトにさえ散々チキンと馬鹿にされ続けた俺をなめるな。

「ああ、そうだ。 彼女を殺したとしておきましょう」

そう言って鬼灯さんは実桜を指差す。

「え、いや、は? “しておく”ってそんなの出来んの? 閻魔様だろ、騙せるわけ?」
「審理をするのは十王ですが、まあ賄賂でも送っておきましょう」
「安いな地獄!」

どうしよう、突っ込みどころが満載だ。
地獄のシステムってこんなに安いものなんですか、それとも日本がハイテクなだけなんですか!

「つうかさ、何で俺地獄に連れて行かれ」「閻魔様のご命令ですから」「…………は?」

閻魔様の命令なら別に犯罪侵さなくてもよくないか。
客として招けや。
それよりも鬼灯さんが人(かどうかは危うい)の言う事を聞くという方が余程信じがたいぞ。
もう俺は何にも突っ込まない。

「戦闘経験がただでさえ少ないので、どうせなら何処かの国の戦乱に巻き込まれて殺人を犯してから地獄逝きますか?」
「殺す前に死ぬぞ俺」

変換がおかしかったなんて俺は知らない。 いや、色んな意味であっているのかもしれないが。

「戦闘経験がないと地獄と天国の戦争では生き残れませんよ」
「え、地獄に戦争とかあるんスか」
「むしろ戦闘の人手不足により貴方が選ばれたというか……」
「適当だな!」

経緯が知りたい。
鬼灯さんとの会話は意外と疲れるもんだ。 もっと大人かと思ってたぞ。

「兎も角一刻を争う出来事ですから、もう逝っちゃいますね地獄」

そう言って何やら用意を始める鬼灯さん。
地獄にいるという事は彼も何ら罪を犯したのだろうか、と心中を過る。
迷惑を被られている相手だというのに、何故か彼を身近に思わせる。


開け放たれている窓から吹き抜ける風が、少し肌寒く感じた。








「おいおいおいおい、どーすんの? 取られちゃったよ地獄に……」

見知らぬ家の、屋根の上。
こっちも人手不足だっつの、と青年は頭を掻く。
彼は額に青筋を浮かべて振り返る。

「お前の所為だぞ! ちゃんと追わないから!」

その方向にいたのは、先程まで屋上で任務を熟していた少女。

「任務があったんだよ。 それに、彼に天国は似合わないだろう」

わたしの隣なら似合うが、と少し膨れた桜色の唇で弧を描く。
恋心とは違うが、これもまた彼女の少ない女性らしい観点だろう。
青年は少女のパーカに付属しているフードを払いのけ、彼女の頬を横に引っ張る。

「ひはいほ、へんひゃいろりひょん(痛いぞ、変態ロリコン)」
「お前なんか主が止めてなきゃとっくに殺してんだかんな糞餓鬼」

青年は長めの金髪を風になびかせ、口と耳をチェーンで繋げたピアスを音を鳴らして揺らす。
ビジュアル系を意識した容姿は善人とは思えないが、会話から推測するに“天国”の人間なのだろう。

「あそこまでイレギュラーな人間そうそういねーんだからよォ」

手のひらに浮かぶ文字の輪の中央から、二挺のアサルトライフルを取り出す。

「ほら、強奪に行くぜ? ブラック」
「キミが言うと凄い腹立つんだけど滅びろゴールド」


次の瞬間には、彼らはその場から消え去っていた。