ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 切 り 裂 き 歌 ( No.1 )
- 日時: 2011/08/10 23:45
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 9K3DoDcc)
序章 始まりは一つの悪夢から
「助けて!! 助けてよ」
必死に泣き叫ぶ少年がそこにはいた。少年を脇に抱えるのは真っ黒な翼の大人たち。大して少年は真っ白な翼に鮮やかな金の瞳を持っている。髪は銀色で光を受けるたびにキラキラと輝いている。いくらもがいても、少年が大人たちの手から逃れることは出来ない。それほどに少年は非力で、ちっぽけだから。暴れれば暴れるほどに羽根は抜け落ちて、少年の体力は削がれていくだけ。
悲鳴を枯れ始めた声も無視して少年は叫び声を上げ続ける。黒い翼の大人たちは低く舌打ちをして少年を睨みつけている。それでも殺すことではなく、連れ去ることが目的なのだ。少年の口に布を詰め込んで、黙らせる。突然口に布を詰め込まれて、少年は苦しげに体を捻らせる。
「そいつを放せ!!」
黒髪の少年が凄い速さで銀髪の少年を抱える、黒い翼の大人たちに突進した。冷たい青の瞳は鋭く黒い翼の大人を睨みつける。この少年の背中にも銀髪の少年と同様に真っ白な翼があった。銀髪の少年を抱えていた大人たちが転がるのを見れば黒髪の少年は素早く銀髪の少年を抱きかかえる。叫ぶ黒い翼の大人を無視して素早くその場を飛び去る。
怯えたように自分に抱きついてくる銀髪の少年の頭を撫で、口の中に詰め込まれた布を放り捨て、後ろを確認する。そこには黒い翼の大人なんて一人もいやしない。
「クロス、前!!」
銀髪の少年が悲鳴にも似た声を上げた。黒髪の少年、クロスがハッとして前を向いたときにはもう、黒い翼の大人たちは拳銃の引き金を引いていた。武器にしては軽い音が響く。クロスの肩に激痛が走り、クロスは悲鳴を上げ、銀髪の少年を落っことしてしまう。クロスの肩から流れ出す赤い液体を見て銀髪の少年は悲鳴を上げた。
クロスが銀髪の少年の手を引こうとしているうちに黒い翼の大人たちは少年達の目の前に迫っている。黒い光が走ったかと思えばクロスが力なく倒れてしまって、そこで銀髪の少年はパニックに陥る。その後意識は闇に飲まれるかのように消えていった。
*
「嫌な夢……」
もぞりと、腰の辺りまで伸びた銀髪の少年、春日 優希(カスガ ユウキ)が体を起こした。黒っぽい金色の瞳はどこか不思議な光を宿している。ため息をついて優希はベッドから出て、伸びをする。その表情は不愉快そうな色が見えた。半ば八つ当たり気味に、鳴り始めた目覚ましを止める。
押入れを改造したベッドで眠っていた、肩より二、三cm程度短い黒髪に、僅かにくすんだ青い瞳の少年、冬杜 黒須(フユモリ クロス)が間抜けな欠伸をしながら不思議そうに優希を眺める。それに気づいた優希はより一層顔を不機嫌そうなものに変えた。
「どうしたんだよ、やたら不機嫌みたいだけど?」
「……嫌な夢を見た。悪夢だよ、悪夢」
押入れベッドから出てきて、優希の頭を撫でてやる黒須。優希は僅かに安心したように顔をほころばせた。それを見た黒須もフッと笑って優希から離れて、押入れベッドに座る。
「翼ってことは……天使か」
黒須が本に視線を落とし自分のことを見ていないことを確認した後に、優希は小さな声で呟いた。それは妙に面倒くさそうな、気だるげな声だった。